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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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アサヒ&コーキの場合 2

 一方でアサヒは光輝との関係性を今まで通り続けるために、少し喋り過ぎた自分に後悔していた。だがすでに遅い。それに誤魔化し続けても、光輝の好きな相手もまた悪魔の転生者なのだ。そのうちいつか生温いこの関係は破綻する気がした。アサヒは小さなため息をついて肩をすくめる。想像がつかなかった。


「確かに僕は前とは変わってしまったかもね…ちょっと来て、コーキ。色んなことに納得してないでしょ?」


 アサヒは二階に向かう。光輝は困惑したまま階段を上って後をついていった。更に階段を上ってアサヒはドアをノックする。たくさん部屋がある。随分と広い豪邸だと光輝は思った。


「コーキは多分、僕が女性を妊娠させるのはおかしいって思ってるよね。半分は当たってるかも。僕は同性が好きなんじゃないかって自分でも時々思ってたから。ルイみたいにカミングアウトする勇気と決定的な何かがあった訳じゃないから今までは曖昧にしてた…最近になってそれが相手次第だって分かったんだ」


 ドアが開いてまだ女性の姿のラウムが顔を出した。着替えは済んでいる。ラウムは微笑んでアサヒの髪を撫でた。


「どうしましたか?」


「あの…少しの間、男性の姿に戻ってもらえませんか?じゃないとコーキが納得しないので」


「あぁ…それは構いませんが…少しだけですよ?」


 ラウムはそこで男性の姿になる。光輝は驚きのあまり固まってしまった。女性のときの面影はあるが整った顔立ちの男性だ。アサヒが好きになるのも納得してしまった。ラウムは微笑む。


「君は…リツさんの変化はすんなりと受け入れるのに私が姿を変えると驚くのですか?私も悪魔ですからそのくらいは造作もありませんよ?でも妊娠しているのは本当です。そのときは女性の姿でアサヒに抱かれましたから。私はあまり性別にこだわりはないんですよ。アサヒと一緒にいられるなら、それでいいんです」


「え…っ…アサヒも…そう…なのか?」


「僕はどっちが抱くか抱かれるかはその時の気分次第のときが多いから…どっちもいけるよ。コーキはまだ自分のことを素直に認めたくないのかもしれないけど、コーキは遠野さんが好きなんでしょ?ここには同性で付き合ってる大人もたくさんいるから、別に自分だけが変じゃないって…僕はむしろ気楽になれたよ。今やっと楽に息ができるようになったんだ…」


 そのとき近くのドアが開いて瀬尾と成瀬が出てきた。


「あれ?いいの?見せちゃって。あんまりバラすとまずいのは遠野さんだけなのかな?コーキくんだっけ、君も悪魔にならないかい?」


「ちょっと、瀬尾さん!そんな軽いノリで友だちを誘わないで下さいよ!!」


 アサヒは慌てる。光輝は口をパクパクさせていた。瀬尾がきれいな顔で微笑む。


「そのうち…遠野さんも、きさらぎさんの影響を受けて記憶を取り戻す可能性は高いよね。そうなると…そのとき隣にコーキくんがいたら一緒に連れて行くんじゃないかな?どう思う?恭也」


「突然こっちに話を振らないで下さいよ。まぁ…でも…悪魔のそばにいれば少しずつ記憶は戻りますよ。良くも悪くも…ですけど。自分の経験談で話しているだけですけどね」 


 瀬尾はどこか不本意そうに答えた成瀬の腰にするりと手を回した。


「コーキくんも、遠野さんにこういうこととか、それ以上のことを望むなら…お父さんに遠慮なんかする必要ないと思うよ?遠慮してたら他の誰かに魅力的な魂はすぐに奪われるからね?」


 瀬尾は少し屈んで成瀬の首に口付けをする。成瀬はくすぐったそうな顔をした。光輝は驚いてその姿を見ていた。


「あ…あの…お二人って…」


「うん?付き合ってるよ?契約パートナーだし、同じ部屋に住んでる。それはアサヒくんたちもだけどね?セラヴィは社内恋愛も問題ないから転職したんだよ」


 そこまで言われて光輝は目を見開いた。


「あー!!瀬尾さんって!あの事務員の瀬尾さん!?うわっ!前とあまりに別人だから同一人物だと思わなかった!学園で事務員やってた頃って毎日倒れそうな顔してませんでした!?髪型も何だか違うし…」


 瀬尾は思わず笑ってしまった。倒れそうな顔、確かにそうかもしれない。ストラスに魔力回復薬を回してもらう前はかなり酷かった自覚はある。


「うん、そうだね。あの頃は契約パートナーもいなかったから…でも今はこうして相性抜群の恭也がいるから、むしろ体調はとっても良くなったんだ」


 瀬尾は微笑んで成瀬を背後から抱きしめた。


「そろそろ姿を戻してもいいでしょうか?夕飯の支度も整っているでしょうから」


 光輝の目の前で青年が女性の姿に変わる。顔立ちはどことなく面影があるのに、明確な男女の違いがあった。思わずその豊満な胸に目をやった光輝を見てラウムはクスリと笑う。


「触ってみますか?」 


「ちょっ…!コーキは巨乳に弱いんですから誘惑しないで下さい!!」


「アサヒも好きですよね?」


 顔を覗き込まれたアサヒは思わず照れて顔を赤らめた。否定はしないが、お揃いのニップルピアスをつけていることだけは絶対に光輝には知られたくない。そこまで考えて不意にアサヒは矛盾を感じた。


「コーキは遠野さんのことが好きだけど巨乳も好きなの?」


「……」


 光輝はアサヒを小さく睨んだ。光輝はため息をつくと白状した。


「…そうだよ。アサヒに言われて目から鱗って感じ。俺もそうなのかも。女の子も巨乳も好きなのは本当だけど、ケイくんのことはなんでか分からないけど諦めたくない…だいたい…あの番宣が悪いんだよ。女装したケイくんを見たらムラッときて我慢できなくなった」


「あぁ…きさらぎさんに馬乗りになってるやつ…キテたよね。コーキくん、あの遠野さんに欲情した男は多分君だけじゃないと思うよ。無意識のうちに、転生前の力を使ってるってところなのかな。あの色気…コーキくんのように好意を寄せてたら余計に吸い寄せられると思う…深層心理できさらぎさんのポジションを自分に置き換えて想像してしまう…」

 

 見透かされた光輝は照れたように口元に手を当てた。あの衝動は好きだという純粋な気持ちよりも、もっとどろりとした得体の知れない獰猛な生き物としての本能のようなものだった。瀬尾の言葉を聞くともなしに聞いていたラウムは雨宮涼の姿で振り返ると言った。


「地方ロケ…念のために警護の者を同行させるべきかもしれないですね。きさらぎさんもそうですが遠野さんにも人を惹きつけられる力があるなら、余計な者まで懐いてくる可能性はゼロではないと思っていた方がいいかもしれないです…」


 ラウムは考える素振りをしながら、階段を降りて行った。



***



 テーブルを囲んだ面々に遠野は気後れしていた。光輝は顔見知りもいるからか明るく話していたが、遠野にとっては共演者で最近たまに食事を共にするようになったきさらぎきりとと光輝以外は今日が初対面だ。にも関わらずこの場のほぼ全員が自分のことを知っている。元々人付き合いが得意ではない彼にとっては、ハードルの高い夕飯だった。たくさん料理が並んでいるがどれから手を付ければいいのか分からない。とりあえず光輝の真似をして唐揚げを皿に乗せる。光輝は山盛りだが、一つにしておいた。目の前の席の金髪碧眼の男性が隣の少女に向かって言っていた。


「いやぁ、美味しいねぇ」


 隣の美少女も頷いてナポリタンを口に運ぶ。口の端に先ほどからついていたケチャップを男性の指先が拭ってペロリと舐めた。


「ミ…ミカエルさまっ…!!」


「だってイオフィエルったら、ずっと口の横につけたままなんだもの。それとも直に舐め取ってほしかったかい?」


「人前でなんてことを言うんですか!!」


 ミカエルと呼ばれた男性は笑っている。スキンシップにしても親密だから契約パートナーなのだろうかと遠野が思っている横で光輝はもりもりと唐揚げを頬張っていた。一口かじる。美味しいのだろうか。緊張のせいか味はよく分からなかった。


「やっぱ黒木さんの唐揚げサイコーだよな!アサヒはいいなぁ、こんなに旨いもの毎日食べられて。俺も本気で家出しようかな。やっぱケイくんと住みたい。ダメ?」


 いつも自分の前では大概ふざけている光輝が真面目な顔で遠野を見つめるので、彼は落ち着かない気持ちになった。同時にもう子ども扱いをして済ませるにも限界の体格になりつつあることを悟る。相手がその扱いを望んでいないことは先ほど別室で話したときに分かってしまった。光輝は契約パートナーになりたいと望んでいた。中学三年辺りから今後の慣らしとして契約パートナーを持つ者もちらほら出始める。アサヒがその例だった。


「僕は…不規則だし…どちらかと言うとダメな大人の見本だよ?人付き合いも苦手だし…休日は引きこもりなんだ…」


「だからだよ。もっと人付き合いできるんならまだしも、慣れた人じゃないと無理でしょ?撮影を通じて、きさらぎさんには少しは慣れたのかもしれないけどさ。ケイくんのこと、この中では一番俺が長く知ってるんだよ?撮影終わったら魔力不足で帰宅して家で倒れてたじゃん。正直…今も心配だよね。生活能力かなり低いもん、ケイくん」


 その間にも光輝はガツガツとご飯を食べる。いい食べっぷりで、山盛りのご飯がほぼ消えた。元々食の細い自分よりも光輝はその名の如く光り輝くようなエネルギーに満ち溢れていると遠野は思った。子どもの頃からそれは変わらない。二人の会話を聞いていたきさらぎきりとが苦笑する。


「まるでコーキくんが圭一朗の保護者みたいだね。そんなに生活能力が低いのかい?」


 話しかけられた光輝は照れたような顔をして頷いた。


「ケイくんは…ご飯食べないですぐその辺で寝落ちしちゃうし朝もなかなか起きないし…ぼーっとして歯磨き粉と洗顔フォーム間違えたり…シャツも前と後ろが逆だったり…あー住み込みの家政夫って手もあるか。俺、家事は一通りできるよ?ハナエさんに習ったんだ。いつか一人暮らししたいからって言って」


 近くで食事をしていたアサヒは自分が大した料理もできないことに気付いて光輝の発言を羨ましく思った。そんなセリフを自信満々に言ってみたい。


「圭一朗はコーキくんと住むのは嫌なのかい?」


 きさらぎきりとに言われて遠野は返答に詰まった。


「嫌って訳じゃ…でも…それは…一輝さんに申し訳ない…というか…」


「俺の方から打診してみてもいいよ?一ノ瀬さんとは知らない間柄じゃないから。もしくは二人暮らしが不安なら俺のマンションに住んでもいい…俺は今はこっちと向こうとを行ったり来たりしてるから部屋が空いてる日も多くてね。確かに君は放っておくと、危ういタイプだよ?撮影で一緒になった俺ですら君があまり積極的に生きようとしていないことくらい分かるんだよ。君が生きているのは別人を演じているときだけで…そのことに集中するあまり…実生活においては…そうだなぁ。適当な言葉が見つからないけれど…上の空というか…どこかぼんやりしていてこだわりがない…食生活一つとってもね。ほら、もっと食べないと」


 彼に言われて遠野は半分食べて皿の上に置いたままだった唐揚げを慌てて齧った。美味しいのかどうかも興味を持ったことがない。食べられるならなんでもいいし、ないならないで別に良かった。


「あのさ、前々から気になっていたんだけど圭一朗くん、もしかして味覚障害なんじゃない?市販の魔力回復薬の過剰摂取は味覚に悪影響が出るんだよ。この前も撮影の前に朝食も食べずに飲んでたよね?ここの食事はとても美味しいんだよ?でも、さっきから君は箸が進んでいない…若いのに食べる量も少なすぎて心配だから、俺は君を食事に連れ出していたんだけどね」


 アイムはアイムで、話を聞いていて遠野に対して嫉妬心を抱いた自分が恥ずかしくなった。遠野はアイムが見ても分かるほどの魔力不足だ。ただ、この家の魔力が満ちているから本人は身体の負荷が減っていつもより調子がいいと勘違いしているのだろうと思った。


「僕が…味覚障害…?」


 ぽかんとして、遠野が皿を見つめる。残りの唐揚げを口に入れた遠野は、しばらくモグモグしていたが、やがて納得したように頷いた。


「ほんとだ…全然味がしない…」

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