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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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マゴト&ケイの場合 2

 その後は魔力回復スペースで緊急事態は発生することなく、オペレーターに問い合わせがあったのは、すぐにサンプルと同じ魔力回復薬を定期契約したいという申し込みの内容などだった。定期購入の方が安くなることもあって最近、じわじわと口コミでも広がり契約する者が増えている。元々の価格が市販の魔力回復薬よりも安価なので最初は効果を疑っていた者もいたようだったが使用後に副作用もなく、入室後に魔力を測定し転生者の前世に基づいた魔力回復薬のサンプルが出てくる仕組みだったので、自分に最も適した魔力回復薬を試すために利用する者も現れていた。

 マゴトはいつもの待機場所が病室に変わっただけに等しかったので、眠ったケイの側にいた。同じ空間にいるだけでも多少は違う。マゴトはタブレットでこの世界における転生者の中でも、ケイのように札付き転生者と呼ばれる者が集められた施設で起きた過去の事件などを見ていたが、次第に気分が悪くなって目を閉じた。少しして気配に気付くと先ほどまで眠っていたケイの目が開いていた。


「…あ…あの…ずっと…いてくれたんですか?」


 ケイはなぜか感動したような顔をしたので、マゴトはそのことに動揺しながらも頷いた。


「はい…俺は…その、元々が待機要員なので…緊急事態が起こったときには迅速な対応が必要ですが、それ以外はまぁ…色々と勉強をする時間に充てたり雑用をこなしたりしています。でも電話対応も苦手でして。時々非常識なことを言ってしまうので雑用と言っても、単純な事務作業ですね」


 マゴトの言葉にケイはホッとしたような、それでも信じられないといった顔をした。カーテンの外から声がして、白衣の人物が入ってくる。


「あぁ、こんにちは。美しいお嬢さん。少し説明するが、実はここは病院ではないんだ。セラヴィ株式会社の医務室でね。でも私は優秀な医者だから君の命を救うことができた。ま、だから通常の病院に運ばれた際の手術代やら諸々は請求しないことにしている。その代わり、君には新しい魔力回復薬の治験に参加してもらおうかと思っている。インキュバスやサキュバスの転生者は出自を隠していることが多くて、なかなか公募では集まらないんだよ。どうかな?」


「ちょっと待って下さい、武衛先生!いくらなんでも、目覚めてすぐにその話題は…」


「…むしろ目覚めたからだよ。教えてあげた方が親切というものだろう。彼女にはお金も住む場所もないようだからね…」


 サッとケイの顔が青ざめる。


「それに…ネットカフェで客を取るのはいくらなんでもね…元がインキュバスだからって、やり過ぎだ…」


「武衛先生!何も今それを言わなくても…」


「じゃあいつ言うんだ?むしろ君に言わないことで抱える彼女の罪悪感をゼロにしてやってるんだ。他には何をした?スリか?後はそうだな…少しの間男に飼われていたが魔力の相性が悪かったのか。こいつは相性がいいだろう?当然だ。悪魔だからな」


「武衛先生!!」


「大丈夫だよ。常務はそれを話すことも想定内だ。嫌でも信じるさ。これを見ればな」


 ブエルは布団を剥ぎ取ってケイの病衣を開く。


「見てみろ。自分のどこにナイフが刺さったかくらいは覚えてるだろう?どうだ、いくらなんでもこんなに早く、何の傷跡も残らずに完治するか?この世界の医療技術ではまだ無理だ」


 ケイは自分のお腹を見下ろして信じられないという顔をした。刺された場所にはうっすらと線が残っているのみだった。先ほどまでは感覚が鈍くて気づかなかった。麻酔が効いているのかと思っていたが、感覚が戻っても何の痛みもない。確かにこれはおかしい、そう思って相手が悪魔だと言ったのを思い出した。


「あの…悪魔って…もしかして…本当…なんですか?」


「過去に君の接触した悪魔が何なのかは分からないが…それは銀の枝のリーか?」


「えっ?リー!?なんで彼を知ってるんですか!?リーじゃありません。ちょっと待って下さい!リーって悪魔だったんですか?」


「あぁ…こっちも悪魔だから…と言っても私は直接面識があった訳じゃない。面識のあった悪魔から話を聞いただけだ。あ?混乱してるな…ったく。それでも魔力が乱れるのか。どうにも精神面が弱いな。ほら、ボサッと突っ立ってないで抱きしめるなりしてやれよ」


 マゴトは突然話を振られて困惑した顔のまま、魔力の乱れたケイを抱きしめる。ケイはピクリとしたが、頭を撫でると、遠慮がちに手を伸ばしてマゴトの背中に手を回した。マゴトは片手でお腹の傷跡に触れるとそこにも魔力を流した。


「私は…悪魔の気配を抑える薬を飲んでいます。武衛先生もです。セラヴィ株式会社には…悪魔がたくさん働いています。私も含めて人のフリをしています…いくら相性が良くてもここまで流れ込む経験はないと思いますが…それでも我々があなたを騙そうとしていると思いますか?騙して…何かメリットがあると思いますか?」


 マゴトはケイのおでこに口付けをしてそこから魔力を流し込む。唇の方が多く流れるが、ここでもそれなり流せる。おでこに口付けをしながら魔力を流し込むとケイは目を閉じて、小さな吐息を漏らした。魔界のインキュバスやサキュバスとは反応が違うとマゴトは思った。


「あ…!」


 ケイはマゴトの魔力を受け取る途中で声を上げた。


「私…今…思い出しました…インキュバスなのに…私…精気がうまく…吸えなくて…落ちこぼれ…だったみたいです…」


 ケイはつぶやいて、恥ずかしそうに赤くなった。マゴトはケイの頭を撫でる。


「先生…少し外してもらえませんか?」


「はいはい、分かったよ。注文の多い奴だな」


 マゴトはブエルがカーテンの外に出たのを確認してから、ケイの頭を再び撫でた。


「大丈夫ですよ。前世のあなたは落ちこぼれだったかもしれませんが…それなら私がやり方を教えます…治験に参加するなら…身体に合わない魔力だった場合に、私の魔力を吸えるようにもなっていた方がいいでしょう…練習しましょうか。キスしながら…息を吸ってみて下さい…吐くと私の方に流れてしまいますから…まずは深く吸って…」


「えっ?」


 唇が重なり、ケイはこの手のことには慣れていたはずだったのに、急にとんでもなく心臓がバクバクし始めた。言われるがままに吸うと濃い魔力が流れ込んできた。そこでマゴトは一度唇を離す。


「吐いていいですよ。吸うときにまたキスしてみましょう。次はそのまま…呼吸を繰り返して…深く吸って浅く少しずつ吐くとうまくいきます。唇は相手の唇にしっかりとつけたままで漏らさないように塞ぐのもポイントですよ」


 言われたことを守ろうとしたのにケイは次第に相手のペースに飲まれて呼吸の仕方を守れなくなる。舌と舌が触れ合って絡まり、そのまま餓えた獣のように吸って噛んでいるうちに、相手に諭されるように柔らかく唇を噛まれた。


「あなたは…恐らく…体質的に流す方が得意なのですね。人を相手にしていてこれだと…身体に残る魔力の方が少ないでしょうね…今まで魔力が足りなくて辛かったでしょう。少しずつ覚えていけばいいですから、今は私が魔力を注ぎます。受け取って下さい」


 マゴトはそう言ってケイの唇を塞いで魔力を注ぎ込む。ケイは一瞬身体を震わせたが、やがて落ち着いて魔力を飲み込み始めた。こくりと小さく喉が鳴る。夢中で魔力を受け取る姿にマゴトは今、このまま意のままにできそうな若い女性を本能のままに貪り尽くそうかと一瞬考えたが、ギリギリのところで踏み止まった。この先は本人がその関係を望んでからだ。その方がお互いの魔力も上がるし、じりじりと待つ間の緊張感もマゴトは嫌いではなかった。相手から魔力を吸い取るのが苦手な元インキュバス。風変わりだが何だか可愛らしい。


「魔力…って…美味しいんですね…知らなかった…」


 飲み込む間に、ケイがつぶやく。吐息が熱い。


「美味しいですか?それは、相性の良い証拠ですよ…」


 マゴトは優しく微笑むと再び唇を重ね魔力を与え始めた。

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