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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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向井&椎名の場合 1

「ル…ルイ!?なんで…ここにいるんだ?」


 椎名はやっとのことで口を開く。


「え?だって僕が中途半端に放り出して逃げたから先輩方も今野もなんだかこじれちゃってるんでしょ?だったらこの程度のことになら付き合ってあげなくちゃ。あ、僕は今セラヴィの関係者のとこで暮らしてるからさ。契約パートナーっていうか結婚相手には渋い顔されたけどね」


 ルイは笑う。以前のどこか退廃的な雰囲気はなく随分と体調が良さそうに見えた。


「け…結婚…?」


「うん。十五歳でも入籍できる、よその国で結婚して新婚旅行から帰ってきたばかりだよ?あ、相手は歳上男性。まぁ、僕の話はいいか。さっさと練習しなよ?いいよ?僕、痛いのも嫌いじゃないから」


 椎名はのろのろと鞭を拾う。彼はその手を何度か振り上げようとしたが、やがて力なく下ろして言った。


「俺…できないよ…素面(しらふ)だと…無理なんだ…薬を飲んだりして別の何かになりきらないと…今日の分の煙草も吸っちゃったし…ダメなんだ…」


 椎名は観念したように口を開いた。



***



「やっぱり…おかしいと思ったんだよ…先輩、どっちかっていうと今野に合図されてからやることが多かったし…もしかして、ほんとはあんまりやりたくないんじゃないのかなって思ってたんだよね。ねぇ…むしろ…逆なんじゃない?転生前が拷問官だから拷問が好きでなきゃおかしいって思い込もうとしてたでしょ。でも…多分先輩は違うんだよ…」


 ルイは笑いながら別の中学校の制服を着た。そのとき入ったときとは別の場所にもドアがあることに向井は気付いた。そのドアがノックされて静かに開いた。


「ルイ、大丈夫か?」


 入ってきたガタイの良い外国人男性を見たルイは嬉しそうに破顔する。


「大丈夫だよ。何?心配だった?」


「そりゃあね…あ、どうも。俺はルイのパートナーだ」


 彼はルイの頭を撫でながら、椎名の方を見る。


「ルイの元先輩か。なるほどね。何かのスイッチが入んないとできないタイプか。別に無理しなくていいんだよ。それか…むしろ相方に少し調教でもしてもらえば?その方が案外楽になれるかもしれないよ?こんな風に」


 彼はこれ見よがしにルイの首に首輪をつけた。それに指をかけて自分の方に引き寄せて抱きしめると彼は笑った。


「こいつはもう俺のものだから、他の奴に傷をつけられるのはやっぱり癪なんだよね。で?どうすんの?少し試してやったら?」


 マゴトが向井に首輪を渡すのが見えた。マゴトは向井に頷く。向井は戸惑いながらも椎名の方に歩み寄る。


「…つけてみてもいい?」


 椎名は否定も肯定もせずにただじっと向井を見つめた。その間に向井は椎名の首にそっと首輪をつけた。ベルトの穴に通して程よいところで固定すると、向井はその姿を見て妙な気分になった。マゴトが首輪に鎖を通してベッド脇のリングに固定する。向井はそれを見てゾクリとした。思わず椎名の耳元で囁く。形容しがたい感情がこみ上げて向井は困惑した。


「イツキは僕のものだよ?契約パートナーになったときから…だからイズミのことは諦めて僕だけを見て…」


「え…?イズミのことは構ってやっただけだよ…辛そうにしてたからさ…もしかして、ミチは…嫌だったのか?」


 向井は無言のまま椎名の上半身を裸にし始める。終わると向井も自分で制服を脱ぎ始めたので椎名は何が始まるのかと少し身構えた。マゴトは椎名の右手首に手錠をはめる。素早く向井の左手を握ったマゴトはその手錠で向井も繋いでしまった。


「…っ!話が違うじゃないですか!!」


 向井は慌てる。拘束されるのは椎名だけのはずだった。なのに椎名は向井と手錠で繋がれてしまった。


「あぁ…この方がお互いに刺激的かと思って。あとはまぁ…使えそうなものはこの中に一式揃っている。二人で思う存分に楽しむといい」


 そう言うとマゴトは少し離れた椅子の上に座って足を組んだ。二人はギョッとした顔のまま彼の顔を見てから近くに置かれた箱の中を覗き込み更に目を泳がせた。いかにもなアダルトグッズが各種揃っている。


「僕らはそろそろ帰ろうかな?ギャラリーが多くてもやりにくいだろうし。先輩方、頑張ってね。また会うこともあるかも」


 ルイは笑って手を振ると外国人男性と共に仲良く別のドアから出て姿を消した。


「どうした?魔力を上げるときに二人は何をする?私だって別に鑑賞する趣味はないが…君たちがやり方を間違えないように見ておく必要がある。体勢によっては首が絞まるから気をつけることだ。私も家にパートナーを待たせているから、さっさと腹を括って始めてくれないかな。パートナーは…卑劣な奴に刺されて死にかけているのを連れて来たら…放っておけなくなった。元インキュバスの…今は女性だよ。ややこしいな」


「あの…マコトさんも…転生者…なんですか?」


 向井が聞いたが彼は笑って首を横に振った。


「詮索はいいから、まずはいつも通りにやってみることだ。で?どっちがどっちを抱くんだ?一回終わったらとりあえず手錠は外してやろう。早く質問に答えて」


 二人はどこか気まずそうにマゴトの顔を見る。向井が口を開いた。


「普段は…僕が…イツキを抱きます…」


「なるほどね」


 マゴトは言って、ぎこちない二人の様子を少し面白そうに眺めた。



***



 ブエルに呼び出されたラウムは成瀬を助手席に乗せて瀬尾を後部座席に配置し、その隣に二人の学生を座らせた。何だか妙に危うい気配の二人だとラウムは思った。


「遅い時間に君たち二人で帰らせるのも不安ですからね。職場体験とは名ばかりの…とんでもない指導を受けたようですが、大丈夫ですか?」


「瀬尾さん…余計な詮索はしない方がいいですよ?」


 助手席から成瀬が遠慮がちに口を挟んで振り返る。


「恭也…随分と他人行儀に呼びますね。いつものように名前で呼んでくれて構わないですよ?契約パートナーなんですから」


 平然と言ったどこかミステリアスな雰囲気の彼を見て二人は妙な顔になって何かを考える素振りをした。向井が声を上げる。


「瀬尾さんって…えっ?瀬尾さんですか!?あの…清葉学園の事務員やってませんでしたか??」 


「あぁ…転職したんですよ。契約パートナーと一緒に働きたかったので…給料も良いですし、恭也と折半して社員寮を使わせてもらっているので生活も楽になりましたよ。君もここに就職するんですか?」


「あ…えぇと。就職したいですけど…できるかどうかは分かりません」


 向井はうつむいた。瀬尾は笑った。


「そうでしょうか?どうでも良い相手なら…ここまで契約パートナーとの過ごし方まで、指導なんかしないと思いますけど…キスの仕方まで事細かに指導されませんでしたか?僕も…きちんとしたやり方の説明を受けるまでは、ただなんとなくやってたんですけど…相手の魔力を効率良く上げる場所は必ずあるんです。人によって違いますけど…代表的なのは額、唇、首の後ろ胸の上…それから触ると心地の良い場所…痛みのみよりは快楽もあった方が魔力は上がりやすいですね」


「…一星…あんまり具体的に言われるとこっちが気まずいよ。雨宮さんだって困ると思うし…」


 瀬尾が言うと運転していた女性は涼しげな顔のまま言った。


「別に子どもではないんですから、この程度の会話は平気でしょう。二人は契約パートナーなんでしょう?セラヴィも残念ながら同性のパートナーに対する偏見がゼロとは言いませんが、理解はある方だと思います。私自身相手の性別にこだわりはありませんから…」


 話しているうちにかなり年季の入ったアパートに到着する。椎名は恥ずかしそうな顔をした。


「俺たち…縁切られたから…貧乏暮らしなんです。なのに…俺…前の金銭感覚が抜けなくて…ちゃんとしないといけないのに…ダメダメで…ミチ…本当は進学したかったんじゃないのか?俺が…ミチの人生めちゃくちゃにしたんじゃないの?」


「すみません…イツキはちょっと今不安定で…」


 アパートの方を見た女性は、おもむろにスマホを取り出すと誰かと話し始めた。


「えぇ…魔力は満ちていますが…精神面があまり安定していないので…二人で今夜過ごすのは不安が…はい、はい…分かりました。ありがとうございます」


 通話を終えると女性は振り返る。


「明日の通学に必要なものと着替えを取ってきて下さい。セラヴィの寮の方に移動します。成瀬さん、ついて行ってもらえますか?」


「えぇ?僕が?」


「はい、お願いします。ドアは完全には閉めないで待っていて下さい。いいですね?」


 有無を言わせない言葉に成瀬は押し切られて仕方なく二人について行くことになる。ギシギシ鳴る階段を上がって彼らがアパートの中から荷物を取って戻るのを待つ。開いたドアの隙間から女物のサンダルが見えて妙な気分になった。立て付けが悪いのかドアは完全には閉まらず少し開いたままだった。念の為につま先を少し玄関内に入れておく。他に誰かいるのだろうか。中から時折女の笑い声が聞こえた。同居人だろうか。


「お待たせしました」


 一つのスポーツバッグに荷物を詰めた二人が戻ってきて部屋の電気を消す。向井がドアに鍵をかける。成瀬は最後に部屋を振り返った。窓のところに白い顔が見えた気がしたが、すぐに見えなくなる。首をひねりながら戻ってくると、雨宮の姿をしたラウムは無言のまま成瀬の顔をじっと見つめた。

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