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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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少年ジーン&少女リツの場合 13

「コーキ…これって一般的な家庭じゃないよ。僕のとこも大差ないけどさ…」


 アサヒの言葉に光輝は笑って振り返った。


「そう?もう慣れたから別に何も感じないよ。むしろ通常運転。機嫌取られる方が気味悪い。あ、ケイくん、地下で待ってるって」


「そう?じゃあ近場まで送るから乗ってけって言っといて」


 ストラスが言いながら、光輝の頭をくしゃっと撫でた。光輝は一瞬子どもらしい表情を浮かべたが、すぐにいつもの表情に戻る。


「うん…分かった」


 光輝がスマホに素早く入力すると、すぐに返信が来た。エレベーターで一気に地下まで移動する。降りると柱にもたれ掛かっている遠野がいた。そんな仕草もどこか様になる。


「家出してきた。俺がいない方があの家は丸く収まるからさ。いつでも俺は不協和音なんだよ」


「コーキ、言い方…」


「なんだよ、アサヒだって家出中のくせに。今日こそきちんと俺に説明しろよ?」


「…そこを突かれると…言い返せないけどさ…分かったよ…」


 駐車場内に移動すると、なぜかスーツ姿のガブリエルがいて手を振っていた。六季が眉間にしわを寄せる。


「…迎えに来なくていいって言ったよね?」


「そんなこと言ってたかなぁ?たまには公共交通機関を使ったっていいでしょ。デパ地下寄ってこ。この腕で再現したい味のリサーチ」


「もー仕方ないなぁ。それなら果物搾ったフレッシュジュース飲みたい」


「はいはい、分かったよ」


 相変わらずどこか胡散臭いガブリエルは六季の手を引いて再びエレベーターに乗り込むと手を振った。


「じゃーまたね」


 ガブリエルが視界から消えるとヒトミは不思議そうな顔をして言った。


「あの人が…ムツキくんの…養父なんだ…想像してたのとなんか…違う…」


「だよね。でも、あぁ見えても天使だから」


 ストラスの言葉を、ヒトミは元天使の転生者だと理解した。皆が車に乗り込むと、ストラスは言った。


「コーキ、遠野さんを口説くなら今だぞ?明日から二泊三日の地方ロケだろ?荷物だけ取りに自宅に寄ってもらって、そのままうち来てもいい。話足りないだろ。あ、遠野さん、俺がスケジュールを把握してるのは、きさらぎきりとも時々うちに滞在してるからなんですよ。知り合いです」


「え…!?えーっ!?いや、今俺久々にバクバクしましたよ。ドッキリかと思ったくらいです。それかヤバいファンなのかとか…色々考えちゃいましたよ。びっくりした…でも…俺も…もう少しコーキとちゃんと話さなきゃとは思ってたから…本当にいいんですか?お邪魔しても」


「あんまり自宅特定されたくないだろうから、近場のコンビニの駐車場にでも停めて待ってますよ」


「えぇと…じゃあ…七区の…このコンビニで…ここだと駐車場もわりと広かったはずなんで…お願いします」


「りょーかい」


 ストラスは言って車を走らせる。ヒトミはようやくあの予告で女装して猟奇的な演技をしていたのが彼だと気付いて、すっかり固まっていた。


「昨日もCM観たよね」


 ジーンが言うと遠野は苦笑した。


「最近、あっちのイメージが定着してきちゃって…ヤバい嗜好の人なんじゃないかって言われたりしてますよ。役の個性が強いとありがちなんですけどね」


 ストラスはコンビニで降りて幾つかお菓子を買う。全てコンビニの限定商品だった。エコバッグにお菓子を入れて戻ってきたストラスを見てジーンは笑いそうになっていた。


「…ストラス…エコバッグが絶妙に似合わないな…何だってそんなに派手な花柄なんだ」


「俺は環境には配慮する方なんですよ」


 他愛もない話をして待っていると、約十五分後に大きなカバンに荷物を詰め込んだ遠野が現れた。


「お待たせしました」


 遠野を乗せた車は再び走り出す。次第に高層マンションは減ってゆき、一軒家の高級住宅街が姿を現した。


「わ…すごい!」


 とある邸宅の前でストラスは門を開ける。車ごと建物と一体型の車庫の中へと入ると車は停止した。他にも三台ほど広い車庫の中に高級車が停まっている。


「到着しましたよ」


 ストラスが言ったとき、視界の横でドアが開いて少女姿のルイが顔を出した。光輝は固まる。ルイのお腹が明らかに膨らんでいて胸も出ているからだった。


「あ…お客さん?いらっしゃい」


 ルイはニコリと笑う。それでも少し顔色が悪かった。ストラスが離れていたからだ。


「ルイ…だよな?ルイ…女に性転換したのか?」


 光輝の言葉にルイはプッと吹き出した。


「性転換したって妊娠できる訳ないよ。コーキの知ってるルイとはちょっと違うとでも思っておいてよ。そういう技術のある異世界に行って女の子の身体になって、ストラスに子種を仕込んでもらった。あ、僕もう既婚者で妊婦だからね?そこんとこ、よろしく」


「ルイ、あんまり一度に全部の情報を開示してもコーキが混乱するだろ?その辺にしておけよ。でもルイは俺の嫁だ。そこのところは確かに間違いはない」


 ストラスはそう言ってルイの頭を撫でた。


「…体調はどうだ?」


「うん…食べたらやっぱり気持ち悪くて…さっき吐いちゃったから先生に点滴してもらったよ。今は平気」


 ルイは人目もはばからずにストラスに抱きつく。


「すいません、嫁が不調なんで、ここから先はしばらく執事に任せます」


 ストラスはルイを軽々と抱き上げると部屋の中へと消える。


「失礼致しました。フォスター邸の執事の黒木と申します。いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 一礼した黒木を見てヒトミはぽかんとした。


「すごい…執事のいる家って…初めて!!」



***



「アサヒ…ルイのこと知ってて黙っててのか?」


「…だって言ったら信じた?見たから信じたかもしれないけどさ…口で説明するのは難しいよ。異世界の新婚旅行から帰ってきたら女の子になって妊娠してた、とか言っても僕の頭がおかしくなったと思われるだろうからさ。時間の流れも違うみたいで、戻ってきたらお腹大きくなってたからさ。ルイのことはともかく…先に遠野さんと話しておいた方がいいんじゃない?明日の朝から出張しちゃうんだから、明日一日休みの僕たちとは違うんだからさ」


 もっともらしいことを言われて光輝はどこか照れたような様子で遠野の顔を振り返った。


「あの…異世界に行ったら女性になって妊娠できる身体になるって本当なんですか?だとしたら費用はいくらくらい…?」


「えぇ?遠野さんもそこに食いついちゃうんですか?その話は…僕は実際のところは、あんまりよく分かってないので詳しい説明なんてできませんよ」


 アサヒが焦っているので、ジーンは普段ストラスが仕事をしている部屋のパソコンを片付けると言った。


「良かったらこの部屋を使って下さい。プライベートのことだと思うので…」


「あ…あぁ、ありがとうございます」


 光輝と遠野はややぎくしゃくした様子で二人で部屋に入るとドアを閉めた。



***



「…まさか、ルイがあの姿で出てくると思わなかったから…びっくりした…」


 アサヒはため息をつく。同時にリストウォッチのアラームが鳴ったので止めてキッチンに向かうと自分のコップで悪魔の気配を消す薬を服用した。


「食べ物でアレルギーなどございますか?」

 

 黒木に聞かれたヒトミは慌てて首を横に振る。


「ないです。苦手な食べ物もないので大丈夫です」


「それは良いことですね」


 黒木は微笑んだ。アサヒはルイに連絡して、女の子のルイの方が光輝に会ってしまった旨を伝える。すでに帰宅していたルイは分かっていたらしく、すぐに返信してきた。


(さすがに分裂してるとは言えないもんなぁ。リツだって二人いるとややこしいから二階にいるよ。ま、今日は部屋から出ないから安心して。いざとなれば一人に戻ってもいいし…それより、アサヒの方が気を付けてよ?ベレトにならないようにね!)


 少し自分に似た猫のスタンプを押されて、アサヒは苦笑した。ヒトミは自分のスマホをチラ見して、父から外泊の許可が出たことを意外に思った。実は連絡をした大人のジーンが魔力で言いくるめてしまったからなのだが、ヒトミはそのことを知らなかった。とりあえず今日は家に戻って母から姉たちの華々しい活躍を聞かされることもないと思ったら急に気が楽になった。そのことで、やはり自分はストレスを抱えていたことを思い知る。


(お勉強だけできても、ダメなのよね…何か突出した才能がないと…)


 今の自分が出来ることはせいぜい勉強くらいだと思って頑張ったヒトミに養母は残念そうにそう言った。突出した何かなど、ヒトミは持っていない。前世で使い切ってしまったのではないかと思うくらい、ヒトミは勉強以外は何もできなかった。


「ヒトミはシール集めてる?欲しいのがあったら持っていっていいよ?」


 リツが近くの引き出しを開けてシールを取り出す。ヒトミはすぐにそのシールに夢中になり目を輝かせた。


「パパの会社の試作品だから、こっちは魔力入りのシールなんだよ。服とかに貼っておけばそこから魔力が供給されて、時間毎に魔力回復薬を飲まなくても良くなるかもって話。含む魔力の量によって供給持続時間が変わる。サプリメントよりも効果があるかも」


 ジーンの説明にヒトミは頷いた。


「私が一応持ってるのは…これ…」


 ヒトミはカバンを開けて市販の魔力回復サプリメントを見せる。医薬品ではない物に関してはカバンに入れて自己責任で保有していても良いと学校側が許可しているからだった。


「飲んだことある?」


 ヒトミはこくりと頷く。


「でも…あんまり効果なかった…」


「だろうね」

 

 サプリメントに含まれる魔力は微量だ。気休めにもならない。


「ね、魔力量を計測して、自分に合った薬が試せるセラヴィの魔力回復スペースの装置があるから、後で会社の大人が帰ってきたら試してみない?」


 ジーンは悪魔の笑みを浮かべてヒトミを誘惑した。

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