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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ミカエル&ルシフェルの場合

 翌日は皆休みとあっていつもよりものんびりと起床したが、これまでの休日とは違って、それぞれがどこか落ち着かない様子をしていた。


「あの、何かできることがあれば遠慮なく…」


 オセがそう言って隣の成瀬も頷いた。


「そういえば、最近二人、やけに激しくないか?昨日も暴れてる気配がしたんだけど…」


 珈琲を飲んでいたストラスに言われた二人は途端に顔を見合わせて苦笑した。


「あ、それでしたら…あの…実は最近…護身術なども教えていまして…そのせいです、うるさくてすみません」


 オセの言葉にストラスは納得した。


「それでなのか。成瀬くん、ちょっと筋肉ついた?」


「えっ?分かりますか!?プロテイン飲んでみたり…筋トレもしていて…あの…何かあったときでもせめて足手まといにはなりたくないなって…そういう気持ちです…自分がラマシュトゥと戦っても勝てないのは分かってますけど…」


 成瀬は小声でそう言って、今朝はやけに凛々しい姿のリツをまぶしそうに見た。今は天使の姿をしていて膝の上にライラを乗せていた。リツは難しい顔をしてタブレットを見ている。こんな表情をするとまるで本物の司令官のように見えると思った。そしてその近くに座って朝食を摂っているミカエルも、いつもとは違って真面目な顔付きをしていた。


「…私は…この家の魔力を強めてラマシュトゥをおびき寄せる案にはやっぱり反対だよ」


 社長の言葉に宮森はハラハラした顔つきになる。先ほどからこの話題は平行線を辿っていた。


「だって、どうして毎回僕らがそれを引き受けなきゃならない訳?前回の駆除だってこちらの善意で行った訳で…それを当たり前のように依頼されるのは違うと思うんだけど。それに私は妊婦を危険には晒したくない」


「…それは私だって同じだ。だが手をこまねいていてこれ以上一般市民が巻き込まれるのは不本意だ」


 ライラの言葉にミカエルも頷く。


「おびき寄せてくれれば私が斬るから、問題ないだろう」


「…君を信用していない訳じゃないですが…私はこの家におびき寄せるのは反対だと言ってるんだ。魔法陣に逃げ込まれて魔界に移動されても困るんです…」


「だから、そんなことは起こさせないよ」


 不毛な会話が続く。そのときバンッとテーブルを叩く音が響いた。ギョッとしたのは隣に座っていたベルゼブブだった。なぜ今日エイシェトは男の姿なのだろうと、昨日の経緯を知らない社長はテーブルを叩いて立ち上がったエイシェトを不思議そうに見つめた。


「ルシフェル…もう黙っているのも限界だから言わせてもらう」 


「止めるんだ、エイシェト…!!」


 ベルゼブブが急に動揺する。


「私が妊娠するのがもう懲り懲りだと思ったのは、ラマシュトゥに腹の子を喰われたからだよ。その記憶を昨日ミカエルに共有した。ミカエルは私の見たラマシュトゥを記憶した…ルシフェルは噂で聞いただけだろ?実物を見た訳じゃない。私がラマシュトゥに腹を喰われたのは…魔王の子を身籠っていたせいだ…昇進と引き換えに私を魔王に差し出した夫はそのことを隠した。だから、私のような悪魔は他にもいたかもしれないということだ。過去の事件記録に私の名前は記されていない。それでも恥を忍んで初めてミカエルに見せた私の記憶を君は無駄にしろと言うのか?」


「そ、そんなことは言ってない!エイシェトが…魔王の子を身籠っていただって…!?」


 ルシフェルは慌てたが、傍らのベルゼブブがなぜか安堵した表情になったのは見逃さなかった。ベルゼブブが止めようとしたのは別の話だったのか?とルシフェルは訝しむ。


「君たち…私にまだ何か隠しているだろう?何なんだ?もう子ども扱いは止めろと言ったはずだよ?言って?」


 ルシフェルは周囲を見渡した。よく見ればこの場には宮本や三夜美、ハルはいない。ケイもだ。彼らはまだぐっすりと眠っているようだった。昨夜遅くに帰ってきた、きさらぎきりともアイムと眠っている。魔力で眠らせているのかもしれないと思った。マゴトは少し離れた席に座って居心地が悪そうな顔をしていた。


「…ルシフェル…君は、自分の親が無関係な人を襲っていたとしても、知らぬ存ぜぬで見過ごすのかい?」 


 ミカエルに静かに尋ねられて、ルシフェルは何の比喩かと思ったが、ストラスの顔色が変わったのが分かった。なぜストラスは後から生まれたのに毎回知っているのかと彼は腹立たしく思った。ミカエルは世間話を始めるような口調で言った。


「ストラスと彼の使い魔…?何だか監視カメラみたいなのが話してるのを私はうっかり聞いてしまったんだよ。私はストラスの父上とはよく剣を交えた仲だった。だから同じ名を継いだストラスに興味もあったんだ。彼の使い魔は父上の助手の悪魔だった。だから、ラマシュトゥに襲われた妊婦のことも、ラマシュトゥのことも知っていたんだ…彼だってそんな話を聞かされて内心では困っているんだよ。手に余るだろう。今更自分の幼い頃に起こった凄惨な事件の真相を暴かれても」


「…ラマシュトゥは…いったい…何なんです?」


 ルシフェルは恐る恐る口を開く。ここまで隠すからには嫌な話なのだろうとルシフェルは予感した。ミカエルは彼の目を見つめる。


「君の母上だよ。母君は乱心のあまり、ラマシュトゥに成り代わってしまった。契約したのかまでは分からないけど…ただエイシェトの記憶を見る限り、姿はわりと簡単に変えられるようだ。女の姿にも獣の姿にも…それが混ざり合った姿にも…母上はラマシュトゥと混ざって、その力を手に入れた」


「は…?そんな…ばかな…」


 ルシフェルは笑おうとして失敗した。ルシフェルの脳裏に口の周りを赤くしたライオンのような顔に女の長い髪を垂らした姿が見えた。ミカエルが記憶を共有したからだった。その髪についている飾りを見てルシフェルは絶望した。その飾りには見覚えがあった。少女姿の母が夫である魔王に買ってもらったのだと嬉しそうにそれをつけているのを見たことがあったからだった。それにライオンの頭に生えている髪は紛れもなく母の黒髪だった。自分の髪と同じ色だ。


「…どうして…?母は…そんなものに…なってしまったんだ?」


「それは君を玉座に座らせたかったからに決まってるよ。だから女の腹にいる魔王の血を引く他の子を襲って食べ尽くした…まぁ、巻き込まれたのかたまに違う悪魔もいたみたいだけど、ほぼほぼ魔王の子だそうだよ?アルシエル軍が魔王の脅威となり得ると判断した魔王は、まずは妻を寝返らせて結束をバラバラにしようと企んだんだ。その次には…幽閉した夫…その辺りはもう知っているんでしょ?今もなおアルシエルの気配を追って襲うのは、彼を玉座の簒奪者だと思っているからだよ。どうだい?君が前に出て行って、自分が玉座に再び座るとでも伝えてみるかい?そうすれば案外安心して無意味な殺戮は終わるかもしれない…」


 ミカエルは冷静に珈琲を一口飲んだ。フィランジェルはかつての上官はまさに、こんな風に涼しい顔で周囲の天使をも怖がらせていたことを思い出した。そして今彼はルシフェルを静かに責めていた。


「嫌だだめだと言うのは簡単だけど、では他にどうするというんだい?私は君に自分の母親だった者を斬らせたくはないと、そのくらいの感情は持ち合わせているんだよ?ここにいる悪魔だって少なからず第一夫人の顔見知りはいるだろう。だからほぼ関係のない私が斬ると言っているんだ。それとも君は私がかつて何と呼ばれていたかも忘れてしまったのか?冷徹のミカエル、私が通り過ぎた場所には悪魔の累々たる屍(しかばね)の山が築かれる…。第一夫人だかラマシュトゥだか知らないが、この場にいる妊婦にとって害悪にしかならないのなら、そのミカエルが始末すると再三言っているんだよ?」


 ミカエルはルシフェルの顔をじっと見た。


「君だって事件が起きた頃は幼い子どもだった…だから、知らなくて当然なんだよ。大人は悪い話を子どもの耳には入れたがらないものだから…君の母上がそうなってしまった深い理由は分からないけれど、唯一確かなのは君に玉座を与えたかったことなんだ。だって仮に妊婦たちが腹を喰われなかったら未来はどうなっていた?後継者を名乗る者が大勢現れて、たくさんの派閥ができて魔界は混乱し統一は更に遅れただろう…もっと大勢の悪魔が内紛で死んだかもしれない…君の母上はラマシュトゥとなってそれを止めたんだ。今も…その記憶が残っているのはちょっと厄介だったけれど…」


 ルシフェルは両手で顔を覆って上を向く。困惑しているのを感じ取ったイチカがルシフェルの肩にそっと手を触れた。


「ソーシ、俺は、おびき寄せてもいいと思うよ。だって、どこで誰が襲われるかも分からないよりは…こっちに来てもらって自分の陣地で戦った方が安全だと思うんだ。だって…街中でミカエルに剣を振り回せっていうの?悪目立ちするだけだろ。それとも…ソーシは説得する?言葉が通じるなら…って話だけどさ…」


「あぁ…そっか。だから君たちは…隠そうとしていたのか。私は…どうして魔王の子…なんだろうね…想像していたよりも何倍も酷くて…吐き気がするよ…」


 ルシフェルは力なく言った。

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