コーキ&圭一朗の場合 3
その後光輝と遠野圭一朗はキングサイズのベッドがある部屋に通されてドアを閉められてしまった。光輝は気まずそうに立ち尽くしていたが、そんな光輝のところに圭一朗の方が近付いて来た。
「傾国の美男って言い方あるのかな?いまいちピンと来ないけど。まぁコーキはコーキだからね」
「なんだよそれ…」
「いや、別に…本当に契約パートナーに…なってくれるの?」
「なるよ。ケイくんが嫌じゃないなら…だけど」
「嫌だったら一緒にいないよ」
遠野はベッドに座ると光輝を手招いた。まだ照れ臭い。
「今日は…子どもの頃みたいに…一緒に寝ようか。僕はその方が朝…起きられる気がするんだよね」
遠野はスマホを取り出して二人の名前を入力した。少しの間があって祝福の画面に変わる。その後お互いに必要事項を入力して区役所に提出が済んだ。光輝の誕生日が過ぎて約一ヶ月が経つ。今思えば一輝とパートナー契約を解除したのは二ヶ月ほど前のことだった。光輝の誕生日が近かったからだろうかと今更ながら思う。
「ケイくん…?」
「久し振り過ぎて緊張してきた…」
光輝はそんなことを言い出した遠野の肩に腕を回すとそのままベッドに倒れ込んで、首の後ろに口付けをした。その場所を発見したのは偶然だった。プロレスごっこのようなことをして遊んでいるときに、そこに触れると相手が心地良さそうな顔をすることに気付いてしまったからだった。
「ねぇケイくん、首よりも唇の方がもっと魔力は流れるみたいだよ。でもケイくんはもう知ってるよね。お芝居ではキスすることあるから…俺さ、キスしたことないの。共学になったって言ってもほぼ男子校だしさ。ふざけてしてる奴とかもたまにいるけど…何となくできなかった…」
光輝は起き上がると上から遠野を見下ろした。
「ねぇ、試してみる?契約パートナーになったんだから…どのくらい違うのか…キスの仕方…俺に教えてよ」
遠野は手を伸ばして光輝の髪に触れると一気に体勢を入れ替えて光輝の上に馬乗りになった。無意識に前髪を掻き上げる。番宣と同じポーズで遠野は胸元のボタンを一つ外した。光輝の顔が赤くなるのが分かった。
「ケイくん…エロい…」
「…コーキ…これが流れたとき…食い入るように見てたよね…」
光輝を見つめる瞳に仄かに光が宿る。画面越しには感じ得ないであろう遠野の魔力が光輝を絡め取っていた。ゆっくりと顔が降りてきてキスする寸前で止まる。
「コーキの魔力もらうね…」
静かに唇が重なった。光輝は目を閉じる。柔らかな感触と共に魔力が流れるのを感じた。相手に任せていると口の中に舌が入り込んできて絡まった。光輝は思わずビクッとした。
「真似して…コーキ…」
「ん…」
光輝は自分は下手くそだと思った。想像では何度もしていたのに、実際に初めてすると全然思うようにいかない。自分がリードするはずが相手のペースに飲まれている。ただただ心地良い。頭がぼんやりして何も考えられなくなる。
(やっぱり…ケイくんは…悪魔なんだなぁ…敵わない)
光輝はそう思ったのを最後に唐突に眠りに落ちてしまった。
***
(コーキ、コーキ?)
(あ、目開けた…)
目の前におかしな格好のルイとアサヒがいる、光輝はそう思った。二人はギリギリ肌が透けそうで肝心なところのみはきちんと隠れている薄い紫の布を身にまとっている。ペチペチと頬を叩かれた光輝はようやく起き上がって、目の前の大きな鏡に写った三人の姿の中に見慣れない赤い長髪の人物を発見した。瞳は黄緑だ。けれどもまったくの外国人という訳でもない。どこか和の雰囲気もあった。着物に似たものを着ているが刺繍は妙に派手だ。
(誰だ?)
首をかしげると鏡の中の人物も同じ仕草をする。
(…転生前のコーキって、こんな風なんだね。ちょっと意外)
そう言ったアサヒに猫耳と尻尾が現れて光輝はとてつもなく奇妙な夢を見ていると思った。いつの間にかアサヒの瞳は青と緑に変わっている。胸が膨らんでアサヒとは似ても似つかない小柄な少女がそこに座っていた。胸元まで伸びた黒髪をぼんやりと見ていると、先ほどのアサヒのパートナーが男性の姿で現れた。
(おいで。ベレト、可愛がってあげよう)
ベレトと呼ばれた少女は彼の隣に立つと言った。長い尻尾が揺れる。
(ここは半分夢で半分が現実。現実で勇気の出ないことはここで試せる。ベレトはアサヒの転生前の姿だよ)
フッと笑ったベレトを彼は軽々とだき抱えた。その腕にタトゥーのような模様が広がる。彼の首に腕を回してベレトは片手を振った。
(現実で悪魔の姿で抱き合うと…相手を壊しそうなときは、ここで慣らすんですよ。段階を経るのには有効です…)
ベレトを抱えた彼はそう言ってその場を去ってゆく。
(ルイ、ここにいたのか。コーキ…随分と化けたなぁ…)
ストラスがそう言って現れた。けれども彼は金髪の外国人ではなく、声は確かにストラスだと思ったのに、そこに立っているのは少しクセのある長い黒髪に、猛禽類のような鋭い金の瞳の恐ろしくガタイの良い男性だった。
(えっ?誰?)
(あー悪魔の姿の俺だよ。これでも多少はサイズ調整してるんだけどな。じゃなきゃルイが壊れるだろ?)
(もう…ストラスったら、すぐそういうこと言うんだから。もうそんな簡単には壊れないから多少乱暴にしても大丈夫だよ。コーキ、もう少しで遠野さんも来ると思うよ?あの人も悪魔なら、コーキの魔力で少し覚醒したハズだし…あ、来た…えっ?)
ふわりとそこに降り立った遠野は、女性の姿をしていた。すらりと伸びた手足に豊かに膨らんだ胸。白い肌に長い黒髪。淡い薄紫の瞳がアサヒを捉える。不思議そうに辺りを見回して遠野は口を開いた。
(ここはどこなんですか?)
(うん?ここは、僕の紡いだ夢の中って言えばいいかな。でも現実にも半分程度は繋がってるから…その姿で楽しみたいならそれもありだと思うけど?)
ルイが言うと、遠野は納得のいかない表情を浮かべて、自分の手足を眺めた。光輝も自分の腕をみやってため息をつく。
(想像よりも…俺って筋肉がないなぁ…)
(そりゃ、皇帝の寵愛を受けてたんなら、ムキムキのゴリラって線は低いでしょ…美形だしアリだと思うけど)
ルイが言うので光輝は思わず笑ってしまった。けれども光輝はハッとして次の瞬間一気に青褪めた。
(ど、どうしよう!ヤバい…ない…!!うわぁ!なくなってる…取られた!?そうなのか?)
光輝が股間に手を当てて絶望的な声を上げる。混乱して平らな胸も触る。あまりの慌てっぷりにストラスが笑い声を上げたほどだった。
(あーなるほど。それでどこか中性的な見た目なのか。大丈夫だ。そんなものは、すぐに生やせる。半分夢なんだから)
ストラスが何でもないことのように言うので光輝は口をパクパクさせた。
(毎日トイレに行ってりゃ嫌ってほど見てるだろ。想像しろ。自分の身体だろ?)
(えっ?そんなこと言われても…)
光輝は青くなったり赤くなったりと忙しい。そんな光輝の向かいに美女の姿の遠野が座り込む。
(焦らなくても大丈夫だよ。見せて?どうなってるの?あらら、ホントだ…きれいにまるっと…何にもないんだ…)
(ちょっと、ケイくん、サラッとめくって見ないでよ…恥ずかしい…)
(子どもの頃から一緒にお風呂に入ってるんだから、見慣れてるでしょ。どこにホクロがあるかも分かるよ。ふーん、でもさすがに同じ場所にはないんだね。おヘソの下にそんなホクロなかったしね…)
遠野は光輝の前世の身体に興味津々だった。
(ちなみに僕は、左胸のここにホクロがあるのは一緒。この前撮影してて初めて自分の首の後ろにホクロがあるんだって気付いたんだよね。背中とか認識してないところもあるなーって)
言いながら遠野はするすると光輝の着物を剥いでゆく。
(ちょっ、待って!ケイくん!)
ストラスとルイはしばし二人の様子を見守っていたが、案外楽しそうなのでひとまず光輝の大事なものがついていない件については保留にした。
(まー仲良さげだから、あれはあれで触れ合っているし魔力も少しは上がるんじゃないかな)
ストラスはそう言ってルイを抱き上げる。
(あってもなくても、遠野さんはあんまり気にしてないみたいだしね。僕は初めて女の子になったとき、なんか股の間がスカスカしてすごく変な感じだったけど…)
ルイはストラスの首に腕を回した。するとストラスは笑って言った。
(何だかんだで彼も悪魔だから、あんまり性別にこだわりはないのかもしれないな。多分あの姿だって巨乳好きなコーキへのサービスなんだろうし)
(あ、そういうこと?じゃ、しばらく二人きりにしても問題なさそうだね)
ルイはどこか納得したように頷いて微笑んだ。




