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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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少年ジーン&少女リツの場合 8

 今朝もラウムの運転する車でアサヒとジーン、リツは登校する。ラウムもジーンも積極的にキスをしてきて、アサヒとリツは朝から翻弄されていた。駐車場にいる警備員に挨拶をしたジーンは日本語が上手いねと声をかけられる。昨日と同じ道を歩いていると更衣室から一ノ瀬光輝が現れて声をかけてきた。


「アサヒ!おはよ。わーマジでちっこいリツだ!」


 昨日のうちに面倒なやり取りは避けるために光輝には事情を話していた。光輝は思わずリツの頭を撫でてしまい、傍らのジーンがムッとした顔をしたことに気付いて慌てて手を引っ込めた。


「す、すみません」


「年下相手に、そんな風に謝らなくていいよ。弟みたいに接してくれていいから」


 周りに人がいないことを確認した上で小声でジーンが告げる。


「いやーでもさ。やっぱりね。それにしても美少年だなぁ。ヤバい趣味の高校生にいたずらされそうで怖いなぁ。気を付けてよ。旧校舎には近付かない方がいい。特別枠で入ってる学生の中には変なのも多いからさ」


「その話、ホントなの?」


「寄付金次第なんじゃない?あくまで噂だけどさ」


「僕も学園長を脅して編入したから、大差ないかな。実際に入れるってことは、多かれ少なかれあるってことだよ。現に六年生に編入した僕の部下は殴られたり蹴られたりしてボロボロになって帰宅したからね。悪魔じゃなければ内臓までいってたと思うね」


 平然と言ったジーンをアサヒは何とも言えない顔付きで見つめた。


「まぁ、ある程度は想定済みだから、下手に目立つのは避けてはいるよ。それと…荻原三夜美(みやび)について何か知っている者がいたら情報がほしい」


 ジーンに見上げられたコーキはこくりと頷いた。


「めちゃくちゃ絵の上手い子だって有名だよ。了解。調べとく」


 やがて付属小の正門が見えたので四人は話題を変えた。挨拶している教員は二人の知り合いだったようで、二人とも身長が伸びたなぁと言って笑った。教室に入ると、何人かが集まって話をしている中、荻原ジェシカの取り巻きの一人の鈴本沙奈がポツンと席に座っていた。荻原も滝野も来ていない。


「おはよう」


 ジーンとリツは誰に言うともなく言って教室に入る。鈴本は一瞬こちらを見たがすぐに手元の本に視線を落とした。クラスメイトたちがすぐにジーンとリツを取り囲む。


「中等部にも知り合いがいるってホント?」


「うん、いるよ」


 ジーンはニコリと笑う。リツはまるで天使のようだと思ってその笑みを見ていた。


「ねぇねぇ、ジーンくんは何の転生者なの?リッちゃんは?」


 二人ともそろそろその質問が出る頃だと思っていた。


「僕は…悪魔の転生者だよ。リツもそう。リツは最初は天使だったけど、僕が自分のお嫁さんにするのに悪魔に変えた」


 ジーンは平然と言う。ガタンと音を立てて鈴本が立ち上がった。


「注目されたいからって、嘘ばっかり!!悪魔の気配なんかしないじゃない!」


 鈴本は二人を睨む。ジーンは余裕の笑みを浮かべた。


「知らないの?海外じゃ他の転生者を怖がらせないために、札付き転生者のほとんどが、元の気配を消す薬を飲んでるんだよ。こっちだって芸能界にはもう広まってるみたいだし。僕たちもランチの後には医務室の専用ボックスに預けてる薬を飲んでるんだよ。じゃないと怖くて授業にならなくなるよ?」


「……気配がなかったら、好き放題何だって言えるじゃない!私は信じないんだから!」


 プイッと顔を背けると鈴本は教室を出てゆく。他のクラスメイトたちは呆気に取られたようにその姿を見送った。


「こんなことで嘘を言ったって仕方ないのに」


 ジーンは鈴本の出ていった方を見やって小さなため息をついた。



***



 体育の授業は水泳だった。水着に着替えたリツはラッシュガードも着ていた。背中を見せたくなかったからだった。他にも何人かラッシュガードを着ている生徒がいた。ヒトミも着ている。鈴本はこちらを見ると遅刻してきた滝野に聞こえよがしに言った。


「札付き転生者だからって大したことないのに傷を隠すって、いちいち大げさだよね。ヨシノ脱ぎなよ。それにフォスターさんも見せてよ。どうせ小さな傷跡なんでしょ?」


「…フォスターさんは関係ないよ。私が脱げばそれで満足するの?」


 ヒトミは怯えたような顔をしながらも言い返す。


「ヒトミ、脱ぐ必要ないよ。そんなに見たいなら見れば?でもグロいからって気分悪くならないでね」


 リツはラッシュガードを脱いで背中を向けた。水着を着ていても両肩に赤紫の太く長い傷跡が広がっている。更衣室にいる女子たちが息を飲む気配がした。


「これが天界で翼を切り落とされたときの傷跡。堕天した私をジーンが拾って悪魔に変えてくれた」


「リッちゃん、もう着て!滝野さん、謝りなよ!」


 他の生徒たちが次々と声を上げる。ドアがノックされて騒ぎを聞きつけたらしい担任の声がした。


「何かあったの?今、開けても大丈夫?」


「大丈夫です。先生!鈴本さんがフォスターさんにラッシュガードを脱げって言って!」


 すでに準備の終わっていたジーンはその言葉を聞いて顔色を変えた。入り口に立ったリツは肩にラッシュガードをかけられて、少し困ったような顔をしていたが、ジーンはわずかな動揺を感じ取った。


「すみません、先生。リツ、来て」


 ジーンは間に割り込んでリツの手を引くと、背中を押さえてリツの細い腕をラッシュガードの袖に通し始めた。


「ごめん…ジーン…翼の跡…見せちゃった…」


「リツ…無理はしないでよ…」


 更衣室から滝野と鈴本が出てきてやや気まずそうな顔をする。担任が厳しい顔で二人を叱った。


「ラッシュガードの申請をしている生徒は意味もないのに着ている訳じゃないんだ。フォスターさんに謝りなさい」


「……ごめんなさい」


「…ごめんなさい」


 二人はどこかふてくされた表情のまま形式上のみの謝罪をした。ジーンはリツにラッシュガードを着せ終えてファスナーを上げるところだった。


「リツ、大丈夫?」


「うん…」


 ジーンは二人に向かって軽蔑の眼差しを送った。下手に整った顔立ちの分、それは効いた。


「…リツは翼を落とされた記憶も全部覚えているんだよ。翼のない君たちにそれを言っても通じないだろうけど、翼を失うのは凄まじい激痛なんだ。翼を落とされただけでショック死する天使だっている。それなのに軽々しく脱いで見せろだなんて、どの口が言ってるんだよ。そんなに君たちは偉いのか?何の権限があってリツに命令するんだ?」


「フォスターくん、落ちついて!」


 担任が言うと、ジーンは苛ついたようにまだ帽子を被っていない髪を搔き上げた。


「僕は落ち着いていますよ?冷静だ。リツが怒らないから代わりに怒っているだけです。だって反省してないじゃないですか。心のこもっていない謝罪ほど無意味で腹立たしいものはない。悪いことをしたと思っていないんですから」


 ジーンは仄暗い炎が燃えるような目をして、低い声でそうつぶやいた。



***


 

 その後の授業は特に大きな問題もなく進んだが、最後の自由時間になると他のクラスの生徒までがリツのところに来て、話しかけてきた。


「フォスターさんって、元は天使だったの?」


「今は堕天使?堕天使って悪魔とは違うの?」


「…ジーンが私を堕天使から悪魔にしたから…元悪魔って言った方が正しいかも…」


「二人って結婚してたの?」


 少し離れたところで四年生の中では長身のジーンが男子に囲まれて似たような状況になっていた。


「リツの背中は見世物じゃない。札付き転生者の傷を見たがる方が悪趣味だ」


「でも、知ってるってことは見たんでしょ?」


「一緒に住んでいたらそういう機会はあるよ。それに傷があってもなくても、リツはリツだ」


「一緒に風呂に入ったりとかしたことあるの?」


 中の一人がニヤニヤ笑いながら言う。そこに六季が泳いできて水中から顔を出した。


「下らない絡み方するなってば。日本人の品性が疑われるから止めなよ」


 反対側からも入江海斗が泳いでくるのが見えたが六季の姿に気付いて途中で止まる。彼はジーンと六季が仲良さそうに話しているのを見て複雑な表情を浮かべた。


「カーイト!」


 突然肩を叩かれた彼は慌てて後ろを振り返る。子犬のような顔で笑っている相手を見て彼は脱力した。眼鏡をかけていないから少し視界がぼやける。


「なんだフミヤか…」


「なんだって、なんだよ」


「フミヤ、最近ムツキと仲いいんだってね」


 入江は少し嫌な言い方をしてしまったかと思ったがフミヤは気にしない様子で笑った。


「うん。だって助けてもらったしね。ムツキの近くにいれば、他の学年の奴から嫌なこともされずに済むから、最近は学校来るのが楽しいよ」


「…あんまり、調子に乗るなよ?僕は…少しムツキが怖い。でも、もっと転入生の方が得体が知れないけど」


「あぁ、フォスターくん?そうかなぁ?頭良さそうって思ったけどね。それを言うならカイトだって怖がられてるよ?」


「え?僕?僕は別に…」


「なんかあの二人ってお似合いだよね。前から知り合いみたいだよ?二人ともきれいな顔してるし、羨ましいよ」


「は?」


 ジーンと六季を見ながら言ったフミヤの言葉に、なぜか彼は少なからずショックを受けた自分を自覚した。が、瞬時にそれを否定する。うっかり六季とキスをしてしまった日のことを思い出して、入江はぶくぶくとプールの中に沈んで赤くなりかけた顔を誤魔化した。


「ちょっ…カイトってば。何やってんの!?」


 フミヤが笑いながら入江を追いかけてプールに潜ってくる。入江は泳いで逃げた。今の自分はきっと情けない顔をしている、そう思ったからだった。

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