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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ブエル&向井の場合

 その後今野は魔力回復薬のサンプルを貰い、加納と共に帰って行った。マゴトは連絡先を交換し放課後都合の良い時間に会社に来るように伝える。マゴトは椎名が目覚めるのを待っていた。先に帰したはずの向井が戻ってきたのは、その頃だった。ブエルが呆れたような顔をして医務室に迎え入れる。


「…忘れ物でもしたのかい?」


 ブエルが言うと意外なことに向井は頷いた。


「…椎名を置いて帰れないから…」


「やれやれ、君も厄介な子を好きになったんだね…」


 ブエルの言葉に向井は眉をひそめる。


「先生は…気持ち悪いとか思わないんですか?同性の契約パートナーって…僕と椎名の養父は先生と恐らく同世代かと思いますけど…軽蔑の眼差しで見られました…育ててやった恩を仇で返すとは…と…言われました…」


 ブエルは向井の肩をぽんと叩くとソファーに座るように促した。ブエルは冷蔵庫からペットボトルの麦茶を取り出すと向井の前に置いた。ブエルも同じペットボトルを出してキャップをひねる。いただきます、と言って向井は頭を下げた。


「そうか。ま、色んな考え方があるけど、この会社にだって同性の契約パートナーはいるし、私は別に気持ち悪いとは思わないよ。ここで転生者が働きやすいっていうのは、パートナーどうしを近くの部署に配置して、どっちかが体調不良になってもすぐに対応できるシステムにしているからだな。最近じゃ魔力回復スペースも作ったからパートナーがいない者でも問題なく働ける環境だし…君がこの会社を選んだのはある意味正解だと思うよ…」


「でも…僕は…椎名の暴走を止められなかったんです。パートナーとしては失格だ」


「彼が暴走したのは…煙草の魔力回復薬にネットで簡単なアンケートに答えるだけで体質に合った魔力回復薬が処方されるという…安易で胡散臭いサイトから購入した薬を服用して…それを今野くんにも飲ませたせいだよ。君も…契約パートナーだから一緒に飲んだことがあるだろう?その時彼の様子はどうだった?」


 向井は沈黙した。それから重い口を開いた。


「…最初…イツキは…覚醒したみたいになりました。僕もそうで…魔力が上がった気がしました。でも…二回目には…初回ほどの高揚感は得られませんでした…イツキは苛々していて…僕は魔力回復薬を止めるように言ったけれど、聞き入れてはくれませんでした。イズミも同じでした。イツキが簡単に飲ませてしまって…最初は視界がクリアになったって言って…体調も良さそうでした。二回目もイズミには効いていた…でも…三回目以降は…だんだん効かなくなっていきました…僕は自分よりも、ひょっとしたらイズミの方がイツキのパートナーを務められるんじゃないかと思って内心では焦っていた…イツキが次第にイズミに過激な要求をするようになっても…自分も同じ事を要求されていたから…それが異常なことにも気付けなかった。僕はすでにどこか…もう…おかしくなってしまっているのかもしれません…」


 向井は麦茶をごくごくと飲んだ。


「おかしくなってしまっているかもしれないって、疑う余地がある分、まだ君は戻ることができるよ?転生前の彼は確かに拷問官だが…彼はその頃の記憶を思い出している訳ではないんだよ。今日、将来契約パートナーになりそうな幼馴染の子に今野くんを迎えに来てもらったから、彼らには正しい拷問の仕方というか…相手を傷付けずにお互いの欲望を満たせるやり方を教えるつもりでいるよ。まぁ、医者の範疇を超える教育に関しては息子の方に任せてあるから、彼から学んでもらうことにする。私は椎名くんや君にも再教育が必要だと思っている。じゃないと君はこの先も危険に晒されるだろうから」


 向井はブエルの言葉に神妙な顔をして頷いた。


「そろそろ…椎名くんも目覚める頃だろう。ようやく薬の効果も抜けただろうから…あまりいい気分とは言い難いだろうが…今日このまま帰ると君が大変な目に遭いそうだから、君たちは息子から小一時間ほど二人で指導を受けてもらうことにするよ」


 そのとき椎名が寝ているベッドのカーテンが開いて、長身の男性が姿を現した。向井は驚いて相手を見上げる。


「息子のマコトだよ」


「目を覚ましたよ。彼も納得しているから、少々部屋を移動する。こっちだ」


 向井は先ほど通り抜けてきたクローゼットの横に来た時には見た記憶のない扉を見つけた。あまり細かいことは質問しない方がいいだろうと口をつぐむ。ベッドから起き上がった椎名は、小さくうめいた。


「気分…最悪だよ…あ、イズミは!?」


 ブエルはそれでもイズミを心配する様子の椎名の発言にやや呆れた顔をした。


「心配するくらいなら、やり過ぎたって自覚はあるんだな。やり過ぎる前にセラヴィの優秀な社員が君を止めてここに連れて来たんだよ。犯罪者にならずに済んだことに感謝した方がいい」


 ブエルの言葉に椎名は気まずそうな顔をした。


「…すみません…俺…最近…調子悪くて…こいつとヤっても魔力上がんなくて」


 椎名の言葉に向井はギョッとした顔をしたが、諦めたようにため息をついた。ブエルは首を振る。


「それは向井くんのせいじゃなくて、君が適当な魔力回復薬を服用しているせいだよ。この薬は没収する。飲まない方がまだマシだ」


 ブエルの手に持った袋を見て椎名は向井を睨み返した。


「お前!勝手に!!」


「二人とも、怪しい薬物に頼らなくても魔力を上げるやり方を教えるからさっさと部屋に入れ」


 マゴトは腕組みをして二人を待っていた。慌てて二人は部屋に入る。一見すると清潔そうな広いベッドの置かれた部屋だ。マゴトは扉を閉めた。ベッドの上にはなぜかこちらに背中を向けた人物が裸で座っていた。


「さて…それでは転生前は拷問官だったらしい椎名くん、君はこの中でどの道具を好む?」


 マゴトが壁の一部を動かすと中にはずらりとハードプレイを連想させる鎖や手錠や首輪、二人が見たこともない形状の危険そうな道具が並んでいた。椎名は絶句する。


「向井くんはどれが好きかな?試したことのある道具があるなら教えてほしい。ちなみに私は仕事として拷問官も経験がある。死なない程度に痛い目に遭わせるのは得意だ。君は鞭の使い方もなっていないようだから…まずは鞭の使い方から指導しようか?」


 マゴトは手に取った鞭をひゅんと振った。鋭い音が鳴る。


「皮膚を裂かない程度に叩かないと意味がない。痛いけれど気持ちいいと痛いだけで辛いとでは…その後の行為にも大きな影響が出る。向井くんの背中は傷だらけだったからな。同じところばかり何度も何度も叩くからだ。少しずつずらして…同じ場所は二回以上は叩かない努力をしろ。拷問官だったなら…少しはその意地を見せてみろ」


「あの…この人を…叩くんですか?」


「そうだ」


「えっ…?」


「大丈夫だ。よくできた人形だ」


「ええっ!?」


 人形だと言われたその背中があまりにもリアルで椎名は二度見する。


「なんだ?見覚えでもあるのか?」


「いや…どう見ても…」


 人形ではない。それに見事な金髪だ。この背中に椎名は見覚えがあった。傷はないが多分そうだ。


「マコトさん…さすがに人形ってのは無理があるよ…」


 人形が振り返って笑う。どうしてここにいるのかと椎名は相手を見て驚きのあまり手にした鞭を落としてしまった。


「久し振り。椎名先輩。そんなに驚く?」


 笑顔で振り返ったのはルイだった。 

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