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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ジーン&ミヤビの場合

「まず…君の養父についてだが…君は日常的に養父から先ほどのように暴行を加えられている、そう思って間違いはないのかな?今日、たまたま虫の居所が悪くてそうなっただけ、という風には見えなかったから聞いているのだが」


 ジーンの問いかけに三夜美は頷いた。


「お父さまは…少し前までは優しかったんです。でも…ヒジリが来てから…何もかもがおかしくなり始めて…僕は要らない子なんだろうって思うくらい…。その頃からです。暴力が始まったのも…ヒジリは福音の鳥の会のシンボルに相応しい天使の転生者だって…お父さまが言ってました。本当は最初は…僕の身体が他の人よりも弱いからって…福音の鳥の会にお話を聞きに行ったはずでした。でも事故でヒジリがあんなことになって…僕じゃなく助けるべきなのはヒジリだって…」


 ルイは何とも言えない心境になりながら、三夜美の手を握っていた。養父母に引き取られた転生者は今度は限られた転生者同士の争いの中に身を投じる。誰がどれだけ愛されて優遇されるかが全てで、それに負ければ施設暮らしの時よりも悲惨な目に遭うことも多いのは分かっていた。嗜虐趣味な養父に当たったせいで、毎週金曜に鞭打ちの刑にされていたルイにしてみれば、いつ暴力が振るわれるか分からない三夜美の家での生活は余計に神経をすり減らすと思った。ルイはいまだに金曜日になると背中がムズムズする。金曜日だと意識した途端にこれだ。カウンター席にいるストラスと目が合って、ルイは見えない首輪を引かれたのを感じた。


(ルイ…我慢できるか?)


(うん…平気…)


 少し首輪を絞められたルイは、それで生きている自分を実感したようだった。気絶しない程度にルイに刺激を与えたストラスは、それでルイが再び落ち着きを取り戻すのを感じて複雑な気持ちになった。ルイが首輪を手放す日はまだ先になりそうだと思う。仕方ない。死にたいと口にしなくなっただけでもかなりの進歩だ。三夜美には自傷癖もある。なかなか手強いに違いない。


「それで…ヒジリを早く助けてもらうために…お父さまは急におかしなことを始めたんです。ジェシカを使って…無垢なる魔力を集めるためって…始祖さまは子どもの魔力を集めているらしくて…少しずつ大勢から集めるつもりで…あのシールを作ったみたいです。お父さまは福音の鳥の会には優秀な研究者がいると言ってました。まさかジェシカが僕の絵を勝手に使っているなんて、その時まで思ってなかったんです」


 片手を上げてジーンは続きを話すのを制した。そうして三夜美の顔を見る。


「…その無垢なる魔力のことだが…一つ君は思い違いをしているかもしれない…始祖と呼ばれる人は、子どもの魔力を集めてはいないんだよ。シールのことも何一つ…知らないようだった…今、私の知り合いが直接乗り込んで話し合いをしているところなんだけれどね」


 ストラスはそこで、始祖が写り込んでいる画像をタップして拡大させると、パソコンを持ってやってきた。画面には尊大な態度でデスクの上に足を組んで座っている白いスーツ姿にウェーブヘアーの男性が映り込んでいた。彼は色付きの眼鏡の下から鋭い視線で、始祖と呼ばれる男性のネクタイを掴んで自分の方に引き寄せていた。とても堅気の人物には見えない。三夜美は彼が始祖を殺してしまうのではないかと危ぶんだ。


『…本当にお前は何も知らないんだな?サラクエル?』


『しっ、知りません。本当です。第一私は…魔力を集めたところで…それを使いこなせません。あなたじゃないんですから』


『嘘ついたら日本じゃその昔は地獄の閻魔様に舌を引っこ抜かれるって話があったそうじゃないか。知ってるか?知らないだろうなぁ…転生して、すっかり記憶も失って…好き勝手やってる研究員を野放しにしてるんだから…。お前、トップなら知らぬ存ぜぬじゃ済まないんだよ?さっさと対処しないとお前が逮捕されるぞ?別にこっちの知ったことじゃないけどな』


 男性は乱暴に始祖のネクタイから手を離した。始祖はよろける。


「おいおい、悪乗りし過ぎだよガブリエル」


 ストラスが言うと、彼は画面の方を見てニコリと笑って片手を上げた。


『やぁ、見てる!?リアタイの配信ってゾクゾクするねぇ。ちょっと脅してみたけど、嘘は言ってないようだよ。お偉い始祖さまを名乗る割には随分とお粗末だけどね。でも始祖さまのためにって、養子を助けてもらおうとして必死に魔力を集めてる親子がいるんでしょ?その魔力はどうやら、ここにある研究室ってところに集められているみたいだね。そしてそこで消費されている。だから、集めた魔力を使っているのも始祖じゃないどころか、このおじさんはそんな指示も出してない。この人は神様の真似事をしてみたかっただけの、しょうもない元天使なんだよ。ちょっとだけ死に関することに詳しいから偉そうにしてただけで…僕からしたらその程度で調子に乗るなって話』


 ガブリエルはそう言った。誰と会話しているのかと訝しむ顔付きの彼にガブリエルは告げる。


『別に誰だっていいでしょ?魔界において神に匹敵する座にいる悪魔って言えば察しの悪い君でも分かるかな?シールの餌食になった子が、たまたま王妃の友だちの弟だったのが運の尽き…いや、逆に今発覚してまだマシだったのかもしれないよ?学校中の生徒が原因不明の魔力欠乏を起こして眠り続けることになったら、お前は責任取れるの?無理だよねぇ…それとも奇跡とやらを起こして次々に目覚めさせるのかい?』


 ガブリエルはそう言って机の上から降りると立ち上がった。


『じゃぁ…とりあえずは、その研究室にでも行ってくるとするかなぁ…大丈夫大丈夫、シールにはやっぱりシールで対抗だよねー』


 ガブリエルは透明なシールを片手に持ってヒラヒラ振りながら部屋を出る。あれはまだ魔力を溜めていないシールだとリツは思った。ストラスのカメラもガブリエルの姿を追う。しばらく歩くと研究室と書かれたドアの前に着いた。ガブリエルは呼び出しも押さずに手をかざしてドアを開けて突入する。


『だ、誰だね君は!勝手に入ってくるんじゃない!』


 白衣の人物が声を上げたが、ガブリエルは意に介さずドアを閉めて彼に詰め寄った。


『子どもにシールを渡して、無垢なる魔力を集めてる変人って、杉田センセーのことだよね?』


 ガブリエルはニコリと笑う。医師の杉田は険しい表情を見せた。


『将来的に魔力回復薬がなくても死なない程度に誰かから魔力を貰って楽に生きられればいい…うーん、発想自体は間違ってないんだけど、実験対象に子どもを選んだのが間違いだよね。それにそれは表向きの理由で本心は別のところにある…』


『ちっ…違う!!これは始祖さまの奇跡のためでもあるんだ!』


『そんなこと、本人は頼んでもいないのに?』


 ガブリエルは呆れたように言った。背後から近付いて攻撃しようとした人物に向かって素早くガブリエルは透明なシールを貼り付ける。医療用のメスで攻撃しようとしていた研究員の一人は、驚いた顔で自分に貼り付けられたシールを見て、その直後に白目をむいて倒れた。杉田医師は苦々しい顔つきをして、ガブリエルを睨んだ。


『なんだ、さては同業者か?それならば言わせてもらうが、ある程度のイメージ戦略は必要だろう…眠って目覚めない子を始祖さまが目覚めさせる…その奇跡の恩恵にあずかった者からの寄付金で、私はまた次なる研究を行うことができるんだ…慈善事業ばかりでは金にならないからね。始祖さまはこのからくりなぞ知らなくていいことだ。彼は所詮は客寄せパンダだ。始祖と崇められて…笑っていればいい。奇跡などこの世には存在しないと知ったら、永遠に目覚めない子がいつか目覚めると信じている親は絶望で死んでしまうだろう。つい最近も…元天使の転生者を目覚めさせろと…無理難題を叫ぶ愚かな男がやってきたよ。おおかた…自分で怪我させたか身内がやったに違いないのに…愚かなことだよ…』


『ま、その愚かさについては僕もまったく同意見だよ。あそこまで昏睡状態になってしまうと無理だろうね。だけど、元気な子をわざわざ魔力欠乏に陥らせてまで、始祖の奇跡を演出する必要があるのかと言ったら、その点についてはやり過ぎだと言わざるを得ないね。それにあのシールは欠陥品だ。君が思うほどの魔力は流れてこない。確かに渡したシールには溜まるけど、この装置にまでそのシールに吸収された魔力が届くかと言ったら…残念ながら半分以上が移動距離で消費されてしまう…むしろ集めた魔力が無駄になっているんだよ。シールそのものを回収した方が無駄がない。こんな風に』


 ガブリエルは白目をむいて倒れている研究員からシールをはがす。透明なシールはいつの間にかオレンジ色に変わっていた。


『ふぅん、元賞金稼ぎってやつ?これは前世の魔力によって色が変わるから、自分と同じ魔力が色で分かるって訳。魔力が足りなくなったら似た色を貼ればいい。僕は別に何色だって気にしないけどね。全ての色を重ねれば光は白になる…何色を吸収しても僕は色には染まらない…』


 ガブリエルはそう言ってシールを自分に貼り付けた。一瞬でガブリエルに吸い込まれてシールは再び透明になる。


『…要するに君の研究は無駄だから、この辺りで打ち切りにするべきだよ。だいたい子どもの魔力が無垢だと思っているのも驚きだけど…無垢なのは生まれたての赤ん坊くらいかな。小学生にもなるとむしろ欲まみれだよ。あれも欲しいこれも欲しい愛されたい必要とされたい…君、子どもがいないから、子どもって存在に夢を抱いてるんじゃない?僕はこう見えて子育てしてるからね。君のように馬鹿みたいに神聖なものだと思ったりはしていないよ。それに…残念だけど、君が気にかけている人も…どうやっても目覚めないよ…』


 そこでガブリエルは会話するのに飽きたかのように、医者に向かってシールを貼り付けた。透明の大きなシールを貼り付けられた途端に彼は気を失って倒れた。


『おーさすが、僕の作ったシール!死なない程度にちゃんと魔力不足にできてる』


 ガブリエルは楽しそうに笑う。良くも悪くもガブリエルは置かれた状況を楽しむところがある。奥の部屋から現れたもう一人にもガブリエルはシールを貼り付けた。ところが一枚ではまだ動けたので少し小ぶりなシールをもう一枚追加する。


『なるほど、これが実験の成果ってことなのかな?彼は少し他の人よりも魔力が強いね…でもこの程度か…』


 部屋にあったパソコンの画面を覗き込みながらガブリエルはつぶやく。ガブリエルにしてはやけに素早くキーを操作していると思ったら、いつの間にかジーンがゴーグルのようなものをつけて指先を動かしていた。


『わぁお、指が勝手に動いて気持ち悪いなぁ…』


 よく見るとガブリエルの胸にもシールが貼り付いていて、同じ物がジーンの胸にも貼られていた。やけに暗い赤のシールだ。


「試験的に作ってみたが…なるほど、使い道はあるな…わざわざ移動しなくてもガブリエルを遠隔操作できるが…お互いの血をシールに流し込むなどという、悪魔的な方法を天使が思いつくとはいやはや…ガブリエルらしいよ…通常の感覚ならあまりやりたいとは思わない…」


 タンッと指先が少し強く動いて、リツはそれがジーンがエンターキーを押すときの仕草だと思った。


『なるほどーこれで解除可能な訳ね』


 ガブリエルは今度は近くにあった装置のボタンを押した。ずっと稼働していた装置が停止する。


『どうする?これ破壊する?』


「そうだな。跡形なく燃やしてしまえばいい。原因不明の出火…」


『オッケーじゃ、遠慮なく』


 楽しそうにガブリエルは炎を出して装置のみを燃やし尽くす。きれいに燃えたことを確認すると、ガブリエルは近くから消火器を取って噴射した。それからガブリエルはたっぷりと魔力を溜め込んだシールを二人から剥がして持ち去る。ストラスのカメラは周辺の映像履歴を書き換えた。ガブリエルは研究室には入っていない。実験中に突然出火して機械が燃えたことになっている。鎮火はできたが機械は燃えてしまった。


『魔力を集める機械を作った記憶も消しといたから、あの先生はもう何の実験をしようとしてたのかも、覚えてないよ。あとはもう一人…厄介な子がいるからね…』


 ガブリエルはそう言うと、建物内を見渡して姿を消した。

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