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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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社長&イチカの場合 3

 一方同時刻に社長はストラスの部屋のソファーに座って、リツから魔力を流されるイチカを見ていた。リツが流しているのはジーンから少し多く受け取った魔力だ。向かい合って両手を絡める二人と、真面目な顔をして社長の体調の変化を観察しているストラス、その膝の上に座っている美少女姿のルイと、ベッドにゴロゴロ転がっている少年のルイがいて、社長はそちらも気になってイチカとリツの二人の様子になかなか集中できずにいた。


「社長、気分は大丈夫?」


 ベッドから起き上がった少年のルイがこちらに向かってきて、ひょいと社長の膝の上に座る。社長は内心では少し慌てたがそれを見たストラスの眉がピクリと上がったことに気付いて、いつもは穏やかな補佐官もルイが絡むとそうでもないらしいと思って少し意地悪をしたい気持ちになった。


「ルイくん?そういうことをするってことは、いたずらをされてもいいって誤解してしまうよ?」

 

 社長は後ろからふわりとルイを抱きしめる。ところがこの小悪魔の方が上手だった。


「社長、僕とキスしたらムラムラしちゃうから、過剰な接触は控えた方がいいよ?」


 イチカと宮森、必要に迫られた際のリツ以外に社長は自らこんな風に触れたことがないに等しかった。リツに触れられたのも宮森がいたからだ。まずは宮森に魔力を与えてから段階を踏んだ。それでも実際には緊張していたし、それを見せないようにするので本当は精一杯だった。元炎の精霊だけあって、ルイからは燃えるような熱を感じた。確かに過剰な接触は危険だろう。こちらにまで引火して燃え上がりそうだ。こんな炎を相手にしているストラスに社長はどこか信じられないような気持ちを抱く。ルイはクスクスと笑った。


「リツが終わったら僕がイチカに魔力を与えるね?お腹の赤ちゃんは炎も好きだと思うよ?」


「リツさん、一度こちらへ」


 ストラスに呼ばれたリツは少女姿のルイが乗っていない方の膝の上にそっと座る。ストラスは軽くリツを支えて、やはり首の後ろに口付けをした。


「…けっこう流せたようですね…流した分だけ補いますから…」


 そう言っている間に少年姿のルイがイチカと向かい合って両手を繋いでいた。これまで黙っていたイチカが言った。


「ソーシ…少し暑くなってきたから…上…脱いでもいい?」


「えっ?えっと…それはダメだよ!下着一枚なんて…」


「分ったよ。じゃあティーシャツは着たままでキャミソールだけ脱ぐ!」


 イチカは宣言通りにキャミソールを脱いでしまう。


「ルイの魔力…身体が熱くなる…」


「だって、僕は炎だからね?」


 ルイは再び手を握り返しながら笑った。


「それに…僕はリツ以外の女の子には触ったことないんだよ。あ、学校で勝手にボディタッチしてくる子はいるけどね。考えてることが透けて見えてイヤなんだよねールイってどんな風にキスするんだろ、とか上目遣いに見ながら考えてるの。イチカはそういうこと考えないから触ってても嫌な気分にならないよ」


 ルイはイチカに魔力を流しながら笑う。社長はそれでも、なんとなく同性のリツがしていたときよりも相手を意識してしまい、少しだけ自分が緊張していることに気付いた。不意に少女姿のルイが立ち上がって社長の方にやってきて、すとんと膝の上に座った。


「社長の魔力ちょうだい?」


 向かい合わせになるように足を開いて座ったルイに社長は慌てる。ストラスがリツの首から唇を離して言った。


「ルイ…その向きはちょっと、社長にはまだ…」


「いや、大丈夫だよ」


 痩せ我慢をして社長は美しい金髪のルイをそっと抱きしめた。少年ではない少女の身体だ。そしてこのお腹の中には新たな生命が宿っている。ストラスの子は育つのが早くてルイのお腹はそこそこ目立つ大きさになっていた。


「社長?」


「うん?悪阻(つわり)…大変?」


「うん。まぁ…食べ物の匂いでも気持ち悪くなっちゃうからね…でもそれはイチカも同じだし…リツはまだないみたいだけど…ない方がいいって思うよ。僕は男子の僕が食べた栄養も間接的に補充できるから、まだいいけど、イチカはそうじゃないからさ。でも陛下もストラスも医師免許取得してくれたから、少し安心かな。僕は男子だったから、やっと女の子の身体でいることにも、そこまで違和感はなくなったけど…やっぱり最初は緊張したよ」


「そっか…まぁ…それはそうだよね。私も…女性の姿になるのは…あまり得意じゃないし…」


 社長はやや遠慮がちに少しずつルイに魔力を流しながら言った。ルイの両手が社長の背中に回る。彼は驚いたことに、それがさほど嫌悪感のないことに気付いた。ルイだからなのだろうか、と思って、不意に今イチカに少年のルイが魔力を与えていることに思い至る。


(あぁ…そうか…イチカとルイ…私とルイ…ルイを通じてイチカと繋がっているから平気なんだ…)


 社長はようやく納得し、そして安堵した。悪魔としてどこか不完全な精神を抱えた自分でも輪の中に加わることができている。ルシフェルを妊娠した母が抱いたような恐怖は一切存在しなかった。ただ穏やかで心地良いと皆が感じている。ふとストラスの方を見ると彼はリツの唇から魔力を注いでいた。それでも性的なものはあまり感じさせない口付けで、ただ静かにストラスはリツに魔力を与えていた。そうだ、彼女のお腹の中には天使と、天使と悪魔のハーフの二人が入っているのだと、社長は思って、どこかいつも顔色の悪かった一社員の彼女が、アルシエルの探していた堕天使だということにも気付いていなかった頃の自分を振り返った。あの頃は自分もそこまで体調が良かった訳ではなかった。魔力回復薬の研究はその頃からすでに着手していたが、目の前にジーン・フォスターが現れて己が何者なのかを告げられてからは、あっという間に物事が進んだ気がしていた。


「社長?具合悪い?大丈夫?」


 目の前の美少女が少し不安そうに彼を見あげたので、慌てて社長は首を横に振った。


「いや、大丈夫だよ。ただ…今は三人とも妊娠しているんだなと思ったら…随分と遠くまで来てしまったような気がしたんだ…自分がちゃんとした父親になれるかどうかも含めて…」


 社長の言葉に少し笑ったのはイチカだった。イチカは言った。


「ちゃんとしてなくてもいいよ。でも…いきなりいなくなられたりするのは困るかな。ちゃんと無事にここに帰ってきてくれるなら、俺は留守番してるからさ」


 イチカの言葉に社長はハッとした。イチカは自分と離れる可能性があることを微塵も考えてはいないのだと。自分がここに帰ってくることには間違いないが、イチカがここにいない可能性については考えてもいないのだということが分かってしまった。やはりイチカだけを魔界に戻すのは無理なのだろうか。あちらにだってエストリエやケビンがいるから、イチカが一人になる訳ではないと思っていても自分に戻る気がない以上、この選択はやはり考え直す必要があるかもしれないとも思った。


「ソーシ?どうしたんだ?難しい顔して」


 イチカが首を傾げる。


「いや、何でもないよ。お腹の子に魔力を与えるのは初めてだから、やっぱり少し緊張してるだけだよ」


(ウソつきだなぁ、社長は。魔力を与えるのはそんなに抵抗なかったでしょ?それよりも今後イチカをどうするのかってことを考えてモヤモヤしてたんじゃないの?当たり前だけど、イチカは社長と離れたいなんて思ってないよ?)


 心の中にルイの声が響く。イチカが自分と離れたくないと言うというのは心のどこかではとっくに分かっていた。


(ルイくん…あまり私をいじめないでよ…確かにそうだよ。だけど…どうしたらいいのか…勉強のことにしたって…)


(宮本さんとか、アサヒとか。コーキだって特待生なんだから、この家には勉強教えられる人はたくさんいるよ?まぁ、僕もだけど。あ!あと向井先輩も頭いいはずだし!イチカの基礎学力を上げたいなら、周りにいる人の力を借りればいいと思うよ。その上でこっちか魔界かイチカに選ばせる方がいいと思う。本人の意思を無視して、勝手に決めるのはやっぱり違うって僕は思うからさ)


 ルイは真面目な顔をして社長を見上げた。社長は思わずルイの顔をまじまじと見返してしまい、それを見たイチカが声を上げた。


「いくらルイがかわいいからって、キスはしたらダメだぞ?ムラムラされても困るからな」


「しないよ!」


 社長の慌てた声にルイが笑う。


「なんだ、してくれないのかぁ。期待して損しちゃったよ」

 

 ルイのわざとらしい言葉にストラスが言った。


「ルイは学校ではモテモテだからなぁ。そろそろ本気でその唾液の催淫成分を一時的にでも消す薬を作らないとダメかもな」


 ストラスは手間だと言わんばかりにため息をつく。膝の上のリツが笑った。


「モテるのも、こういうとき大変だね…」  

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