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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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マルバス&二階堂の場合 5

 マルバスと二階堂が魔力回復薬研究所の方に戻ると、何やら廊下で大騒ぎしている少女がいて、二人の男性職員に取り押さえられていた。似たような歳頃の二人の少女が、暴れる少女に声をかけていた。


「大丈夫だよ。別に怪しい研究所じゃない。ちゃんとした産婦人科医もいるから、診てもらった方がいい」


 よく見ると少女のおかしな柄だと思った服は出血で股の辺りが変色しているのだった。血だと認識した途端に二階堂は急激なめまいを感じた。


「アオくんっ!」


 よろけた二階堂をマルバスの手が抱きとめる。二階堂は真っ青になり今にも吐きそうな顔をして片手で口を押さえていた。近場にいたリモンが手早く小ぶりのバケツを持ってくる。二階堂はその中に嘔吐してしまった。マルバスは背中を撫でながらも暴れる少女を見る。見たことのない顔だ。


「嫌だ!!痛い…!ちくしょう!」


 バタバタ暴れる足を慌てて避けた背の高い方の少女がとうとう一喝した。


「往生際が悪いよ!だいたいあんたは毎回避妊しろって言ってんのに雰囲気に流されて適当なことしてるから、そうなるんでしょ!それにイチカは妊娠してるんだ。腹に当たったら危ないだろ!イチカは覚悟決めてパートナーの子を産むんだから!」


「ちょっ…ケイ姉…声でかい…そっちに具合悪そうな人もいるんだからさ…」


 イチカと呼ばれた少女は慌てて、後ろで吐いている二階堂の方をチラ見した。


「だって、チサがあまりにも分からず屋だから…!でも、すいませんでした」


「大丈夫だよ。少し診るだけだから。手術が必要かどうかも含めてね…」


 奥の診察室から顔を覗かせたのはストラスで彼が医者の格好をしているのを初めて見た二階堂は驚いた。驚いたのはチサと呼ばれた暴れている少女も同じだったようだ。


「マジでこいつ医者なの?」


「あーさっきは悪かったね。でも女子の力じゃトイレのドア開かなかったから緊急突入したけど、ちゃんと産婦人科医の資格は持ってるから安心しな」


「ストラス、チサはすぐに親切にしてくれる人を好きになるから気をつけて。チサ、こいつ既婚者だからな。すでに妻が二人いる。一夫多妻制に文句言うなよ?第三夫人でもいいなら、別に好きになるなとは言わないけど、止めておいた方がいいよ。ルイには敵わない」


 イチカの言葉にチサは慌てて言い返した。


「な、何言ってんだよ、こんなときに…。しかもお前、産むってマジ?パートナーって誰だよ…クソっ、腹痛い…マジ死にたい…無理」


 チサは廊下に座り込む。


「死なないよ。みんなチサを助けるために探してたんだから」


 イチカが言う。職員に抱き上げられたチサはようやく大人しくなり診察室へと消えた。



***



「ごめんね、騒がしくて」


 イチカに言われて、廊下のソファーに座ってマルバスに魔力を注がれていた二階堂は慌てて首を横に振った。


「お姉さん、凛々しい美人だね。あ…お姉さんって言われるのは嫌だったか?」


「イチカも思ったことすぐ言うクセは抜けないんだね…」


 傍らのやけに色気のある少女が苦笑する。


「ケイ姉こそ、久々に怒声出したでしょ。マコトさんの前では借りてきた猫みたいに大人しかったっすよね?」


「もう、だって、それは…そうなるよ。あの、大丈夫ですか?」


「えーっと、イチカさんは分かるんだけど…」


(ケイさん?なんでマ…コトの気配が濃厚なんです?もしかして…パートナー?それにしても相性が良過ぎなんじゃないですか?)


(えぇと、そうです。聞こえてますか?私、ケイナっていいます。インキュバスの転生者で…今は武衛眞人さん…悪魔の名前はマゴトさんの契約パートナーです)


(君…その様子だとマゴトがどんな姿の悪魔か知ってるの?)


(はい、悪魔の姿の彼も好きです。だから最近は私の太ももにマコトさんの尻尾の跡がつきっぱなしなんですけど…)


(この子はまだ悪魔のこと知らないから黙ってて)


(分かってます。イチカも、だから大丈夫です)


「ケイナといいます。でもみんなケイと呼ぶのでそう呼んでくれて構いません」


 ケイはニコリと笑った。


「あの…僕は二階堂蒼です…同一性障害です…血を見ると…さっきみたいになっちゃって…すみません」


 二階堂が言うとイチカはそっか、と言って頷いた。


「俺もよく吐いてたから気にしなくていいっすよ。銀の枝で困窮すると身体売ってたんだけど、ヤるとめっちゃ吐いてさーでもソーシは大丈夫だった。ソーシ以外とは無理」


「ちょっ、イチカ引いてるでしょ。初対面の相手にそんな話するんじゃないよ。まぁ…私の方がイチカよりも客は取ってたけどさ。まっとうに仕事してる転生者からしたら、私たちみたいのはだらしなくて関わりたくない人間だと思うよ?」


 二階堂は慌てて首を横に振る。


「でもさ、性自認が男性だと毎月血を見るのは確かにキモいってなるよね。男ってだいたい血って苦手じゃん。あーマルバスさんは医療関係者だからそうじゃないかもだけど」


 イチカの言葉にマルバスは苦笑する。


「うん、僕は平気だよ。アオくんは血がとても苦手なんだ。昨日ここに来たばかりだからまだ慣れてもいないし、仲良くしてくれると助かるよ」


「あー別に俺でいいなら…あ!そうだった!こっち来るついでに勉強教えてもらおうとしてたんだよ。向井くんってどの部屋?」


「あぁ、廊下の突き当たりの部屋だよ。椎名くんといるよ。勉強って?」


「俺バカだからさ、施設から逃げた後は学校も途中から行ってないし。だから卒業資格取るのに家庭教師やってもらってんの」


「偉いね。昨日で治験は一度終わらせてるから大丈夫だとは思うけど、ちゃんとノックしてから入ってね」


 マルバスの言葉にイチカは笑った。


「分かってるよ。開けたら気まずいタイミングだってあるのは分かってるからさ」



***



 その後も少し話して部屋に戻った二階堂は一気に疲れた自分に気付いて、それをマルバスに見抜かれていた。マルバスは肩を抱いて魔力を流す。


「普段、あまり誰かと話さない?」


「はい…ほとんど…仕事以外は引きこもりで…」


「じゃあ、人との交流にも慣れないとね」


「あの…ストラス先生も…同じ国から来たんですか?」


 マルバスはやはりそうきたかと思いながら頷く。


「そうだよ。というか…ここにいる大半の職員はそうだよ」


「イチカさんは…その…眷属なんですか?ソーシって…神木蒼士社長のこと…じゃないんですか?」


「アオくん…君はどうしてそう勘が鋭いのかな?まだ公表してないから言ってはダメだよ。イチカさんはこの国の基準だとまだ結婚できない年齢だから…」


「マルバスさんの国は何歳で結婚できるんですか?」


「十三歳だよ。早いって思うよね?」


 二階堂は驚いた顔をした。


「早いと思います…神木社長は…常人離れしてるなって…常々思ってました。蒼って字が一緒なのに僕とは全然違うなって」


「そんなこと思ってたんだね。あぁ…ここまで分かってるのに言わないのはフェアじゃない気がしてきたよ」


 マルバスは口を開こうとした。誓約を破ることになるが仕方ない。自ら明かしてしまった場合の罰則は何だったかを思い出そうとした。


「待って下さい、当ててみますから…僕と魔力の相性がとてもいいってことも含めて…魔力の気配を隠すことも含めて…転生者としてもこの世界には少ないんじゃないかって…元吸血鬼の僕でも受け入れてくれるのは…魔物か…悪魔…」


 マルバスはふぅと息を吐いた。隠さなくて良くなった分、思う存分手を出しやすいと思ってしまう自分の感情に少なからずゾッとする。


「正解だよ。僕は悪魔だ。転生者じゃなく、魔界から来ているんだ。でもここに出入りする治験者全員に明かすつもりはないから、喋らないでね。喋るなら椎名くんか向井くんにして。僕は君の魂を所有したい…君の魂は不思議な色をしてるんだ…」


「……だから…儀式…だったんですね。僕…は…まだそこまで覚悟が決まった訳じゃないですけど…マルバスさんには良くしてもらってるから…精神的にはすでにかなり依存してしまってます…」


「怖い?」


 マルバスは正体を告げたことで二階堂に触れるのをためらった。二階堂は不思議そうな顔をしてマルバスを見上げた。


「どんな僕でも受け入れてくれるのに、自分が悪魔だと明かしたら触れてくれないんですか?それともマルバスさんの今の姿も…まやかしですか?」


「うん、そうだね…僕は獣の姿にもなれるし…この世界で一番近いのはライオンかな…人の姿のときは今よりもう少し大きいんだ。髪も短くしているけど…本当はもっと長いし…」


 マルバスは姿を本来の大きさに戻した。三割ほど身体が大きくなり癖のある髪が腰の辺りまで伸びた。二階堂はあんぐりと口を開けてマルバスを見上げた。


「怖いよね?」


「だ、大丈夫です…でも、思ったよりずっと大きくて…びっくりしました…」


 二階堂は恐る恐るマルバスの盛り上がった腕の筋肉に触れてきた。二階堂は無意識だったが、自分からマルバスに触れたのはこれが初めてだった。マルバスはそのことに感動して思わず二階堂を膝の上に乗せて口付けをしてしまった。口付けをしながらマルバスは最初の姿に戻る。


「これを言ってしまうとズルい気がして言わなかったけど…僕と儀式を行えば…アオくんを悪魔に変えて男の子の身体にすることもできるんだよ?愛し合って魔力を高めれば…自分で性別だって変えられる…男の子になったり女の子になったり…アオくんは今よりも自由に生きられるんだ…」


「そうなんですか?そんなことを言われたら…そうなりたいって…思ってしまいます」


「だよね。だから言わなかったんだよ。それを目の前にちらつかせて君を釣るみたいで良くないと思ったんだ…でも、悠長にそんなことも言ってられないくらいには…君が欲しい…」


 そのとき二階堂は下腹部に鈍い痛みを覚えた。実は起きたときからたまに痛みがあることに気付いていた。嫌などろりとした感覚が身体の中を降りてくる。


「あ…と、トイレ…!!」


 慌ててトイレに駆け込んだ二階堂は、しばらくしてどんよりした顔付きでトイレから出てくると、洗面台でうがいをした。マルバスは察して、立ち上がると二階堂の背中を撫でた。


「…来ちゃいました…」


 二階堂は目をこする。泣いたのだろうかと思ってマルバスは胸が痛んだ。


「男の子に…なりたい…今はもう…無理…だけど」


 吐くものもないのに二階堂はえずいて苦しそうに肩で息をした。マルバスは背中から魔力を流して吐き気を止める。自分の使える力を隠さなくていい分気が楽になった。


「分かったよ。男の子にしてあげる。その前に…たくさん血が出る原因は…子宮筋腫だね。大きいから消そうか。僕は魔力で治療できるから…このままこの部屋でするよ」


 マルバスは二階堂を抱き上げるとベッドに横たえた。そこまでの記憶はあったのに、二階堂が次にハッと気付くと辺りはすでに暗くなっていた。間接照明の中マルバスの姿が浮かび上がる。


「あ…れ?」


 二階堂は起き上がろうとして、看護師の姿をしたマルバスに頭を撫でられ、やんわりとそれを制された。


「寝てる間に交換しようと思ったのに起きちゃったね。血を見るのは嫌だと思って少し長く眠ってもらってたんだよ。今日は子宮筋腫を消してから五日目の夜。僕は暗くても見えるんだよ」


 マルバスは少し光った目のまま二階堂の腰を持ち上げる。紙パンツのようなものを履いていることに二階堂は気付いて真っ赤になった。腰やお尻を拭かれる。


「あんまり見ない方がいいよ。まだ少し出血してるから。でも大丈夫。心配するほどの量じゃない。もうじき終わるね」


 マルバスは手早く交換を済ませてゴム手袋を脱いだ。少ししてから手を洗う音がした。


「…恥ずかしい…」


 二階堂は顔を覆ったままつぶやく。


「別に平気でしょ。一緒にお風呂にも入ったんだから、全部隅々まで見てるよ。悪魔は目がいいんだ」


 マルバスに顔を覆った手を外される。間近で顔を覗き込まれて唇が重なった。マルバスのペースに飲まれて二階堂は流される。初めてのキスよりもとても深くて長いと感じた。


「あ…悪魔って…キスが…好きなんですか?」


「うん?そうかもね。この国の人はこんなに頻繁にはしないのかな…?触れ合うのも好きだよ。もう勤務時間も終わるから今日も隣で眠るよ」


「今日も…?」


「うん。毎日隣で寝てたからね。まだ身体に合う魔力回復薬を試していなかったし、万が一副作用が起こっても困るから僕の魔力を補っていたんだよ。眠ってる間もたくさんキスしたし」


 マルバスは笑って部屋を出てゆく。火照った顔のまま閉まったドアを見ていると少し経ってノックの音が聞こえた。

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