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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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少年ジーン&少女リツの場合 3

 翌朝になって、清葉学園附属小学校のスタイリッシュな制服に身を包んだ二人を見て、ベルフェゴール大佐はずっといやらしいニヤニヤ笑いが止まらなかった。あえて中学と共通のデザインを取り入れることで大人っぽく見える仕上がりだったが、どうやら大佐は制服に興奮するタイプの悪魔のようだった。隣のカイムは実に冷たい視線を大佐に向けていたが、本人は全く気にしていなかった。


「マゴにも衣装とはよく言ったものですね…お似合いだ」


「大佐、使い方が間違ってるよ…マゴってのは馬に子と書いて、身分の低い者って意味だ。魔界でその言葉の意味を知っていて陛下の前で使おうものなら、首と胴が離れていても文句は言えないよ?」


 呆れた顔でストラスが注意する。


「な、なんと、これは失礼致しました!」


 大佐の顔からようやく品のない笑みが消える。


「耳で聞いてなんとなく使うからそうなるんだよ。書斎もあるから少し勉強したらどうだ?」


「ね、マゴニモイショウってどういう意味?」


 こっそりとケイに聞かれたイチカは眉を寄せた。


「俺に聞いて分かると思ってるんすか?」


 そう言いながらイチカはスマホを開いて素早く検索をして、その内容をケイに見せていた。


「本当だ…孫じゃないんだ!えぇ?目から鱗!」


「それもさーコンタクトは外れても目からウロコなんか落ちないって思うっすよね。変じゃないです?」 


「目からコンタクト…語呂が悪いなぁ。目からレンズ…」


 二人がそんなことを話している間にも、少年のジーンと少女のリツは仲良く並んで出かけてゆく。一緒に家を出るアサヒがなんとも言えない表情をして、銀縁眼鏡の女性姿のラウムと共に歩きながらルイに向かって手を振った。ルイたちが登校するのはもう少し後だ。


「いってらっしゃーい」


 助手席にアサヒが座ると、ジーンは言った。


「前と後ろは仕切っておくから、二人でしたいことがあったらしていて構わないよ。僕たちも自由にさせてもらうから」


 可愛らしい顔でそう言ってジーンがボタンを押すと本当に後部座席が見えなくなってしまう。アサヒはかなり気まずくなったがラウムは車庫から車を出す前にやっているいつものルーティンをした。


「アサヒ…」


 あごを少し持ち上げられて柔らかい女性の唇が重なる。いつも出発前にここでお互いの魔力を高め合っていたことがバレていたのかとアサヒは思ったが、ラウムは遠慮しなかった。いつものようにたっぷりと口付けを交わしてからラウムは薄く口紅を塗る。車庫のシャッターが開いて車が滑り出すように発進した。後部座席では、ジーンがリツに同じことをしていた。


「ジーン…」


 リツは相手の腕から逃れられないことを悟って大人しくジーンの口付けを受け入れた。ジーンはわざとらしく音を立てて口付けを続ける。すでに車は公道に出ている。


「ジーン!外…!」


「大丈夫だよ、見えないから」


「そういう問題じゃない…」


「じゃ、何が問題?見えるところに跡を残せないんだから、いつもは身体に残してる分も唇で受け止めてもらわないと」


「そんなの、聞いてない…!」


「言ってなかった?ゴメン。リツが可愛いからいけないんだよ?」


 ジーンは平気でそんなことを言って上目遣いにわざとリツを下から見上げた。


「ダメ?ね、お願い。もっとしたい…しよ?」


 ずるい、とリツは思った。美少年にこんな顔をされたら断れる訳がない。ジーンの手が頬に触れている。


「学校では…しないでね?」


「分かってる」


 リツはジーンに抱き寄せられて、再び口付けが始まる。信号待ちで車を停止したラウムは後部座席から漂ってくる気配を読まないようにしていたが、隣のアサヒが妙にそわそわしているのに気付いた。


「落ち着いて下さい、アサヒ…今は閉じて。陛下の気配に引っ張られてはいけませんよ…」


「そんなこと言われても…」


 アサヒは背中がぞわぞわした。ラウムはアサヒの手を握る。


「ラウムは…どうしてそんなに冷静でいられるの?僕は…ドキドキしっぱなしなのに…」


「…私だって冷静かと言われたら…冷静ではありませんよ。ただ、そう見えるように努力をしているだけです。慣れですよ、慣れです」


 信号が変わる前にラウムはアサヒの頭をさらりと撫でた。そして耳元で囁く。


「アサヒ…今夜は…ベレトになってもらえますか?」


「は…はい」


 その言葉の意味するところは一つだった。アサヒは赤くなる。ラウムが妊娠してからは、しばらくの間控えていた。信号が青になる。朝からラウムに夜の誘いを受けたことで、アサヒの心臓は更に跳ね上がってしまった。


「早く夜になってほしいですね。今日は何が何でも定時で帰ります」


 ラウムはそう言って微笑むとアクセルを踏んだ。



***



 少し早い時間にアサヒと小学生二人を駐車場で降ろしてラウムは会社に向かう。相変わらず冷静なラウムの横顔をやや恨めしげに見送ってアサヒは深呼吸をした。二人を附属小まで案内する役目を与えられたアサヒは、登校し始めている中学生にちらちらと見られながら中等部の校舎へは向かわずに、朝練が終わる頃のグラウンド近くの整備された道を進んで附属小の方へと急いだ。ジーンはちらりとグラウンドから更衣室の方へ向かう学生たちを見る。数人見覚えのある顔があった。


「コーキはたまに、後輩の朝練に付き合ってることがあるんだよね。本人はたまに身体を動かしたいからだって言ってるけど」


「…見つかったらまずくない?」


「大丈夫。さすがに本人とは思わないよ」


 リツとジーンの会話を聞きつつアサヒは内心ではヒヤヒヤしながら進んで附属小の正門の方へ回った。玄関で挨拶をしている教員に転入生だと伝えると、名前を告げただけですぐに話が通じてアサヒの方が驚いた。


「棚橋くんも…色々と大変な時期だろうけど頑張って」


 棚橋家の新たな養子が起こした事件についてはすでに世間に広まっていたし、しばらく彼が知人宅で世話になっているのも周りは知っている。週刊誌はこぞって事件に関して面白おかしく書き立てた。アサヒはあいまいな笑みを浮かべてやり過ごす。


「アサヒ兄ちゃん行ってくるね」


 あざとい顔付きでジーンがアサヒに抱きついてわずかに魔力を流してゆく。うかつにもアサヒは今は自分の身分が彼の使い魔であることを自覚させられた。抱きしめられただけなのに心地が良くて安心する。世間の噂も棚橋の家もどうでもいい。自分は使い魔なのだからもう大丈夫なのだと思えた。


「う、うん。じゃあ…!」


 アサヒは二人に手を振って見送る。二人は並んで小学校の校舎に入っていった。



***



 ジーンがいったい何の魔力を使ったのか分からなかったが、どういう訳かリツとジーンは同じクラスになった。後から分かったことだが、同学年に双子や同じ家の養子がいた場合、親の負担を減らすためにあえて同じクラスに配置する方針に変えたとのことだった。学校公開や行事などで子どもたちの姿をできるだけ多く保護者に見せることを目的としていて、クラスを分けていた頃よりも保護者からの評判も良くなっているようだった。とはいえ親という存在があったことのないリツからしてみれば、興味どころかもはや想像すらできない話だった。だからこのときもリツは何かしらの魔力でこうなったと思い込んで、二人並んで担任に紹介されていた。


「今日からクラスメイトになるジーン・フォスターくんと、リツ・フォスターさんだ。皆、仲良くするように」


 二人は六季のいるクラスの隣のクラスになった。六季に気のある入江海斗が学級委員長を務めるクラスだ。窓側から二列目と三列目に机が追加されていて、ジーンとリツは簡単な自己紹介の後でその席に座った。さっそく朝の会が終わり一時間目の授業が始まる。ジーンが淀みない英語で話すのを聞きながら、リツは教室内の勢力図を読み取ろうとしていた。女子がやや男子よりも少なく、ジーンの他にも転生者らしき金髪の女子が一人いた。特に六季に関わる線はなかったが気の強そうな美人だったからリツは記憶していた。荻原ジェシカだ。恐らく彼女がクラスの女子の権力構図の中心にいるに違いない。担任に指名されたリツはテキストを読み上げる。読み上げてしまってから、もう少したどたどしく発音するべきだったかと思ったが遅かった。ジェシカがリツの方を振り返り片方の眉をピクリと上げた気がした。目立たないようにしようと思っていたのにやってしまった。やがて一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、一斉に二人の机の周りは人だかりができた。これでは六季と接触する時間すらない。


「二人って、どっちかが養子なの?それとも両方?」


「リツが養子だよ。僕がリツと離れたくないってワガママを言ったらお父さまが願いを叶えてくれたんだ。大人になったら結婚するんだ。僕たち」


 ジーンは平然ととんでもないことを公言してさっそく周囲からは悲鳴が上がる。


「えっ?そうなの?じゃあ二人は付き合ってるってこと?」


「そういうことになるかな。いつも一緒にいるから、いないことの方がお互い不自然っていうか…ね、リツ?」


 ジーンは微笑む。リツは頷くのがやっとだった。


「…気持ち悪い」


 そこに輪には加わっていないジェシカの声が冷たく刺さった。騒いでいたクラスメイトたちは急にしんとなる。


「なに?そんな先のこと分かるわけないじゃない。結婚とかバカみたい。下らないことで騒がないでよ。ヒメノが目覚めないのに、次から次に新しい話題に食いついてて恥ずかしくないの?」


 ジェシカとその取り巻きと思われる女子二人が同意するように頷く。


「ヨシノも、さっさと食堂に行って数量限定のプレミアムプリンの食券買っておきなさいよ!三人分!」


 ジェシカに言われてヨシノと呼ばれた少女は慌てた様子で教室から飛び出して行った。そのとき話の輪にも加わらずに一人自分の席で静かに読書をしていた入江がパタンと本を閉じる音が、やけに大きく教室内に響き渡った。

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