新婚旅行の場合 45
「ルイ、どうした?何か言ってくれ」
寝室に移動したストラスはベッドにルイを横たえようとして真っ赤な顔をしたとルイと目が合ってしまった。ルイは目を泳がせて逸らす。
「ごめん…ストラス…」
ルイはそのまま顔を覆うと言った。
「ダンタリオンさんが…あんな事言うから…僕…」
「何を言われた?」
「…す…ストラスに抱かれていると思えって…だから…僕、我慢できなくなっちゃって…」
「は…?な…それだけ?」
「それだけって!!こんなになってるのに?恥ずかしくて死にそう!!ダンタリオンさんにも多分バレた…!」
ルイは怒ってストラスの手を掴んだ。その手を自分のスカートの中に入れる。ストラスはすぐに察した。ダンタリオンの唾液の催淫成分のせいもあるだろう。いつにも増して溢れている。
「…あー悪い…こんなになっちゃって…これは脱いだ方がいいな…」
ストラスはそのまま腰の紐を解くとあっさりと濡れた下着を剥ぎ取ってしまった。ルイは真っ赤になったまま、ストラスが当然のようにそのまま触り始めたことに気付く。ストラスは反対の手でルイの服のボタンを外すと自分の服の首周りを緩めた。
「魔力を流されながら、言葉責めされたら女の子のルイはこうなるのか…ダンタリオンさんも美声だもんな…感じちゃったの?」
「ひどっ…面白がってるでしょ…」
ルイはストラスを睨もうとして失敗した。
「いや、いちいち可愛いなと思ってさ。俺を欲しがってるルイも」
ストラスは今日は姿を変えなかった。服を脱ぐ姿も様になるとルイは思った。猛禽類の瞳をした巨大な悪魔がルイに覆い被さる。ストラスの背中に翼が生えた。更に大きくなる。
「やだ…!無理無理…!!ストップ!」
「無理じゃないよ。何のために毎日ルイの腹に魔力を流してたと思ってる?身体の中を作り変えるって言っただろ?…今日はそろそろ試す」
覆い被さったままストラスは強引にルイの中に入ってきた。先ほどの余韻で想像よりもあっさりとルイはストラスを受け入れてしまう。それでもその瞬間のあまりの衝撃と刺激に視界がチカチカした。息が止まる。熱い。ルイは自分自身に一番驚いて目の前の悪魔を見上げた。
「……!!」
「だから言っただろ?入ったな。第一関門クリアだ」
「なに言って…あ!!」
「…まだいけそうか?ルイ…」
「ストラス!!」
「なに?」
聞いたくせに口付けでルイは言葉を封じられる。人の姿のときとは比べものにならないほどの魔力に身体の奥から焼かれそうだった。燃えていると思った。自分も元は炎の精霊なのに、自分のその炎はロウソクの先に灯ったちっぽけな明かりでしかないことにルイは気付かされた。ものすごく熱い。地獄の業火はこんなだろうか。ストラスはルイを離さなかった。次第に痛みよりも快感が凌駕する。
(早く子どもが欲しいんだろ?だったらまずはこれに慣れないとな…俺は真面目にお前を愛してるよ。別にからかってなんかない…)
頭の中に直接響くストラスの低い美声がルイの脳を溶かしてゆく。次第に何も考えられなくなり、言い訳ごとルイはストラスに抱きしめられた。
(ルイ、愛してるよ)
ストラスの声が身体の中にも響く。ルイは悪魔の腕の中で燃え盛る炎のように熱い魔力を流し込まれて悲鳴を上げた。
***
(……あれ?)
ルイは目が覚めたと思ったらまだそこは夢の中なのに気付いた。裸のまま起き上がる。胸のピアスに無意識のうちに触れて、振り返った先にベレトの姿を見つけた。
(ん…)
身動ぎした猫耳の少女は起き上がって、目の前のルイを見て目をしばたかせた。
(もしかして…ルイ?なんで裸なの?)
(えー夢だから?アサヒだって…)
上の方から気配が近付いてきて悪魔の姿のストラスがやってきた。
(ルイ、悪い…少し調子に乗り過ぎて、抱き潰してしまったよ…身体の方は休ませた方がいい…アサヒもか?向こうだってまだ昼間だろ?ラウムとは仲良くやれてるんだな?)
(あ…はい…僕も…似たような…状況で…)
アサヒは赤くなる。
(アサヒだって新婚みたいなもんだったら、そりゃそうなるか)
アサヒは起き上がると恥ずかしそうに辺りを見回すが探していた服はなかった。薄いブランケットが中空から降ってくる。ルイは一枚それを自分の身体に巻き付けてもう一枚をアサヒに渡した。ストラスが降り立つとルイに言った。
(少し真面目な話をすると…ルイが妊娠したいならしてもいいと俺は思うよ。俺は本当は待とうと思ったけどな…リツさんを見ていたら分裂していれば、何とかできるんじゃないかって気がしてきたんだよ。妊娠してる方には留守番をさせる。でもな、ルイはお腹の子は一人にしておけよ。二人はダメだ。危険だからな。そこさえ聞き分けてくれるなら…もうこの先俺は避妊はしない…)
ストラスの言葉にアサヒまでが赤くなった。
(アサヒもここに落ちてきたってことは…何か悩んでるんじゃないのか?)
(……ストラスさんって…どうしてこう…タイムリーに僕がラウムに言ってほしい言葉を先にルイに言っちゃうんですか?ひどいですよ…)
(えっ?マジか?それは…悪かったな)
ストラスは猫耳のアサヒを撫でる。隣に座ったストラスの大きさにアサヒはギョッとした顔付きをした。尻尾の先までピンとなる。
(そ…そんなに大きかったでしたっけ!?)
(魔界サイズだよ。それにベレトの身体が小さいんだ。ラウムはそこまでデカい悪魔じゃなくて良かったな。女子になったばかりのルイなんて最初は大変だったんだ)
(ほんとに裂けるかと思ったよ。めちゃくちゃ痛いしさ…だから身体を作り変えたり…色々してようやく…だよ)
ルイはストラスを挟んで反対側に座る。美少女のルイを見たアサヒは複雑な心境になりながらも口を開いた。
(ルイ…少し見ない間に綺麗になったね…)
(え?そう?アサヒもだよ?ストラス…猫が好きだからって手を出したらダメだからね?)
(あー?俺を誰だと思ってんの?お前を妊娠させるだけで精一杯だよ、今は…)
ストラスが猫耳のアサヒの頭を撫でていると遅れてラウムが現れた。
(ベレト!!あ、お二人とも…いらしたんですか?こんなに遠くに来るなんて、間違って他の悪魔の夢に入ったら食べられてしまいますよ?)
ラウムが小言を言う。ストラスはラウムに気軽な調子で話しかけた。
(子作りの件で揉めてんの?こっちもタイムリーな話題過ぎてびっくりだけどさ)
(えっ…?どうして…というかそちらもなんですか?ベレトが高校進学はしないで魔界で子どもを生んで育てたいと言い出したものですから…)
(みんな何やかんやで影響するってことなのかねぇ…恐らく…王妃であるリツさんが二人目を妊娠したせいで…過去に関わってきた悪魔のみならず天使にまで影響が出てるんじゃないかと俺は思っているんですよ。ガブリエルまで入籍して、よりによってリツさんの実のお姉さんを妊娠させてましたから…)
(さらっと何言ってるの!?僕、その話聞いてないんだけど!?リツにお姉さん!?妊娠!?)
ルイが驚きのあまり立ち上がる。そしてフラッとした。ストラスが慌てて抱き留める。
(ルイ!急に動くなって!お前のこと抱き潰したって言っただろ。こっちにだって少しは影響するんだから、大人しくしてろ)
(…なにそれ…手加減してくれなかったのはストラスなのにさ…ひどくない?)
(あーそういうこと言うのか。どの口で?妊娠したいって言うからだろ。言っとくけど現実ではまだ繋がったままだからな。起きたら覚悟しろよ?マジで秒で孕ませるぞ?)
(ち、ちょっと…二人とも…ベレトの前で刺激の強過ぎる会話はしないで下さいよ。誘発されてしまいますから…)
ラウムが困ったように言う。そして実は…と言いにくそうに言った。
(…イチカさんも…そうなんじゃないかと…社長の心配そうな様子を見ていたらそのような気が…まだ社長の口からは直接報告はされていませんが…)
(あー多分それ当たってるよ。空前のベビーラッシュが訪れようとしている…ラウム、その流れに乗るのはアリだよ?こっちの猫科の使い魔の妊娠期間と出産のタイミングの平均値で大体はベレトにも通用するだろ。アサヒにも分裂の仕方を仕込んでおけば、卒業までなんとかなる…そもそも欲しがられて嬉しくない悪魔なんていないんだからさ…えっと、調べたら約六ヶ月だな。人よりも短い)
(そうですか、っていつ調べたんですか?)
ラウムは思わずそう言って、傍らのベレトが顔を赤らめているのを見た。
(半分起きてるから魔界で検索したんだよ…)
(僕も卒業したら魔界で使い魔の勉強しよっかな。あ、でも、その前にストラスの子ども産んでからね)
ストラスは腕に抱いたルイのお腹を撫でた。
(楓やアイムは大丈夫なのかねぇ)
ストラスがつぶやいたとき、ラウムが意を決したように口を開いた。
(分かりました。ベレト。あなたの望みを叶えましょう。卒業後は海外の高校にでも進学したことにしてしまえばいい…)
(おー方向が決まったか。決断が早いな。じゃ、俺らも戻るとするか…またな。起きろ、ルイ!)
「……!!」
ルイが目を開けるとストラスはタブレットをベッドの横に置いたところだった。夢の中でストラスが言った通りだった。ルイは赤くなる。ストラスはゆっくりと動きながらルイに唇を重ねる。
「気絶してる間に終わってるのは嫌だろ?こういうのはさ…」
「ん…!!」
ルイは気絶する前に泣いてしまったことを思い出した。勝手に涙が出てしまった。ストラスはルイの頭を撫でる。
「ルイ…いいんだな?」
「うん…欲しい…」
ストラスは獰猛な顔付きでルイを見下ろした。二人はしばらく無言で互いの感覚に溺れる。ルイはあっという間に呼吸が乱れて、思わず身体を仰け反らせる。
「も…無理…!ストラスっ!」
ルイは燃えるような感覚に飲まれながら喘いだ。
「ルイ…!」
名前を呼ばれる。ルイはストラスの名前を叫ぶ。一緒に、と言いかけてルイは言葉を失う。抱きしめられたままルイはその瞬間を迎えた。業火のように熱いもので一気に満たされる。体中の血が沸騰したかのように熱く燃え滾り自分が炎になってしまったかのようだった。ストラスはルイをきつく抱きしめたまま動かない。やがてそっと静かにストラスはルイから離れた。ルイは勝手に痙攣する身体に戸惑いながらも、手を握ってルイの乱れた魔力を整え始めたストラスに身を任せた。
「今のルイは…まだ受け取るのにギリギリなんだよ…だから少し辛いだろ…」
ストラスは枕元の水を口に含むとそのまま唇を重ねた。ルイは口移しに水を飲まされる。ストラスは再びベッドの中に入るとルイの隣に横になってルイを抱きしめた。
「身体の中が…燃えてる…」
「うん…しばらくその状態が続くよ…耐えられそうか?」
「頑張る…」
ルイは口ではそう言ったが、身体が燃え尽きるのではないかというくらいの炎に飲まれていた。その炎の中に何かがある。何だろうとルイは目を凝らそうとした。なぜそんなに気になったのかはルイにも分からなかった。
「一緒にいて…」
そうつぶやいたとき、炎の中のそれは急に伸びてきてルイを絡め取った。視界が一気に暗くなる。ルイは炎の奥底の闇に引き込まれた。




