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異世界転生対策本部転生撲滅推進課〜悪魔な上司の意外な素顔〜  作者: 樹弦


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ストラス&ルイの場合 8

 翌朝になって、出社する者と登校する者は慌ただしく用意をし、少し早い時間にアサヒは雨宮涼に扮したラウムの運転する車で家を出て行った。ラウムはアサヒを下ろしてからそのまま毎日セラヴィ株式会社に出社しているらしい。出社する日はサタンへの同行は別の使い魔が行っていた。ルイはハルとカイと共に徒歩で登校すると言って家を出た。制服に身を包んだハルは緊張していたが、ルイが頭を撫でて言った。


「ハルは僕の妹なんだから、大丈夫だよ。それに教室にはカイがいるからね」


「うん…」


「じゃ、行ってきます!」


 三人が出掛けると、どこか落ち着きのない様子の大佐が窓から外を窺っているのが見えた。青年姿のカイムがその背中に声をかける。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」


 少女姿のルイも笑いながらカイムの隣に立つ。カイムはうっかりルイの頭を撫でてしまい、驚きつつも慌てて引っ込めた。見上げたルイがいたずらな目をして見上げる。どうやらいつの間にか魔力で誘惑されていたらしい。大佐が眉をピクリと上げるのが見えた。


「カイムさん、もっと魔力ちょうだい、唇からも」


 ルイは自分のつややかな唇を指差す。瑞々しい果実のようにそれが誘惑してくる。リビングのテーブルでパソコンを立ち上げて作業中のストラスがニヤリと笑った。


「妊婦からのお願いを断る悪魔はいないよな?お腹の子を祝福しないってことになるから…カイムは嫌な奴だと魔界で触れ回られる」


「…そういうやり口ですか…まったく」


「ある程度距離が離れれば、お子さまの方にも影響は出ないだろ?遠慮するな。よし、これで学校の監視カメラの映像もゲットだな。後は二人の教室や体育館なんか使いそうな教室にもこっそり仕掛けてあるし、GPSも持たせた。気になるならここで見てりゃいい。それと、こっちは魔界の仕事だ。休暇じゃないんだからな。大佐もしばらくはカイムと一緒に地味な事務作業だ」


「なんだと?そんな話は聞いてない…!!」


「辞令をちゃんと読まないからだろう。大佐のパソコンに届いているはずだ。さては昨日から開いてないな?カイムといちゃつくだけなんて美味しい仕事がある訳がないだろう」


 大佐は慌てて荷物からパソコンを取り出して立ち上げようとして、ルイの肩を抱き寄せて唇を重ねているカイムが目に入った。最初は遠慮がちだったのに、途中から何かに憑かれたかのようにカイムは夢中になっていた。


「カイム…ルイの唾液には催淫成分が含まれてるからな…飲み込み過ぎるとまずいぞ…って、ちょっと遅かったか」


 ストラスが苦笑しながら立ち上がり、ルイを引き剥がした。


「カイムは少し大佐になだめてもらってこいよ…けっこう効いてるだろ。ルイもさ、そんなに舌絡めるなって…ったく」


「ごめん…カイムさんの魔力が美味しくてつい…」


 少女姿のルイがペロリと舌を出す。少し顔を赤らめたカイムを受け取った大佐は困ったような表情をしてカイムを見下ろしていたが、やがて諦めて口付けを始めた。催淫成分といっても悪魔になり立てで、たかが知れているだろうと思っていた大佐はカイムと唇を重ねた途端にルイの魔力に影響されて驚いた。ストラスの膝の上に乗ったルイはニコニコしながら、二人の様子を見ていた。


「僕の影響で昔から名前のある悪魔が乱れてるところを見るのって、思ったよりも気分がいいね…クセになりそう。ストラスはだんだん耐性が上がっちゃって効かなくなってきたんだもん。つまんないよ」


「ルイ、友だちとペットボトルの回し飲みとかするなよ?気をつけろ。あんまり調子に乗ってると痛い目に遭うんだからな」


「しないよ。大丈夫。キスしたいって迫ってくる女の子の方が厄介なんだ。僕の契約パートナーは外国人男性だって公表してるのにさ。キスくらいできるでしょって」


「あー?そんな話聞いてないぞ。どこのどいつだ。軽々しくルイを誘う女は」


 別のパソコンを立ち上げながらストラスが言う。魔界のシステムが立ち上がり、ルイがようやく覚えた文字で天界デジタル化計画の意味を示す文字列が並んでいるのが分かった。


「どこのどいつって…二年も三年も…いちいち数えてないし名前も聞いてないよ。転入してから何回告白されたかも覚えてない。みんな見た目に騙されててさー僕の中身なんか知ったら即逃げ出すに決まってるのに」


 ルイは自分の首の辺りに手を触れる。ずっと見えない状態にしていた首輪を具現化した。ようやくカイムと唇を離した大佐がルイの首輪に気付いて、眉を寄せた。


「ひょっとして…それは…国王補佐官の趣味なのか…?」


「違うよ、僕の趣味。ストラスに繋いでおいて貰わないと色んな悪魔の誘惑にフラフラしちゃいそうだから、つけてもらったの。第二夫人としてちゃんとしようとは思ってるんだけどさ。大佐って昔僕を飼ってたろくでもない大人にちょっと似てるとこがあって困るよ…」


 ルイの言葉に大佐は更に眉を寄せる。ろくでもない大人と似ていると言われても全く嬉しくはない。なのに大佐は気になって結局尋ねてしまった。


「いったい…どこが似てるんだ?」


「うん?意外と相手を束縛するところと、変なところで心配症なところ?外に出したら僕が誰かに誘拐されるかもって思って、その人、僕を監禁したんだよね。結局違法薬物もやってたから逮捕されて、そのときに僕は保護されて、薬打たれてたからしばらく入院させられたんだけどさ…」


「……本当にろくでもないな…俺はそこまで束縛はしないよ…」


「って言いながらも監視カメラ見てるし…あ!廊下を通ったね。半分の僕が職員室に連れて行ってるよ。変な感じ!」


 ストラスが操作すると音声が拾えた。


『あールイ!おはよ!何?知り合い?』


『こっちは俺の妹で隣は姉夫婦の養子』


『妹!?かわいいねーよろしくー』


『おールイじゃん』


『ルイ!おはよ!』


「ルイルイって、お前なんなの、その人気。魔力使ってないよな?」


 ストラスが呆れた様子で監視カメラの映像を見る。


『おはよう、暮林くん』


 そのとき画面に妙な気配の男性が映り込んだ。


『おはようございます。水谷先生』


「うん…?なんだあいつは」


「あー水谷先生は天使の転生者だと思う…けど、それをなぜか隠してるみたいなんだよね」


 そのとき大きなあくびをしながらミカエルが降りてきた。


「おはよー今何時?あれ、みんないないねぇ…」


「とっくに出社したし登校しましたよ…俺はテレワークだから在宅しているだけです」


 ストラスの言葉を聞きながら遅く起きたミカエルが後ろからパソコンを覗き込む。


「うん…?あれ?あれあれ?なんでこんなとこにいるの?しかも転生しちゃってる!?マジ?うそー」


 一気に眠気が吹き飛んだ顔をしたミカエルが、後から降りてきたイオフィエルを振り返った。


「行方不明の天使の一人を見つけたよ!!」


「えっ!?」


 慌てて階段を降りようとしたイオフィエルはそこで段を踏み外し、驚く一同の前で中段から下まで転げ落ちる。


「おい!イオフィエル!大丈夫か!?」


 慌てて立ち上がったストラスだったが、イオフィエルは自分の下に現れた丸い物体のお陰で怪我をしていないことに気付いた。イオフィエルの下で気絶しているのは、くすんだ紫色の身体をしたどこかアンバランスな体型の生き物だった。


「ニンフ!!」


 駆け寄ったストラスが抱き上げるとしばらくしてニンフは青い目を開けた。シャーと小さく鳴いてニンフは再び目を閉じる。


「大丈夫だ。ニンフは主の使い魔で今はハルの相棒みたいなもんなんだ。ハルが登校したから今日は留守番させておいたんだよ…」


「ニンフ…ごめん。天界なら普通に翼が出せるのに…ここじゃ出ないこと…忘れてた…」


 イオフィエルは自分が転げ落ちた階段を見上げる。


「イオフィエル、基本的に飛んで移動はナシの世界だからね?そこのところは理解しておかないと、君、私と子作りする以前に死んじゃうかもしれないよ?だいたいその段数で翼を出そうなんて魔力があったって多分間に合わないよ」


 ミカエルが手を引いて起こしてからそんなことを言う。イオフィエルは赤くなって相手の手から慌てて手を離した。


「で?何でしたっけ、あの天使は誰なんです?」


「多分…レリエルだと思うんだけど…」


「レリエルとは?」


 ストラスはそれほど天使に詳しい訳ではなかった。


「あぁ…懐妊と出産を見守る天使だね。天界に神が不在になって、天使も絶滅するなら、レリエルがいてくれたら心強いって思っていたんだけど…」


 ストラスはルイを見つめて微笑む水谷先生ことレリエルにルイの夫になったからこそ分かる勘を働かせて妊婦のルイに言った。


「…水谷先生と二人きりにならない方がいいかもしれないな。薬で気配は消していても…ルイやカイの魔力に惹かれる可能性がある…」


「え?なにそれ、僕のこと狙ってるってこと?」


「本人がどの程度記憶を持っているのかも分からないけど、無意識に惹かれる部分も確実にあるだろうな。だから気をつけろ」


「うん、分かったよ」


 ルイはお腹に優しく触れるストラスの指先を意識しながら神妙な顔をして頷いた。

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