63話
さて、一通り身の回りの事が片付いた後、俺はこの街の状況を詳しく知ることにしたのだ。まぁ、国王と交わした定期的な支援については問題なく行われているらしいから、昔と比べれば随分と暮らしやすくなっているらしいけど。
街を歩きながら、エリーからこの街の事を更に詳しく聞いていた。ちなみに、フェリスは屋敷に残ってもらっている。まぁ、トラブル防止のためだな。元々の街の住民はともかく、そうじゃない連中がまだ何をするか分からないし。
「あの山で珍しい魔法鉱石?」
「うん。十中八九君の魔力の影響らしい」
「………ほーん」
俺は適当な相槌を打ちながらあの山の方角を見る。魔法鉱石かぁ。産業にすれば文字通り金の山になりそうだけど、問題はその山にモンスターが集まっている事と、そもそもあそこが危険地帯な事なんだよな。
「去年から父君と父上が協力しながら何とか出来ないかと模索しているようだけど、怪我人が出たりと今のところあまり上手く行っていないようだね」
「そんなに必死になるほどなのか?」
正直、魔法鉱石は珍しいとは言え産出が殆どないと言うほどではない。怪我人を出してまでやることではないと思うんだけどな。
「聞いたところによると、かなり高純度らしい。恐らく不純物が魔力によって燃やし尽くされたんだろう」
「そんなことがあるのか………魔法鉱石って、確か普通の鉱石から変化したりするよな?」
「稀な例だけど、恐らく今回は………君、まさか」
「作れるなら作ってみようかなぁって」
「………」
エリーが呆れたように小さく息を漏らす。でも、もし出来たら適当な鉱石を買い集めて全部魔法鉱石にして、市場を独占するレベルで売り出せば一儲け出来るんじゃないか?
というか、売った金でまた鉱石を買ってそれを魔法鉱石に………俺、億万長者になれるんじゃないかな。
「………一度やってるんだし、出来るとは思うよ。ただ、あんまり派手にやりすぎると要らない恨みを買うから気を付けた方がいい」
「まぁ、それはそうだな」
今までの全ての産出地を潰すようなもんだし、そうなれば少なくはない失業者も生まれるだろう。
まぁ、競争で負けただけだろと言えばそれまでなんだけど。感情と道理は違うからしゃーない。
そして、エリーは呆れた様子で………でもどこか嬉しそうに話し始めた。
「元々そう言う質とは言え、君はもし貴族でなくなっても平然と生きていけそうな所は全く変わっていないね」
「それはお前もじゃないか?」
「身の回りの世話をしてくれる人がいないのは中々難しい」
「堂々と言うんじゃねぇよ」
一度くらい散らかった部屋で虫が湧いたりとかすれば変わるかもしれないが、生憎とここの気候だからな。周辺の虫と言えば大半がモンスターだ。マジで残念だ。
「………正直に言えば、君が君のまま帰ってきた事に、少し驚いたんだ」
「ん?………え、なに?3年の間に俺は俺じゃないナニカになると思われてたの?」
「勿論」
「てめぇ………」
「ふふ、冗談さ」
まぁ、言いたいことは分かるけどさ。けど、実際は全てがあの頃のままだと言うわけじゃないんだよな。
それを口に出すことはないけど。
「王都はここより暮らしやすいし、城での生活も快適だっただろう?」
「まぁな」
それはまぁ、当然とも言える。ここの景色が殺風景って訳じゃないけど、発展してるだけあって景観も壮観だし、あらゆるものが揃っている。治安維持に関してもまぁ、白の裁徒の件とかを除けば基本的には優秀だ。だからこそ、人の姿だとしてもフェニックスを外に連れ出せたのだから。
「だから君は………もしかしたら、あっちでの生活の方が好きになるんじゃないかと思ってね」
「んー?俺はあっちの生活も好きだったぞ。けど、あそこにはお前がいないからな。それだけでも帰る理由になるさ」
「………なるほど。本当に変わってないようで何よりだ」
「?」
たった今そう言う話をしてただろうに。しかし、エリーはそれ以上何も言わずに道を進む。たまーにこう言うよく分からない態度を取る所も昔と変わってないみたいだな。
「こほん。その様子だと、向こうで特定の相手が出来たと言うわけではなさそうだね?」
「なんだ急に………いたら父さんにとっくに連絡してるよ。どちらにせよ、あの環境じゃもし報告することになっても………」
「相手はルーナになっただろうと」
「………まぁ、そうだな」
彼女の名を聞いて、思わず歯切れが悪くなってしまう。何とか気持ちを切り替えることは出来たけど、吹っ切れた訳ではない。
あの日の彼女の言葉が頭を過り、気持ちに靄が掛かる。
「………詳しくは聞かないけど、噂で聞くほど単純じゃないんだろう?」
「どうだろうな………出来れば、単純に終わってくれれば良いんだけどな」
曖昧な答え。勿論、彼女はこの返答だけで彼女の予想が正しい事を確信出来るだろうと言うのは知っている。
でも、エリーはそれ以上は何も言わずにいてくれた。こう言う所は、幼馴染みの察しの良さに助けられている。そして、エリーは話題を変えるように話し始めた。
「あぁ、あと君が散々悩んでいたうちの警備兵だけどね」
「ん?………あぁ、あいつらが?」
「王都の騎士学校から教官を招いて、一から鍛え直してもらっているんだよ」
「おぉ………」
そりゃ助かるな。今後どう発展していくかに関わらず、この街は多くの人が出入りするようになるだろう。
冒険者ギルドが設営されるし、高ランクモンスターが多く出没するというのは、それだけ実入りや貴重な素材が出回ると言うことだし。
そうなれば、治安維持にもより一層力をいれなきゃ行けないと思っていたところだ。
「良い感じなのか?」
「さぁ?まぁ、やる気は十分とは聞いたよ。身近に英雄となった少年がいたのだから、熱が入るのも当然だろうしね」
「そんなもんか………」
熱意があるのはいいんだけど、それが原因でトラブル起こさなきゃ良いなぁ。
「冒険者ギルドは後どれくらいで完成するんだ?」
「来月中には完成する見込みだ。そうなれば、この街ももっと活気付くだろう」
「そっか。楽しみだな」
「………今度、こっそり抜け出して一緒にモンスターを倒しに行かないかい?」
「はは、俺は言われなくてもそのつもりだったぞ」
「ふふ、じゃあ決まりだ」
父さんにはああ言われたけど、やっぱり俺には大人しくしてるなんて無理な話だからな。しょうがないのだ。
「ここでの生活には慣れたか?ルーナ」
「………慣れることはないと思います」
「そうか。そりゃあ残念だなぁ」
熾炎との戦いから一週間が経ち、ようやく互いに守護者の力の反動が完全に回復したところだった。まぁ、戦いと言うにはちょいと一方的過ぎた気がするけどな。
流石に【五属の継心】の中で最もパワーに特化した能力だと言われるだけの事はある。ルーナが俺達に協力すると約束しなければ、恐らくはあそこで皆殺しにされていたはずだ。………とは言え、最後の一撃を放ったのを考えれば、次はルーナが相手だろうと最初から殺す気で来るだろうが。
しかし、本気で殺されかけたというのに彼女はまだ熾炎に想いを寄せているらしい。ここまで行けば、ある種狂気的とも言える。
「こうなった以上、こちらから宣戦布告をするまでもなく戦争は始まるだろうがな………もう一度聞くが、良いんだよな?お前を戦力として数えても」
「どうぞお好きに。でも――」
「分かってるよ。最優先は熾炎を捕らえる事だろ?」
彼女がこちらに協力をする条件として提示した、奴の命の保証。面倒くさいと言えばその通りだが、それで【五属の継心】の継承者を一人戦力として囲えるのなら安い物だ。それに、最悪の場合は………
「………先に言っておきます。私はあなたを信用したわけではありません。ノインさんが戦場に出ない限りは、私も個人で動きます」
「はぁ………まぁ、信用出来ねぇのは当たり前か。好きにしろ。ただし、1週間以上城を空けるのは禁止する。それ以上は裏切ったと判断するぞ」
「分かりました」
特に考えることなく頷くルーナ。恐らく、ここを離れても構わないと言うくらいの覚悟なのだろう。実際、俺とルーナの目的には若干ながら差異がある。
何だかんだとお人好しそうな熾炎の事だ。一度敵対したとは言え、時間さえあればルーナが再び彼に近付くことは容易だろう。だが、俺は彼女の協力なしで奴に勝てるビジョンが今のところはない。
利害の一致と言う形で協力をする事にはしたが、立場上で優位なのはルーナなのは違いない。彼女がこの国の国民ならば、権力で従わせることも出来たんだが。
「これは純粋な興味なんだが、あの男のどこに惹かれたんだ?確かに男前だとは思うが、中々平穏な暮らしは出来ないぞあれ」
「………あなたには関係の無い事です。用がないのなら失礼してもいいですか?」
「あー………まぁ、そうだな。呼び出してすまない」
「いえ、失礼します」
そう言って謁見の間から去っていくルーナ。熾炎と対峙していた時はあれほど感情的だったと言うのに、今はその影が見えない程に冷淡で近寄りがたい雰囲気を纏っている。
まぁ、俺に深入りさせたくないと言うのは理解できるが。元より光と闇で、相性も最悪だしなぁ。俺としては仲良くしておきたかったが、あの様子じゃ無理だな。
彼女が去ったのを見て、今まで黙っていた側近が声を掛けてくる。
「………陛下、良いのですか?あのような態度を取らせておいて」
「良いんだよ。機嫌を損ねて協力を打ち切られる方が不味い。最悪、相手に付くことを考えれば尚更な」
「ですが………」
「まぁ、熾炎が戦争に出てくるまでは最低でもあと4年だ。それまでは彼女も大人しくしてるだろ。その間に多少なりとも親睦を深めておいた方がいいし、あれくらいのことに目くじらを立てる程じゃない」
万が一………万が一だが、彼女の心を熾炎からこちら側に動かせれば彼女はそれだけで扱いやすい駒になる。まぁ、こんな魂胆があるうちは無理だろうが。
だが、彼女と俺が持つ情報のアドバンテージはこちらに分がある。あれこれと言いくるめて彼女を動かす事は出来るだろう。熾炎の事に関われば、彼女は従わざるを得ないからな。
「まぁ、暫くは様子見だ。どちらにせよ、俺と彼女は利害関係なんだからな」
「………陛下がそうおっしゃるのであれば」
今は彼女の態度とかそんなどうでもいい事に一々気を取られている暇はない。とにかく、奴の火をどうにかしなければいけない。如何なる犠牲を払おうとも。




