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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ストラス&ルイの場合 10

 その日の午後から宣言通りにアルシエルは魔力を徐々に解放して、ラマシュトゥをおびき寄せる作戦に切り替えた。とはいっても突然相手は現れる訳もなく、平穏なままに午後は過ぎて皆は何事もなかったことにホッとしつつも、どこか不安な気持ちを抱えたまま夜を迎えた。翌朝になってリツとアルシエル、ベルフェゴールは学校を欠席することにしたが、ムツキとアサヒ、三夜美は登校を選び、念のためにマゴトがひっそりと同行することになった。ルイは元々登校してストラスがマゴトのようについていくつもりだった。ハルは少女ということもあり念のために休ませた。カイムも今日は待機することになった。


「じゃ、行ってきます!」


 妊婦でない方のルイはあまり気にすることもなく登校したが、妊婦のルイの方はやや不安そうにその姿を見送った。きさらぎきりとのマネージャーがやってきて彼もやがて出掛けて行った。


「小学生くらいの子どもの姿で昼間にうろつくと目立つな…もう少し小さくなるか。こっちなら使えるからな」


 ライラは更に縮んで幼くなる。リツはここまで幼児化したアルシエルを見たことがなかったので、可愛さのあまり思わず抱きしめてしまった。


「かわいい!!」


「リツ!こら、止めろ」


 するとベルフェゴール大佐が高校生くらいの姿に変わって言った。


「陛下、そのうち俺とその辺を散歩でもしませんか?」


「…仕方ないな。皆が出かけたら試すか」


 アルシエルはどこか不本意そうに大佐を見上げて言った。



***



 一方、登校したルイだったが上履きに履き替えている最中に、複数の女子から話しかけられていた。姿を現していないストラスは耳を澄ませてその会話の内容を盗み聞きした。


「ねぇねぇ、転校生に告白されたってホント?」


「え?もう広まってるの?早いなぁ」


 ルイは困ったように笑う。


「えーっ!ミアっち、抜け駆けはするなって言われたのに早速破ったの?」


「みたいだよ?ルイはみんなのルイなのにねー協定破ったらマズいって。ミユカ絶対怒るって!」


「えーいつの間に僕って共有財産の扱いになってんの?」


 ルイは爽やかに笑う。


(なーにが、みんなのルイだ!ルイの魂も肉体も俺が所有してるんだぞ。まったく…!)


 ストラスは思いのほか苛立つ自分に驚いた。中三ともなれば小学生とは訳が違う。中にはとても大人びた少女もいた。ルイは話しながら歩き出す。廊下の途中に水谷がいて何やら妙な顔をするのが分かった。


「水谷先生、おはようございます!」


 教師の水谷は若いせいもあるのか少女たちには人気なようで、皆が笑って挨拶をする。


「おはよう!」


 水谷も挨拶を返して、ルイにも声をかけた。


「今日は二人は…休みなの?」


「はい、ちょっと体調が悪いみたいで…」


「暮林くんも無理はしないようにね」


「はーい」


 ルイはそのまま教室に向かう。ストラスは一定の距離を空けて追いかけた。そのときやけに存在感の強い少女が廊下の向こうに見えた。深愛だとすぐに分かる。何の転生者なのだろうとストラスは訝しんだ。声こそ掛けてはこなかったが彼女はルイに向かって射るような視線を送った。


(怖いなぁ。もうすでに女だ)


 本当に妊娠しているのだろうかとストラスは様子を窺う。この距離ではさすがに分からない。そのまま様子を探ることにする。ルイはクラスメイトの少年に話しかけられていた。


「ルイ、転入生と付き合うってホント?」


「付き合わないよ!僕には同性の契約パートナーがいるって、何回言ったら分かってくれるの?だから誰とも付き合うつもりはないよ」


 ルイは登校早々に続く話題に辟易した様子でつぶやいた。



***



 校舎の上から全体的に俯瞰しながらストラスは気配を探っていた。ルイの居場所をチェックしながら、さりげなく深愛の気配も読んでいると、水谷が生徒指導室に深愛を呼んで話を始めたのが分かった。


「どうかな?少し学校には慣れたかな?この記録は一応ボイスレコーダーに残すけどいいかな?」


「……まだ…というか、私、あまり好かれてないみたいで…えっ?残すのは嫌です…だったら私話しません!!」


「…なら仕方ないね。切るよ。でも今回だけだからね。で?どうしてそう思うの?」


「…クラスの女子から…無視されてて…だから…」


「えっ?そうなの?」


「先生…」


 深愛は突然泣き出して水谷にすがりつこうとした。けれども水谷は慌てて身体を離す。


「ちょっと…まずは少し落ち着つこうか!!設楽(したら)さん!僕は先生で君は生徒だ。きちんと適切な距離を保って話をしよう」


「……」


 深愛は涙を流しながら突然制服のボタンを引きちぎると盛大な悲鳴を上げた。


「誰か!!助けて!!」


(おいおい…!)


 ストラスはその奇行に呆れ返った。


「何があったの!?」


「水谷先生…どういうことですか?」


 職員室から数人の教師がかけつけてくる。水谷は両手を上げて首を横に振る。深愛は胸元を押さえて震えていた。


「僕は何もしてません!!」


「設楽さん、どうしたの?」


 女性の教員が肩を抱いて優しく尋ねると、彼女は震えながら言った。


「水谷先生が…急に…」


「保健室に連れていきます。水谷先生は私と校長室に」


 歳上の教員がそう言って水谷を連れてゆく。


(マズいことになったな…カメラ、録画してるよな?)


(あー?なんだよ、当然だろ)


(校長室のパソコンをハッキングするか…あぁ、まったく何なんだよこの深愛って女は!)


 ストラスはため息をつきながらタブレットを操作する。学校のシステムに侵入するのは企業よりも容易かった。そもそも侵入されることを想定していないに等しいセキュリティだ。ストラスは校長のパソコンにカメラの録画映像を送りつける。校長はパソコンで何やらゲームをしているところだったが、届いた映像を不審そうにクリックした。


「……なんだこれは!?」


 ちょうどそこに歳上の教員と共に水谷が入ってきた。


「校長先生、お時間よろしいでしょうか。水谷先生が大問題を起こしまして…」


「ですから、僕は何もしてません!!」


「もしかして、この映像の件かな?善意の第三者と名乗る人物から…突然送られてきたんだよ。何かと思ったら…」


 水谷を連れてきた教員は録画記録を見て、それから水谷の顔をたっぷりと二度見した。


「えっ?もしかして盗撮されていたのか?いや、それにしても、これは……!!水谷先生は嵌められただけじゃないか!」


「だから、言ってるでしょう。彼女がいきなりブラウスの襟元をこうして乱して悲鳴を上げたって…!僕は抱きつかれたから、身体を離して落ち着くように言っただけです!」


「水谷先生、すみませんでした」


 歳上の教員は即座に謝罪する。水谷は言った。


「いえ…誰であっても…この状況ならそう判断すると思います…なぜ、そんなことをしたのかは分かりませんが、この先はスクールカウンセラーに対応してもらった方がいいと思います。それと、途中少し抜けてますが…同じ会話がここにも録音されています。映像と照合して下さって結構です」


 水谷はボイスレコーダーを差し出す。校長は再生して頷いた。


「……この子は転入生だね。設楽さんといったか…いやはや、こうなると得てして被害者は生徒側で加害者は教員と見られる、最悪なケースだな…。君は若くて生徒も心を開きやすいと思ってお願いしたのだが、こうなると女生徒には女性の教員にしないといけないね…女性のスクールカウンセラーを呼ぼう。で、今生徒の方は?」


「西山先生と保健室にいます」


「分かった。水谷先生は少しここにいて下さい。変に話が広まらないうちに対応しておかないと。本当に監視カメラをつけないとダメかもしれないな。こうなってくると…しかし区の予算的にそこまでは…」


 校長はそう言いながら席を立つ。


「この映像に関しては色々と問題もあるが…こんなことで将来ある若い先生を潰す訳にはいかないからね」


 校長は厳しい顔でそう言って保健室へと向かった。



***



 その頃保健室では、設楽が涙を流しながら震えていた。


「怖かったわね。もう大丈夫だから…」


 西山は設楽の頭を撫でる。水谷先生は若過ぎるからこういうことになったに違いないと思っていた。設楽はとても可愛らしい生徒だ。目立つ。中三にしては発育もいい。二人きりで話していたらこうなることがあってもおかしくはないと思ってしまった。まったく男は、と西山は憤慨した。

 そのとき保健室のドアがノックされて校長の声がした。養護教諭がドアを開ける。それだけでも設楽はビクッとした。


「大丈夫。校長先生が来てくれただけだから」


「……怖いんです…」


 校長はヒソヒソと養護教諭と話していた。養護教諭がえっ?と声を上げて困ったようにこちらを見るのが分かった。


「設楽さん、君は水谷先生に個人的な恨みでもあったのかい?今日のことより前に何か嫌なことをされたとか…」


「えっ?」


 設楽は顔を上げて眉をひそめる。


「水谷先生は…優しく声をかけてくれて…だから…いきなり…こんなことをするなんて…思ってなくて…」


「設楽さん、それは自分でやったんだよね。どうしてすがりついた君から離れて、適切な距離を保って話そうと言った先生が、そんなことをしたと言ったんだい?」


 校長の言葉に言い返したのは西山だった。


「それは水谷先生がそう言ったんですか!?この期に及んでなお罪を認めないなんて…!!校長先生は水谷先生のその言葉を信じるんですか?」


「信じるも信じないも…そのときの証拠映像が残っているんだ」


「は?」


 声を上げたのは設楽だった。


「だって、ボイスレコーダーは切るって…!ウソだったの?」


「ウソじゃないよ。水谷先生は一度は切った。でも途中から君の言動が怪しくなってきたから、もう一度スイッチを入れたそうだ。だから、僕が君に落ち着くように言っている声は録音されているんだよ」


「く、口でならどうとでも言えるじゃない!落ち着かせる言葉を言いながら、私を襲ったくせに!!」


「でもね、もう一つ映像記録が残っているんだ。だから、君が生徒指導室で自分の手でブラウスの胸元をわざと開けたのも…先生がその間君からは離れていたのも、全部映っているんだよ…監視カメラに…」


 校長はそこで思わずそう言ってしまった。校長の言葉に設楽は目を見開いて突然低い声で言った。


「…どいつもこいつも邪魔をして…下等生物のくせに!」


「設楽さん?」


 西山は驚いて、とても少女とは思えないしわがれた声を出した設楽をあ然として見返した。 

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