ストラス&ルイの場合 9
結局、少女姿のベルフェゴール大佐とカイムはムツキも交えて三人で仲良く混浴をして、美少女と美少年に弄ばれたムツキは少しのぼせて、ベッドに転がっていた。
(お父さんもお母さんも、ムツキとお風呂に入ってズルい!僕もムツキを弄びたい!!)
卵の中からフェルムの声がして、大佐は大人の姿に戻ったカイムから足をマッサージされていた途中だったが、思わず笑い声を上げた。
「フェルム、弄ぶって意味分かってて使ってるか?」
(分かってるよ!だってムツキの顔赤いもん!)
「少し風呂に浸かりすぎたんだよ。ムツキ、冷凍庫にアイスキャンデー入ってるぞ」
「あー食べようかな」
ムツキがやっとのことで起き上がると、カイムがすぐに冷凍庫を開けて小さなトレイにアイスキャンデーを乗せてやってきた。
「大佐はたまにこぼすので、良かったら使って下さい」
「ありがとう…」
ムツキはミルクの味のするアイスキャンデーを口に入れた。大佐がニヤニヤしながら見ているので、何を想像しているのかとムツキは思いながら大佐の顔を見返した。
「なに?」
「いや、元インキュバスって、なんかアイス食っててもエロいなーと思って見てただけ」
「はぁ!?大佐の想像力がありすぎなだけだと思うけど!」
「ムツキ、気にせずに食べて下さい。大佐はからかいたいだけなんですから」
「いっ…痛いって!…ちょっと気持ちいいけど…」
大佐は言ったがカイムは無視してマッサージを続ける。
「無駄に広いから三人でも寝れるな。俺も縮んでるからムツキを真ん中にして寝るぞ」
「えっ!?いや、僕…自分の部屋に戻るよ…」
「川の字で寝りゃいいんだよ」
「ムツキ、その方が魔力も安定しますから。今夜は大佐は分裂しない方がいいので、皆で寝ましょう。寝る準備が整い次第ベッドの周辺に魔力を張り巡らせますから、終わったら戻ってきて下さい」
ムツキは食べ終わったアイスのゴミを分別して捨てると、歯を磨きに行った。少し緊張しながら歯を磨いていると、大佐の歯ブラシに歯磨き粉をつけてカイムがベッドに持っていくのが見えた。大佐はそこで歯を磨く。やがてカイムが抱き上げて大佐を連れて来たので、ムツキは洗面所から避けた。大佐は片手でカイムに掴まりながらうがいを済ませる。立っている足がブルブルと震えているのを見て、本当に少女姿の大佐は立っているのもやっとの状態の足なのだとムツキは思って胸が痛んだ。
「格好わるいよなぁ…」
カイムはぼやく大佐を抱き上げると再びベッドに横たえる。歯磨きを終えたムツキが遠慮がちにベッドに腰掛けると、悪魔サイズのカイムがやってきて、ひょいと持ち上げて大佐の隣に寝かせられてしまった。カイムがベッドの周辺に向かって手をかざすと、一瞬稲妻のような光が走り、ベッド周辺とその横のテーブルに置かれた孵卵器にまで魔力が満たされるのが分かった。カイムはそのままムツキの隣に横になる。悪魔姿のカイムは、人のサイズの時とそこまで大幅に何かが変わった訳でもないのに、魔力のせいなのかどこかミステリアスな雰囲気が増していてムツキはドキドキしてしまった。しかもどういう訳か大佐もカイムも自分の方を見ている。天井を見つめながら電気の消えた部屋でムツキは固まっていた。
(こんなの…眠れるわけない!!)
ムツキは両側から二人の顔が近づいてきてほぼ同時に頬に口付けされるのを感じた。
「おやすみ、ムツキ」
「おやすみなさい、ムツキ」
両方から囁かれる。眠れないと思っていたのに、なぜかムツキはその次の瞬間にはまぶたが重くなり目を閉じてしまった。すやすやと眠ったムツキの顔を見て大佐はニヤッと笑う。
「可愛いなぁ…」
「ですよね」
「食いたいくらいだ」
大佐はムツキの唇に軽い口付けをした。顔を離すとカイムの手が大佐の頬に触れて唇が重なった。しばらく口付けを交わしながら大佐はカイムの魔力を流し込まれる。身体の隅々にまで魔力を行き渡らせてから、ようやくカイムは唇を離した。
「大佐も、おやすみなさい」
大佐はムツキを挟んだ状態でカイムの腕に抱きしめられた。
「…フェルムが生まれたらどうやって寝るかなぁ…」
「気の早い悩みですよ?それに…フェルムはフィリエルと一緒の方がいいかもしれませんし」
「は!?そんなの、アルシエルが許さないだろう。娘がそんな小さなうちから男と一緒に寝るだなんて!」
「彼らが待ち焦がれた時間の長さを考えたら、少しくらいは目をつぶってもいいと思いますけど…」
「そんなことしたら、すぐに孫ができて俺やカイムは、おじいちゃん、おばあちゃんと呼ばれるようになるんだぞ?」
「だから飛躍しすぎですって…」
「俺の子なんだから、手が早いに決まってるだろ!」
「そこ…堂々と宣言することですか?まったく…」
カイムは苦笑する。大佐も思わず笑ってしまった。
「…大佐も早く休んだ方がいいですから…」
そう言ってカイムは再び唇を重ねて少し強めの眠りを促す魔力を流す。
「あ…カイム…」
大佐は何かを言いかけたが諦めたのか、ぼんやりとした瞳でカイムを見つめた。
「おやすみなさい」
カイムが大佐のまぶたに手を当てると大佐は目を閉じた。やがて静かな寝息が聞こえてくる。カイムは大佐の寝顔を見つめながら、ストラスに知らされた内容について考えてため息をついた。
(アグラットの喰われた子は…魔王の子だった…)
だからアグラットは大佐には告げなかったのだろうか、そんなことを考える。第一夫人のアグラットと大佐の後にはすでに子どもが二人いて、もうとっくの昔に成人していた。
(昔の話を蒸し返しても、その事実が変わる訳ではない…)
カイムはそう思いながらも、その事実を解き明かす中で、今誰が狙われやすい状況にあるかの判断がついたことも理解していた。
(同じ轍を踏まないためにも…ラマシュトゥは絶対に排除しなければ。たとえそれが魔王の第一夫人だったとしても…)
カイムはそう思いながら目を閉じる。ラマシュトゥがどこに潜んでいるのか分からない今、やはり心のどこかでは不安だった。
(何よりフェルムを守らなくては…)
暗い部屋の中で淡く光る緻密な魔法陣を見つめているうちに、カイムも眠くなってきた。カイムはそっと目を閉じた。
***
その頃少年姿のルイは夢の領域でストラスに抱かれていた。ルイが求めたからでもあったが、ストラスの魔力がいつもよりも不安定だったのをルイが敏感に感じ取ったせいでもあった。
(大丈夫?ストラス?)
お互いの欲望のままに身体を重ね合って疲労した二人はベッドの中でその余韻に浸っていた。ストラスがこの時間に口にする魔界の煙草の匂いがルイは好きだった。魔力の濃い煙草をストラスは口にする。ルイが起き上がるとストラスは煙草を差し出した。ルイは一口軽く吸った。以前はクラクラしたのに、この魔力でも今は平気だった。
(…大丈夫…かな。色々と知らなくていいことも知ってしまうと…モヤモヤするな)
(僕が聞いてもいい話?)
(あまり良くはないけど…事件としては魔界では決着したことになってるんだよなぁ。ラマシュトゥ事件はさ。でもまとめられた資料は事件の表層をなぞっていただけで、根本は解決してなかった…ってところなんだろうな)
(うーん…結局ラマシュトゥって何なの?)
(そこなんだよな。一番の問題は。ラマシュトゥは…どうやら魔王の第一夫人が…魔物と同化しちまった…そういう存在なんだよ。第一夫人は他の悪魔の腹に宿った魔王の子を尽く食い殺した…要するにラマシュトゥは今もルシフェルを玉座に座らせたいんだよ…だから陛下は玉座の簒奪者であり、それに従う俺らも敵に見做されるって訳なんだな…)
(えぇ!?社長って、魔界の玉座に座る気あるの?)
(恐らくあんまりないだろうなぁ…せいぜいが、陛下と協力して魔界の平和に貢献します、父親のように無益な戦いは二度としません、って宣言するくらいだろうな。宣言するにしたってこの世界でやりたいことをやってからなら、戻ってもいいかなってくらいの雰囲気なんだ…でもラマシュトゥはそんなことは理解しない。玉座に相応しいのはルシフェルただ一人と信じて疑わない…)
(迷惑以外の何物でもないじゃん…そういう見当違いの愛って重いよね…私はこんなにあなたのことを思ってるのに!って言いながら本当はその自分に酔ってるだけで相手の話なんかちっとも聞かないの)
(ルイ…やけに具体的だけど、学校で何か嫌なことでもあったか?)
(え?あーまぁ。女の子に告白されてさ。僕には好きな人がいるから無理って断ったら、その人って歳上の外国人の男なんでしょ?単なるロリコンじゃない!ルイは騙されてるって言われて腹が立ってさ…)
(おーロリコンねぇ。あながち嘘ではないな。俺たちの年齢差、何百歳だと思ってんだよ)
ストラスは後ろからルイを抱きしめて面白そうに笑った。
(で?)
(それで…十五歳でも入籍できる外国に行って婚姻届を出したって言ったら、ビンタされそうになったんだけど…水谷先生が止めてくれて大丈夫だった…)
(おーレリエル、役に立ってくれてるじゃん。ってか、そういうこともちゃんと俺に話してくれよ?)
ストラスが言うとルイは困ったような顔をした。
(だって…毎日誰かしらに似たようなこと言われてるよ?ルイくん、付き合おうとか、セフレでもいいって言ってくる子もいるし…男イケるなら俺どう?とか…そんなの毎日聞きたい?)
(あーなんかそいつらに殺意が湧いてくるけど、一応聞くよ。変なのがいると困るからな)
(変なのっていえば…転校初日にいきなり告ってきた子もいたけど…深い愛って書いて深愛ですって自己紹介した子…全然転生前の気配が読めないからちょっと気になってさ…名前からしてすでになんか重いし…)
ルイは思い浮かべたイメージをストラスに伝える。ストラスは眉をピクリと上げた。驚くほどの美少女だ。
(しかもその子…僕にこう言ったんだよ。お腹の子の父親になってくれないかって。妊娠してるって…本人は言ってて…いきなりそんなこと言われたから驚いてさ…とりあえず、ごめん、その話は聞かなかったことにするって断ったら、僕が断ると思ってなかったのかすごく怖い顔して…女の子ってやっぱ怖いなって思ったって、全然面白くない話しかないよ…)
(うーん、ルイ、ちょっと聞くけど、やけに告白され出したのってもしかしてここ最近か?)
(えっと…キスしようとかそういう軽いふざけたノリのなら前もあったけど、ガチ目なやつはここ最近だよ…)
(なるほどね。そして転校生ねぇ…妊娠って本当なのかどうか、ちょっと俺もこっそり学校について行って確認してみるかな。なーんか引っかかるな。もしそれが本当ならルイに接触したことで下手に狙われても困るし)
(えぇ?来るの?別にいいけどさ…ストラスも過保護なんじゃない?)
(念のためだよ。ルイになにかあっても困るしな)
ストラスはそう言うと後ろからルイを抱きしめたまま唇を重ねた。




