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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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少年ジーン&少女リツの場合 12

 その後リビングのテーブルを囲んでお菓子をつまみながら皆で話していると、インターホンが鳴った。光輝が出ると若い男性の声がした。光輝はやや慌てた様子で玄関に出てゆく。


「えっ…ちょっと今、来客中なんだよ…」


「ゴメン、明日から泊まりで…荷物入るバッグこっちに置きっぱなしだったのに気付いてさ…コーキに貸してたよね?」


「あー!そうか、ゴメン」


 小声で会話が聞こえてリビングに長身の青年が入ってきた。リツはすぐにそれが誰だか分かってしまった。キャップを被り眼鏡をしているが、間違いなく俳優の遠野圭一朗だ。


「こんにちは、ゆっくりしていってね」


 遠野は爽やかな笑みでリビングの皆に挨拶をする。


「おじゃましてます」


 無難な返答をしたジーンが微笑む。彼は半ば光輝に背を押されるようにして視界からドアの向こうに消えた。ストラスがニヤニヤしながらドアの方を見ていたが、しばらく経ってから不意にハッとしたように太輝の眠る寝室の方を見て立ち上がった。


「もしかしたら…目が覚めたかもしれない…!」


「えっ!?」


 ヒトミが慌てて立ち上がって太輝の部屋へと駆け込む。


「タイキ!?」


 ベッドの上の太輝は困惑した様子で天井を見上げていた。アサヒが急いで光輝のいる部屋へ向かって声をかける。


「コーキ!!タイキくんが起きたみたいだよ!」


 思わずドアを開けたアサヒは一瞬、困ったような表情を浮かべてすぐにいつもの顔に戻った。少し遅れて光輝と遠野が出てきて太輝の部屋に向かう。部屋に入ると太輝は、はにかんでヒトミの手を握っていた。兄が来たことに気付いた太輝は慌ててヒトミから手を離す。光輝は、ホッとしたのか大きな息を吐いた。


「タイキ…お前、五日間も眠ったまんまだったんだよ…」


「えっ…?あ…ケイくん…?パパと仲直りしたの?」


 太輝の発言に焦ったのは光輝だった。ストラスはサタンから聞いていたからこの家の人間関係は把握している。ただ公認と言っても子どもたちとも親しい間柄だとは思っていなかった。それに二人で部屋にいたとき、光輝は遠野に後ろから抱きついていた。ストラスはうっかり気配を探って見てしまった。


(ね…戻ってきてよ…)


 確かに遠野に対して光輝はそう言った。


(親父とはもう終わったって言うなら…俺の契約パートナーになってよ…俺がこの家を出てケイくんのとこに行くからさ。ケイくんが辛いのはイヤなんだ…代わりでもいいから…もっと俺を利用してよ。俺…異世界からの転生組じゃないけど…多少なら魔力もあるからさ…)


(そんなことをしたら、一輝さんに叱られちゃうよ。俺はこの家にいちゃダメなんだ。アキラさんだっていい気はしないよ。今忙しくて荷物をまとめる時間がないから、もう少しかかるけど…ちゃんと出て行くからさ。コーキは俺みたいになっちゃダメだ)


(…俺は…ケイくんと家族の方がいい。アキラさん…怖いんだよ…俺が…太輝の秘密…知っちゃったから…)


(え?俺がいない間に何かあったの?)


(俺、最近家族と飯食ってないの。腹減ったから先に食うって言ってて。でもほんとは何盛られるか分かんないから一緒に食ってないだけ。タイキは親父の子じゃなかったんだよ…タイキが目覚めなくなったとき病院で血液型調べたんだ。そしたら合わなかった…親父はAB型で…アキラさんはBなのに…タイキはOだった…親父はいなくて…そのときアキラさんにめちゃくちゃ怖い顔で口止めされて…)


 そこでアサヒが呼びに入って会話は途切れたが、ストラスはその先の光輝の何事もなかったかのような態度に、光輝こそ演技の才能があるのではないかと思ったほどだった。


(コーキも保護した方が良さそうだな。父親と母親…どちらが帰るのが早いかな。とりあえず連絡を入れさせよう)


 ジーンがストラスの心の中に告げる。すでに光輝は二人に連絡を入れたようだった。


「アキラさん、すぐ戻るって」


「……うん…兄ちゃん…僕、どうしてこんなことになったの?」


「うーん、今調べるところだと思うから…。覚えていたらでいいんだけど、知らない奴からでかいシールもらった記憶ない?」


「こういうやつなんだけど」


 ジーンがガブリエルから転送してもらった写真を見せる。太輝は知らない同年代の子どもがいることに戸惑いながらも写真をじっくりと見てから首を横に振った。


「もらったことはないけど…この絵なら見たことあるよ。兄ちゃん、去年の中等部の学園祭…展示されてる作品見なかった?興味ないから見てないのかなぁ…小学校は、事前に展示作品を見る時間があったから、授業じゃなくてラッキーって言ってる子も多かったと思う…」


 アサヒは隣から失礼しますと言って写真を確認する。アサヒは声を上げた。


「これと同じ絵…中等部の美術部の作品の中にあったよ!コーキは…興味ないって素通りしたから…書道部と美術部の展示ブース自体そもそも見てないでしょ」


 アサヒに言われて光輝は途端に気まずそうな顔をした。


「でも…僕も見た記憶ないな…ん?中等部じゃなくて、高等部の作品なら見たけど…」


 六季が首を傾げる。


「私も高等部の方を見て…あ!そっか、高等部から中等部に移動できる渡り廊下が雨漏りで工事中で、外から回って正門から入ったから、時間が足りなくて廊下の壁面作成しか見れなかったんじゃない?」


 ヒトミがハッとしたように声を上げた。


「あーそうだ!それでなのか。僕のクラスは先に中等部から見たから、高等部の作品はやっぱり大急ぎで見たんだよね…」


 タイキが笑う。どうやらクラス毎に入れ替えで中等部と高等部を見るスケジュールが組まれていたようだった。


「で、その絵を描いたのは誰か分かる?」


 ジーンが聞くとアサヒが頷いた。


「それこそ、朝も名前言ってたと思うけど、荻原三夜美だよ。荻原さんにしては珍しくポップな絵も描くんだなって思ったから僕は覚えてたんだけど…美術部に勧誘するのにステッカーを作って配るみたいな話してたんじゃなかったかな。でも結局予算不足で実現しなかったような…」


「本当か!?」


 ジーンの食いつきように少し押され気味になりながら、アサヒは頷く。


「それで…どうして僕が五日間も眠った話とシールと…この絵の話になるの?」


「あーうん、疑問に思うよね。可能性として考えられるのはこのシールを持っていてタイキくんはそこから魔力を吸い取られて急激な魔力欠乏状態に陥った可能性が高いってこと。それで眠り続けた…」


 ジーンが冷静に告げる。


「あぁ、どうして僕がこんなこと言ってるかって?保護者からのタレコミがあったから、この件に関して調査してるんだよ。僕はジーン、隣にいるのはリツ。要するに潜入捜査中ってこと。ヨシノさん、ごめんね。騙してて。ムツキは一応知ってるからさ」


「え…っ…それ今、言っちゃうの?」


 リツは呆気に取られる。


「うん。だって協力して貰うには、ある程度こちらの手札も明かさないといけないしね…そろそろ、お母さんが帰ってくるみたいだね。本当に近くにいたみたいだ。コーキGPS持ってるの?」


「いや、最近は家に置いたまんまだけど…」


「ならいい。今日はうちに来たら?金曜だしルイも会いたがってるから泊まっていくといいよ」


「えっ?でも…」


「大丈夫。お母さんは今日はタイキくんと過ごしたいはずだから。遠野さんは今のうちに家から出て、エレベーターは使わずに途中まで階段で降りて。エントランスですれ違ったら気まずいでしょ?エレベーター使っても良くなったらコーキが連絡するから」


 ジーンの有無を言わせない口調に遠野は自分の名を当てられたことに驚きながらも頷いて荷物を手に取ると光輝の肩を叩いて出て行った。約五分後に解錠される音が響いて母親が帰宅した。


「ただいま!!タイキが目覚めたの!?」


 想像したよりもかなり若い母親は、ものすごい勢いでリビングに入ってくると太輝の部屋に駆け込んだ。明るい茶色に染めた髪はゆるくウェーブしている。長い爪にはネイルが施されラインストーンが煌めいていた。家事をしたことのなさそうな美しい手だ、と通り過ぎる際にチラ見したリツは思った。


「おじゃましてます」


 ジーンとリツはほぼ同時に声をかけたが見事に無視された。部屋に入って母親はタイキを抱きしめて泣いていた。


「良かった…あなたに…何かあったらどうしようかと…」


 光輝は所在なげな顔をして、自室に入るとしばらくして荷物片手に出てきた。


「アキラさん、俺今日は友人の所に泊まるんで…」


 ようやく振り返ったアキラは、太輝を抱きしめたまま無言で光輝を見返して頷いた。冷たい顔付きだった。


「そう…好きにして」


「えっ…兄ちゃん…?」


「じゃタイキ、行ってくるわ」


 光輝は手を振ると寝室のドアを閉めてしまう。すでに帰りの支度を終えていたリツはコップをキッチンに下げて頷いた。実の母親ではないとはいえ見送りにも来ない。皆が玄関から出ると光輝はドアを閉め慣れた様子で施錠した。

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