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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ベルフェゴール&ムツキの場合 4

「リツったら、まるで天使になっちゃったみたいね。悪魔なのに不思議…今日も神聖力を分けてもらっちゃった」


 帰りの車内で樋口巡査部長はつぶやいた。五十嵐警部はステアリングを握って、何か考え事をしている顔付きをしていた。


「ケイイチさん、どうしたの?何か事件に関して危険な話でも聞いた?」


 樋口巡査部長の言葉に彼は、深く息を吐いた。


「あぁ…それもある。熊よりも数倍厄介な相手かもしれないって可能性が浮上した。それもあるが…それよりも冴夏の身体のことで…ストラスさんから色々聞いたよ。彼はいつの間にか産婦人科医の資格を取得していたらしい。今は獣医の勉強もしてるそうだ…」


「産婦人科医に獣医…??あー悪魔の卵があるから?」


 樋口巡査部長は首を傾げる。


「冴夏の身体は神聖力が増えるに従って天使に近付くと彼は言っていたよ。それで…その…今は天使もこちらに何名か来ているだろう?だから…その影響で転生前の記憶も取り戻しやすいと…そう言っていたよ」


「そっか。うん、最近時々昔の夢を見るの。天使だった頃の…神聖力の影響だったのか…」


「それでなんだが…もしも俺と冴夏との間に…子どもができた場合は…その…単なる人間の子どもじゃなくなる可能性があると…要するに天使の力を持った子が生まれるかもしれない、とも言われた…」


「えっ?そ、そうなの?」


 樋口巡査部長はさすがに驚きの声を上げた。


「あぁ…今、冴夏は記憶を取り戻して、体内の神聖力も上がってる…だから…この先どんどん上がるから、どのタイミングで子どもを作るかによって…要するに遅いとより神聖力の多い子どもが生まれると…そう言われた…」


「それは…ちょっと、困ったことになるなぁ…だって、天使には翼があるもの。だから…骨格的に人とは違うってレントゲンなんかでもバレちゃうじゃない?」


「ん?そこ…なのか?気にするのは」


「そりゃそうでしょ、人に翼はないんだから。悪魔はどうやって誤魔化してるんだろ?その辺りをもっと聞いておくんだったわ…リツは堕天してるから天使の見た目で翼は悪魔からの贈り物の黒い翼みたいだし…そう考えると悪魔は骨格ごとちゃちゃっと変えて何食わぬ顔で生活してる訳だし…まさか、ケイイチさん、見た目通りのあの姿が悪魔だとは思ってないでしょ?」


「あ…あぁ…ストラスさんも女になれるって言って…見せてくれたから、それはまぁ…」


 そこで急に隣からの冷たい視線を浴びて、五十嵐警部は失言したことに気付いた。


「ふぅん?あの部屋で事件の話してるのかと思ったら、それだけじゃなかったんだ?どの状況でストラスさんの女の姿なんか見るタイミングがあった訳?」


「い、いや…だから、それは俺がドラッグクイーンみたいなのを想像しちまったら、そりゃねーよって話になって、ちらりと見せてくれただけだよ…」


「へぇ…で?どうだったの?なんか動揺してるところから想像すると、すんごい美女だったんじゃなくて?」


 樋口巡査部長の言葉に五十嵐警部はしぶしぶながら頷いた。


「ありゃあ、大概の男は骨抜きにされるだろうなって見た目だったよ。でも本人は絶対に組み敷かれたくない奴がいるから、滅多に女にはならない、なんて言ってたけど…」


「えー何だか妬けるなぁ…それ、ケイイチさんに見せたってことは、ケイイチさんになら見られてもいいって思ったんじゃなくて?どうなの?」


「は?そんな訳あるか!だいたい俺よりもガタイのいい相手を先に知ってるのに、女の姿になったからって鼻の下伸ばせるほど、俺はまだ悪魔に気を許した訳じゃないんだ。ったく…あらぬ誤解をしないでくれよ…」


「まぁ…今日のところはそういうことにしておいてあげていいけど…私だってそんなに若い訳じゃないんだから、子どもはそろそろ欲しいと思ってるのは本当だよ?」


「それは分かってるよ。あぁ、それと、こんなことも言ってたな。天使には生理がないから、天使に近付いたら妊娠してなくても生理が止まるんじゃないかって。天使は猫みたいな身体の機能をしてるって…」


「……妊娠してなくても止まる…?じゃあ妊娠しててもしてなくても分からないじゃない?なにその分かりにくい身体!!しかも猫!?もう…だいたい、天使なんて出産してるのも見た記憶なんかないから…今は悪魔とはいえリツのお腹に二人入ってるってことも、私にとっては信じがたい奇跡みたいに見えちゃうの」


「そ、そういうものなのか…?」


「だって、悪魔の身体に神聖力が満ちてて…それってもはや天使との違いなんて翼の色くらいな訳で…しかもお腹の子の一人は悪魔と天使のハーフで、もう一人は天使…もしも神がこれを知ったら泡吹いて失神するんじゃないかって思うくらい、とんでもないことが起こってるの」


「…つまり、そういう子は珍しいってことで合ってるか?だとすると…胎児を喰うのが魔物って可能性が出てきた今、狙われる可能性も上がるんじゃないのか?事件が起こった場所はかなり離れた山の中だが…都内にいるってのは…あまり好ましい状況ではないよな?冴夏が子どもを欲しいって気持ちも理解してるし、その望みを叶えたいとは思ってるが、神聖力を有する子をもし妊娠したら、その子だって珍しい存在になるだろう?狙われるんじゃないのか?俺は冴夏をそんな危険には晒したくないんだ。だから子どもに関してはできれば事件が解決して落ち着いてからにしたいんだ…」


「そ、そっか。私、自分が狙われることまでは全然考えてなかったから…でも神聖力の多い子を妊娠する可能性が高いなら…確かに…今は安全策を取ったほうがいいのかも…ありがとう。ケイイチさん、そこまで…考えてくれて」


「い、いや、パートナーとしたら当然だろ。それに結婚するんだ。これから入籍しに行ってもいいか?」


「えっ?本当に今日?別にいいけど…」


「じゃ、行くぞ」


 五十嵐警部はそう言って区役所に向かうために車線を変更した。 



***



 その頃、孵卵器からムツキの膝の上に移動してタオルに包まれた卵の中でフェルムはプンプン怒っていた。


(もうっ!孵卵器の中でなら眠れると思ったのに、いきなりプロポーズ!?びっくりしちゃったよ。元勇者って、勇気あるなぁ。振られる可能性を考えてなんかいないんだもん。鋼の心臓なのかな)


「僕もリビングにもう少し残ってれば良かったなぁ」


 ムツキは卵を撫でながら言う。


(ねぇ、ムツキは本当にお父さんのお嫁さんになるつもりなの?)


「う、うん…そうだけど、ダメだった?」


(ダメじゃないけど…お父さんはだらしないし、いつもお母さんに怒られてるからさ…どこが好きになったのかなって思っただけ)


「どこって…僕はあぁいうだらしない大人が好きなのかも…あんまり真面目できっちりしてる人は…自分のダメなところがもっとダメに思えて見てると落ち込んじゃうから…」


(えぇ…!?ムツキ…変わってるよ)


 フェルムと会話しているところに、ベルフェゴール大佐がやってくる。今は高校生くらいの姿だった。どうやら分裂してきたようだった。


「なんか俺よりも仲良くなってんなぁ…」


「うん、大佐の悪口聞いてたの」


「はぁ?」


(お父さん、どうせ今度はムツキといちゃいちゃしたくて来たんでしょ?僕寝不足だから、今度こそ寝たいんだけど)


「発生して間もないチビのくせに可愛くないこと言うなぁ…ま、いちゃつきたいのもあるけど、ムツキの魔力がそろそろ足りなくなる頃だからな。ま、ある意味物分かりのいい息子で助かるよ」


 大佐は卵を抱えると撫でて孵卵器の中に戻す。


(おやすみ…)


 卵は急に静かになる。本当に眠ったようだった。大佐はムツキの手を引いた。


「待たせたな」


「別に…マゴトさんやケイさんの話も楽しかったし…時間はあっという間だったよ」


 大佐はムツキの使っているゲストルームに移動する。ベッドに座った大佐は後ろから抱きしめてしばらくじっとしていたが、ムツキの耳に囁いた。


「インキュバスの魔力に目覚めたなら…そろそろキスは解禁にしてもいいかな」


 ムツキは大佐の顔を見つめる。少しは力を使えているのだろうか?大佐の指があごに触れて静かに唇が重なる。そこから大佐の魔力を注がれた。ムツキはそれだけで鼓動が早まり、自分はやはりずっと誰かとこうしたかったのだと思った。やがてムツキはベッドに横たわり、ただ無心になって彼の魔力を吸い取っていた。大佐の魔力は吸い取りやすく、するするとムツキの身体の中に溜まってゆく。心も身体も満たされる感覚がした。ムツキは少し怖くなって大佐にしがみつく。彼はムツキの頭を優しく撫でてくれた。


(大丈夫、インキュバスになっても俺がムツキの欲望ごと受け止める…だから怖がるな)


 大佐の声が頭の中に響いて、ムツキは頷いた。


「うん…大佐がいてくれたら…少し怖い気持ちが減る…」


 ムツキは大佐にしがみついたまま小声で言った。


「身体は楽になったか?」


「うん…」


「少し一緒に昼寝するか」


 大佐に抱きしめられて頭を撫でられるとムツキは次第にとろんとした表情になる。大佐がおでこに口付けをすると、ムツキはやがて目を閉じた。


「おやすみ、ムツキ」


 大佐はささやいて、ムツキを抱きしめたまま自分も目を閉じた。

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