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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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アルシエル&ルシフェルの場合 2

 ベランダからストラスとイチカがリビングに戻ると、ベルゼブブとルシフェルがいた。イチカはどこか気まずそうな顔をする。悪びれもせずにルシフェルは言った。


「ごめん、聞いちゃったよ。ストラスと不倫してるのかと思って…ってのは半分冗談だけどさ。私は何も知らない子どもで…リリスが父親に酷いことをされていることも、知らなかったんだ…食事に睡眠薬を混ぜられてたって後で気付いたけど、元々不眠気味だったから、そのための薬だってずっと思ってた…」


「だって、言えなかった…そんなこと…誰にも。ルシフェルにだけは…見られたくなかった…」


「うん。そんなところを見ていたら私はきっと発狂するか、無謀にも父親を殺そうとして逆に殺されてただろうからね。でもリリスが我慢して全部を引き受けることはなかったのに…」


「…俺だけじゃないよ。魔王に蹂躙されたのは。アルシエルだって…魔王の子どもまで妊娠させられて…それを出産後に目の前で殺された!!」


「え…?そんな話…一言も…」


 ルシフェルは一気に青ざめる。周りの悪魔の反対を押し切り自分を玉座に座らせてアルシエルは告げた。君は正当な玉座の後継者だと。そのときの彼はすでに魔王との間にできた子どもを殺された後だったのだと、何百年も経った今知ったせいだった。いったいどんな気持ちで、何も知らない魔王の血を引く自分を見ていたのだろうと思ったら急に怖くなった。


「あ…アルシエルが…?」


 ルシフェルは慌てて階段を駆け上り滑って転んだ。ルシフェルはすがるようにアルシエルの寝室のドアを叩く。


「あ…アルシエル!!」


「……うるさいな…」


 少し間があって少女の声が聞こえた。長い黒髪のリツと共に出てきたのは十歳程度の少女だった。キャミソールにハーフパンツ姿で、身体のあちこちにまだアザが残っていた。


「今日から少しの間…この姿で過ごす…せっかくここまで治ったから全部治したいんです。邪魔をしないで下さいよ」


 どこかムッとしたようにアルシエルは告げた。


「そっ…その怪我は…」


 ルシフェルは目のやり場に少し困りながら言った。アルシエルはため息をつく。


「拷問官と魔王のつけた傷ですよ。どれがどれかなど、さすがにもう事細かに記憶などしていませんが、そんなに慌ててどうしたんです?大昔に終わったことです。ただこの姿を治す余裕などないくらいに荒廃した国を立て直すのに忙しかった…それだけのことですよ。私には当時は魔力を流し合う妻もおりませんでしたから」


「ご、ごめんなさい、アルシエル。私は…知らなくて…いや、知らないじゃ済まされない…」


 動揺するルシフェルを見上げてアルシエルは言った。


「あなたの責任ではありませんから。まだ幼かったあなたに私は必要以上に事細かに説明しなかっただけです。ベルフェゴール大佐も私も…尖塔で起こったことには蓋をした…知れば…報復と称してあなたも同じ目に遭わせようと思う悪魔は残念ながら一定数存在しましたからね。私はあなたの子ども時代を守りたかった…健全な悪魔に育ってもらうために…」


 少し遅れて階段を上ってきたストラスが遠慮がちにこちらを見ているので、アルシエルはライラの姿のままで腕組みをした。


「どうした?何かあったのか?」


「いいえ…その…もうここまで話が広がってしまったので…フェルムから聞いた話をお伝えすべきだと思って…」


「なんだ?フェルムが?」


「はい。フェルムは…尖塔で大佐が女性に変えられていたときに…拷問官との間にできてお腹の中で亡くなってしまった子の生まれ変わりだそうです…それと…リツさんのお腹にいるハーフの子も…その…陛下が産んで殺されてしまった子の生まれ変わりだと…二人は生まれる前から結婚の約束をしていて…今回平和な時代に生まれ変わったのだそうです…」


「……そうか…」


 アルシエルの反応は特に驚いた風でもなかったが、その言葉にルシフェルはあ然とした表情で固まった。


「な…ベルフェゴール師匠も…?そ、そんな…!!」


 そのとき階段の軋む音がして三階からカイムが降りてきた。腕には少女姿の大佐が抱きかかえられている。十三歳の大佐だった。カイムは男性の姿をしていて今は悪魔の大きさに戻っていたので軽々と大佐を運んでいた。


「何を驚いてるんだよ。お前の親父は残念ながらそういう奴だったんだよ。この姿を今俺も治し始めたところなんだ。足の骨を粉砕されてたから残念ながらまだちゃんと歩けないんだよ。フェルムのことは…さっきその話を聞いたばかりで俺も驚いたところなんだ。平和な時代にって思ったのに、ラマシュトゥが現れるなんて因果にもほどがあるなぁ。ま、幸いにも今回俺は鎖に繋がれてる訳じゃない。前とはあらゆる条件も違う…」


 大佐はそう言うとカイムの顔を引き寄せて唇を重ねた。カイムは大佐が滅多に女に変わらず、なったとしてもすぐに解いて男性に戻っていた過去を思い出した。現にこの年齢の大佐を見るのは初めてだった。両足は原形を留めず陰部は裂けており血が止まらなかった。ひたすら癒してようやくまともに口を利ける状態にまでなったが、変身して直後は正直なところどこから癒すべきなのかと絶句する酷さだった。ようやく口内の血の味が消えたことにカイムは少しホッとする。鎮痛剤も投与した。特定の年齢にだけならないようにして大佐も陛下も今まで平然として過ごしていたのかと考えたカイムは、自分なら耐えられる自信がないと思ったのも事実だった。痛みごとその年代の姿を封印する。クーデターの起こった年は忙しくて治す暇もなかったのだと分かってはいても、何百年も誰にも打ち明けずに抱え続けた傷の深さにカイムは今直面していた。そうして傷だらけだったカイムにちょっかいをかけながら癒してくれた大佐が、同じ痛みを抱える者だったと知ってカイムは今度こそ自分が癒す番だということも理解していた。


「大佐のことは責任を持って私が癒しますから大丈夫です」


 カイムが告げる。


「社長、私も同じ気持ちですから、大丈夫です。社長はイチカに寄り添ってあげて下さい」


 リツが言う。ルシフェルは階段に立って少し困ったような顔をしているイチカの顔を見た。


「イチカ…私に…リリスだった頃の姿を…見せられる?今すぐじゃなくていいんだ。いつか…イチカが見せてもいいと思ったら…その姿がどんなものでも…私は受け止めるから…」


 ルシフェルの言葉にイチカは小さく頷いた。


「うん…分かったよ…」



*** 


 

 再びアルシエルは寝室に戻るとベッドに倒れ込む。リツはブランケットをかけて抱きしめた。


「無理しないでよ、もう」


「…大丈夫だ。リツのお陰でかなり良くなってきたから」


 リツは再びライラの姿のアルシエルを抱きしめた。アルシエルはリツの腕に抱きしめられて目を閉じる。不意にリツのお腹の中でポコポコと子どもたちが小さく動いた。


(お母さん…今は…えぇと…お父さん?)


「ようやく口を利くことを決めたのか?久しぶりだな…ルシエル…また会えて嬉しいよ…あのときは助けることが出来なくて…すまなかった…」


(仕方ないよ…あの頃と…同じ名前で呼ぶんだね…お母さん…えぇと…今のお母さんはびっくり…してる?) 


「あ…うん…少しは。でも、今度は私たちの子として戻ってきてくれて嬉しい…」


 リツはお腹に手を当てて言った。


(フィリエルもいるから心強いの)


「フィリエル?天使の子のこと?」


(うん、今はまだ眠ってるけどね。お母さんのお腹の中はとても気持ちがいい…だから怖くない。お母さん…昔のお母さんだった頃の…お父さんのこと…お願いね…ずっとフィランジェルにもう一度会うって…それだけを希望にして…耐えてたの…私も頑張ったけど…魔王には敵わなかった…あのね、フェルムが…起こしてくれたの…フェルムに呼ばれて…私は目が覚めたの…)


「ルシエル…安心して。必ず産むから」


(うん…おやすみ…)


 リツは再びアルシエルの頭を撫でる。アルシエルは小声で言った。


「リツ…ありがとう…リツの腕の中でなら…眠れる。痛くないんだ…」


「うん…今はゆっくり眠って」


 リツはアルシエルをそっと抱き寄せると目を閉じた。

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