新婚旅行の場合 44
同じ頃、ケビンはダンタリオンの呼んだ医者に身体に異常がないかを確認されていた。特に怪我をしているところもなく、額にも目のあるダンタリオンの旧知でもある魔界の医者はお腹に手を当てると微笑んだ。
「順調ですね…身体機能を変えた割には副作用もないようですし…あなたは珍しい身体をお持ちだ…実に興味深い…」
「ケビンを実験台にしようとしたら…どうなるか分かっているよね?君の大事な額の目が盲目になると思っていた方がいいよ?スペアも残らず…ね」
「…嫌ですねぇ。そんな脅さないで下さいよ。双子の母体は負担も大きいんですよ?その辺りも含めて体調管理をしていかないと、お腹の子の育つ早さに身体が追いつかないことがないように気をつけなければなりませんからね…それから君のことですから、妊婦への過剰な触れ合いは控えて下さいよ。刺激を与えすぎるのはダメです」
「…私をその辺の若者と同列に扱わないでほしい…さすがの私でもそんなことは承知している…抱くのは夢の領域のみにするさ」
さらっと言った言葉にケビンはダンタリオンの顔を二度見してしまった。三つ目の医者は気の毒そうにケビンを見る。
「夢の領域と言っても…彼の体力は底なしだからねぇ…君も大変だね。いいかいダンタリオン、夢の領域にしても毎晩はダメだ。君は一度夢中になると夜通し貪り尽くすんだから…三日に一回…夢の中でも二時間まで」
「三日に一度!?二時間!?たったの?君は私を殺す気か?そんなことは無理に決まっているだろう!!」
ダンタリオンと医者が口論になっているところに、ケビンは複数の気配を感じた。
「あの…陛下がお見えなんですけど」
ケビンの言葉に医者は慌てて口をつぐむ。扉の外に出て行った医者が何やら話しているようだった。
「あのさ…ダンタリオン。二時間…じゃなくても…多分平気だから…どうしても無理なときはちゃんと言うから…さ」
ケビンが顔を赤らめながら言うとダンタリオンは微笑んでケビンを抱きしめて唇を重ねる。ケビンもうっかり応じてしまい夢中で口付けを交わして愛撫されているところに、アルシエルと医者、リツとルイそれにストラスまでがぞろぞろと入ってきた。
「言ったそばから医者の話を聞き流すのは君くらいだよ!ダンタリオン!!」
とうとう三つ目の医者の怒声が響いた。
***
呆れ顔の医者は帰る間際にリツの方を見て驚愕した顔付きになる。そのままアルシエルを見上げた医者は、瞬時に彼と目で会話をしているようだった。言葉を発しないので何のやり取りをしているのかリツには分からなかったが、医者の顔付きは少し気になった。双子のようで双子ではないから驚いたのだろうか、とリツは考える。
「それではまた後日、往診に参りますので。ダンタリオンいいかい?次の往診で君がどんな風に接しているのかも全部分かるんだからね」
医者はダンタリオンに告げると帰って行った。ダンタリオンはアルシエルの顔を見つめる。
「なんだ?物言いたげな顔をして…」
「なんでもないよ、ただ君も私と似たり寄ったりのことをしているなと思っただけさ。キスしただけであんなに叱られたら、君がしたことはどうなの?って話だけど…」
「お腹の子はリツと共に留守番していたからな。その時のフィランジェルは少なくとも妊婦ではなかった。お互いケビンを救おうと突入したら想像とは違う展開に肩透かしを食らったんだよ。それで発散されずに残った闘志を別のところで解消しただけだ…それでまさか天界にまで上ってしまうとは思わなかったけれどね。あぁ…もちろん比喩的な意味ではなく」
「君も大概だよ…リツさん、陛下と一緒にいてご不便などありませんか?本日もう一人ご懐妊とか…彼もまさか私に競っている訳ではないと思うのですが…ケビンに加えてリツさんまでお腹に二つの命を育むことになろうとは正直なところ想像してはおりませんでした…」
ダンタリオンはリツに向かって微笑むと椅子に座るように促した。
「えっ?リツ…そうなの?」
まだ話の詳細を知らないルイが目を丸くする。ケビンもだった。
「なになに?リツもお揃いなの?わーこの先妊婦あるあるで共感できるかなぁ…ルイも早くこっち側に来れたらいいのに。ねぇ、ストラス、ちゃちゃっとこう…ルイの魔力を上げちゃってさ、どうにかならないの?」
「ケビン…簡単に言うなよ…」
けれどもストラスはそうは言いつつもルイがそのことをとても気にしているのは分かっていた。ストラスはルイの頭を撫でる。
「あーまぁ、ついでに今、ダンタリオンさんに魔力を流してもらうか?」
「私は構いませんよ?ソファーでいいかな?おいで、ルイ」
ダンタリオンはまるで生徒の悩み相談にでも乗るかのように穏やかな表情でルイを促す。それなのに彼は先にソファーに座るとルイを手招きながら言った。
「私の上にまたがって向かい合わせに座って」
「……ちょっ…!」
ストラスは何かを言いかけたが、アルシエルの手に止められて押し黙る。ルイは少し不安そうにストラスを振り返った。ストラスが頷くと小さく頷き返す。その様子にリツまで緊張してしまう。ルイは言われた通りにダンタリオンの膝に座った。ダンタリオンは肩に手を回すとルイを引き寄せた。
「少し鼓動が速くなるくらいの方が、魔力は流しやすいんだよ。私に何かされるんじゃないかと思って緊張してる?ルイの気分が乗ったらするかもしれないね…君も可愛らしいから…」
ダンタリオンは微笑んで唇を重ねるとルイに魔力を流し始めた。ケビンはストラスの顔を見上げると、そっと手に触れた。
(大丈夫?ストラス…)
(…大丈夫だよ。と言いたいところだけど、じりじりと殺意が湧くな…)
(怖いこと言わないでよ)
反対側の手にリツが触れる。
(ストラス…落ち着いて…)
(あぁ…リツさんまで…)
ダンタリオンはルイに魔力を流し込みながら片手で腹部に触れる。ルイは何かを耐えるように口付けの合間に浅い呼吸を繰り返していたが、耳元に何かを囁かれて何度か痙攣した。最後はそのままグッタリとなりダンタリオンの肩にもたれかかってしまう。
「どう?気持ち良くなれたかな?」
ストラスはとうとう大股に歩み寄るとダンタリオンの膝の上からルイを抱き上げた。
「ルイ、大丈夫か?」
ルイは首を横に振るとストラスの胸に顔を押し付けて隠した。身体が熱い。
「すみません、お先に失礼します」
ストラスはルイを抱きかかえて部屋から出てゆく。ダンタリオンは肩をすくめてその後ろ姿を見送った。
「ダンタリオン…ルイに何を言ったんだ?」
アルシエルの言葉にダンタリオンは微笑んだ。
「別に。ストラスに抱かれていると思えと言っただけだよ?そうしたら、あぁなってしまった…可愛いね。好きで好きで仕方ないんだ…ケビンとは違ったタイプだけど、あれはあれで愛らしいと思うよ」
「…やれやれ…君も悪い男だな」
アルシエルは呆れる。
「悪魔だからね。それに補佐官の意外な表情が見られるから思った以上に楽しいね…」
ダンタリオンは悪びれもせずに言うと笑った。




