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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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マルバス&二階堂の場合 1

 その後、時間を延長して一時間待ったが、結局椎名の魔力は上がらず、その段階で魔力回復薬を試すのは一度中断し、向井が椎名と触れ合って魔力を回復させることにした。特殊な手袋なしで手を握り合うだけでも椎名の魔力は少しずつ上がってゆく。一方で向井も椎名ほど魔力不足にはならないものの、さすがに数時間も触れ合わずにいたためいつもよりは疲労していた。二人が密着して互いの魔力を高め合っていると、何やらドアの外で慌てた様子の足音が聞こえた。すぐに動ける向井が何事かとちらりとドアから外を覗くと、二階堂の部屋に入るマルバスの後ろ姿が見えた。


「大丈夫、心配しないで。単なる魔力欠乏よ」


 後ろからやって来たリモンが向井に言う。


「そうなんですか?」


「大丈夫、私たちがいる限り命に関わるような不調は起こらないように心がけているから。向井くんは、椎名くんともう少し触れ合っていて」


 リモンは微笑むと優しく向井に部屋の中に戻るように促した。



***



「二階堂くん、しっかりして。大丈夫だよ。ここがどこか分かるかい?セラヴィの魔力回復研究所だよ?」


 モニターでうとうとしているように見えた二階堂が飛び起きてから急に様子がおかしくなったので、駆け付けたマルバスは今、二階堂を抱きしめて背中を撫でていた。二階堂は夢でも見たのか、静かに涙を流して泣いていた。


「いやだ…捨てないで…もっと…頑張りますから…」


 マルバスにすがりついた二階堂はうわ言のようにそう繰り返す。マルバスは困ったように背中を撫でていたが、やがて両肩に手をかけて二階堂の顔を覗き込んだ。


「君を捨てたのは誰かな?僕はそんな風に急に放り出したりしないよ。君が安全に過ごせるようになるまで、責任を持って面倒をみるから」


「あ…あぁ…」


 二階堂はそこでようやく、自分のすがりついていた相手がマルバスだと気付いたようだった。慌てて涙を拭う。だが乱れた魔力はどうにもならず、身体はマルバスの魔力を欲していた。


「…そんなに不安定じゃ、魔力回復薬の治験も始められないよ。慣れない環境では一人で我慢するよりも、誰かに少し任せてしまった方が楽なこともあるんだけど…今がそうじゃないのかな?いい?」


 マルバスは二階堂の頭を撫でながら顔を近付けた。抵抗する素振りもなかったのでマルバスは彼がアンケートで了承した項目については一通り行うつもりでいた。そっと唇を重ねて魔力を注ぎ込む。二階堂は少しビクリとしたが、やがてマルバスの魔力を貪るように飲み込み始めた。


「…うん、そう上手だよ…」


 マルバスは二階堂に魔力を注ぎ込みながら合間に囁いた。両手の指を絡めて身体を密着させて横たわる。こうすると少し恋人同士のような気分が味わえるからか相手の魔力が上がりやすくなるのをマルバスは知っていた。二階堂にしばらく魔力を注いだマルバスが唇を離すと、二階堂がどこか名残り惜しそうな表情をしたので、顔を肩に押しつけるようにして再びきつく抱きしめた。


「このまましばらくこうしているから、安心して眠っていいよ。ここが君の居場所に感じられるまで…」


「だ、大丈夫です…もう…魔力は足りているので…」


 二階堂の言葉にマルバスは呆れた。同時に彼はずっとこんな風に自分を抑圧させてきたのだろうと思った。相手に望まない、過剰に期待しないことを常に頭のどこかで意識している。


「どこが?君は全然大丈夫じゃないよ?君の元パートナーがどうだったかは知らないけれど…魔力が足りてるから平気って訳じゃないでしょ。そんなに頼りない顔をして…」


「す、すみません」


「謝らないで。君は大切に扱われた経験がないの?愛されたことは?」


「分かりませ…ん…僕は…」


 二階堂は力なく首を横に振った。


「僕は君がアンケートで了承した以上のことはしないよ。でも必要だったらいつだって望んでいいからね。君がしてほしいことを僕は与えて満たすことができる…たとえそれがいっときの逃避でも…君は誤魔化して逃げるのが下手だから、生きるのを止めようとしたんじゃないの?」


 二階堂の左手首には自傷の跡があった。けれども本人も言う通り血を見るのも怖くて結局はできなかったのが分かる。


「…逃げて…も…いいんですか?」


「いいよ。少しの間、快楽に溺れて逃避したっていい。別に悪いことじゃないよ」


「…もっと…したい…です…」


 二階堂は恥ずかしそうに口ごもる。


「えっ?キス?」


 マルバスが問い返すと二階堂は頷いた。もっと多くを望んでもいいのにと思ったが、彼らしい望みかもしれない。


「いいよ。たくさん、しようか」


 マルバスは肩の辺りまで伸びた二階堂の黒髪を撫でる。髪を切る余裕もなかったのだろうが、案外似合っていると思った。ベルゼブブが魔力で綺麗にしたようだが、このまま魔力を高め合ったら少し汗をかくだろう。そうなったら、ゆっくりお風呂に浸かってリラックスさせるのもいいかもしれないとマルバスは考えながら、優しくキスをし始めた。



***



 その後、マルバスは思惑通りに二階堂を風呂に入れることに成功していた。マルバスは上半身だけ裸になって今二階堂の髪を洗っている。この状態でも警戒しない程度にはマルバスは短時間にも関わらず二階堂の信用を得ていた。


「こんなに…ゆっくりお風呂に入るのは…いつぶりか…もう思い出せないです…」


「目を閉じていて。流すから」


 マルバスはシャワーで優しく二階堂の髪の泡を洗い流してから、頭皮のマッサージを始めた。半身浴の状態でお湯に浸かっている二階堂は目を閉じている。


「素肌に触れてもいいかな?」


 二階堂が頷いたので、マルバスはバスタブに頭をもたれていた二階堂を起こし、肩からゆっくりマッサージを始めた。薄っすらと瞳が開いたのでマルバスは微笑む。


「大丈夫。君の嫌がることはしないよ」


「は…い…」


「でもね…このバスタブは…本来は二人で入る前提で作られているんだ…だから無駄に広いんだよ」


「えっ…!?」


「入ってもいい?」


「えっと…あの…」 


 二階堂は赤くなる。まださすがに早かったかとマルバスは思ったが、二階堂は顔を背けながら頷いた。


「入っていいです…でも…自分の身体が…恥ずかしくて…マルバスさんは…鍛えているみたいだから…」


 確かに二階堂は痩せぎすだ。マルバスはシャワーを浴びると二階堂の隣に入って薄っぺらい身体に腕を回した。


「君も、ちゃんと食事をして魔力を整えれば、もっと筋肉だってつけられるよ?でも僕は君のように不完全で脆そうな身体も嫌いじゃないよ。大切に守ってあげたくなるからね…」


 二階堂の胸に手のひらを当てると鼓動が速くなっていた。


「緊張してるの?」


 マルバスは二階堂を抱き寄せて唇を重ねる。癒すはずが自分の方が少し彼の魔力がクセになり始めているとマルバスは思った。彼を相手にしていると、自分のペースに乗せるはずがいつの間にか調子が狂う。いつもの彼ならとっくに相手を魅了して、なし崩し的にもっと深い関係に進んでいるところが、できたのはまだキスのみだった。二階堂の中の頑なな線引きが、それ以上の関係になることを恐れているのをマルバスは感じていた。左手首に残る傷跡を指先で辿ると、二階堂は恥じ入る表情になった。


「…別に責めてる訳じゃないよ?ただ…これからは、もしもこうしたくなったら、すぐに僕を呼んでほしい。約束できる?」


 マルバスは手首の傷跡を撫でながら耳元で囁く。囁く言葉に少し魔力を込めると、二階堂は小さく頷いた。


「分かりました…」


 マルバスは傷跡にも口付けをする。口付けしながら二階堂の目を見つめた。大概の相手ならこの辺で落ちる。だが、二階堂は赤くなって目を逸らせた。


「こっちを見て…」


「みっ…見れません…」


 二階堂は目を閉じて首を横に振る。


「どうして?」


「どうしても…です!!現実とは思えなくて…!」


 二階堂はかすれた声を出した。


「現実だよ。僕を見て?」


「無理です…!そんな…綺麗な顔で見られたら…勘違いしそうになります…」


 マルバスは微笑むと耳元で囁いた。


「勘違いしてもいいよ。ねぇ、アオくんのこと…好きになってもいい?」

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