62話
屋敷に入った後、俺は執務室で父さんに今までの事と………まぁ、フェリスの事を話していた。エリーは別室にいてここには俺とフェリス、父さんだけだ。
「君が普通と違うのは分かっていたけど、まさかフェニックスを使役するとはね………」
「………すんません」
「ホルルル?」
もしもうちでペットは飼っちゃいけませんとか言われたらどうしようかと思っていたが、その点に関しては問題ないそうだ。だが、勿論何の問題も無いという訳にはいかないようで。
まぁ、お騒がせフェニックスの犯行に関しては度々父さんとの連絡で伝えていたこともあったから、若干顔を引きつらせていた気もする。まぁ、それはともかく。
「………フェリスに関しては君がちゃんと面倒を見れるなら、私からは何も言わないよ」
「まぁ、うん。わかった」
と、まるで犬猫を拾ってきた子供に言い聞かせるかのような結論になった。父さんも忙しそうだからなぁ………変に仕事は増やしたくない。執務机に山のように積み重なった書類を見て、俺は少し遠い目をしてしまう。
いつか俺がこれを処理する日が来るのか………?やだな。
「………全く。王都で生活しても、君は相変わらずだね」
「あはは。でもあっちでの生活は俺にとって良い経験になったよ」
「荒事のだろう?」
「うん」
当たり前じゃないか。俺に何を求めている。………貴族として相応しい振る舞い以外にないに決まってんだろうなぁ。
まぁ、正直無理………こほん。礼儀作法とかは最低限出来るけど、それ以上になって来るとかなり怪しいんだよな。
「国王陛下と近い距離で暮らすのなら、嫌でもその辺りは慣れると思ったんだけどね?」
「実際、敬語を使うのは慣れたけど?………けど、国王陛下も思ったより厳しいだけって人じゃなかったし」
「ふむ。本当によく気に入られたようだね」
「?………国王陛下からなんか言われてたのか?」
父さんは国王とも定期的にやり取りしてたらしいし。なんか俺のハズカシイ失敗でも告げ口されてたりしないだろうか。あんまり身に覚えが………フェリスに振り回されてるときはまぁまぁダサかったか。
「まぁ、少しね。………そう言えば、冒険者ギルドが出来るのは知ってるかい?」
「ん?…………うん。聞いたよ。モンスターが増えてるんだろ?」
「その通りだ。最近はランクAモンスターも………ノイン?なぜ準備運動をしてるのかな?」
「え?今からそいつをぶちのめしてこいって話じゃないの?」
「違うから落ち着きなさい」
「………はーい」
まぁ、流石に分かってたけどさ。再会したその日にAランクモンスターと戦わせるとか普通に考えればかなり鬼畜の部類に入る。
行けと言われたら喜んで行ったけどさ。
「でも、実際ほっとく訳にもいかないだろ?」
「そのための冒険者ギルドだよ。Aランクモンスターといえば、冒険者にとっても大きな仕事だ。彼らがここで定着できるように、全ての厄介事を君に任せるわけにはいかない」
「………父さんは移住者を増やしたいのか?」
実は少し意外だ。父さんも決断力は勿論あるが、基本的に保守的な人だ。移住者を完全に拒む………というのは難しいかもしれないけど、抑えようとする動きをするかと思ってた。
「………近々、戦争が起こる。そうだろう?」
「は?なんで知って…………あ」
またやってもーた。そう後悔をしたが、どちらにせよ父さんに隠し通せるとは思えないから無駄か。だから、フェリスはしれっと俺の足を踏むのは止めていただけませんかね。結構痛いんです。鉤爪が食い込んでるの。
「私も独自に白の裁徒のことを調べていてね。彼らの背後に、もっと大きな何かが絡んでいることは掴めていたんだ。………ルーナ様の件、君のことだから、ただ何もなく間に合わなかったわけじゃないんだろう?」
「…………」
なんでわざわざ奴らのことを………と言うのは聞かずとも分かる。というか、普通は息子の命を狙っている相手に無関心でいられる訳がないし。
「まぁ、君にはもう私の息子として以外の立場がある。話せないこともあるだろうから、この件に関しては深く追求しないよ。………でも、もう少しこう言うのは慣れた方がいい。君は知らない相手なら隙がないんだけど、心を開いた相手には甘いからね」
「気を付けるよ………」
まぁ、家を継ぐかどうかは関係なく、貴族の息子なら出来た方がいいよなぁ………ラルクも王族なんだし、あいつとはバカばっかりやらずにそう言うのも教えてもらえば良かったか。
「頑張って欲しい。………そうだ。イリスには会ったかい?」
「いや、まだ。寂しがってた?」
「はは。それなりにね。書斎にいると思うから、会いに行ってあげてくれ」
「分かった………話はそれくらい?」
「今はね。帰ってきたばかりだし、まだゆっくりするといい。君のいない間に、ここも少しずつ変わったからね」
「ん、じゃあまた後で」
俺とフェリスは父さんにそう言って執務室を出る。書斎かぁ。
城の書斎があったんだから、今更………と思うかもしれないが、元々アクティブな俺だから結局あそこの本の1%も読んでないんだよな。
面白そうな本や、興味深い物はスレイに出自を聞いてみたりしたが、その殆どが絶版した物だったのは残念だけど
「ホルルルル?」
「だから何言ってるか分かんねぇって」
「ホルル………」
やれやれ、と言わんばかりに首を横に振るフェリス。あれ?これ俺が悪いのか?
そろそろ鳥語を会得せねばならないのか………?そんな意味不明な事を考えつつ、俺たちは書斎に着く。懐かしいその扉を開くと、王城の書斎とは比べるまでもなく小さくて、俺にとっては馴染み深い部屋が広がっている。
いや、昔より少し明るくなったか?そんな風に思いつつ、いつもの書斎の奥にある机に向かう。そして、そこに座る一人の少女を見て声を掛ける。
「………え?」
その声は、俺が考えていた言葉とは全く違う間の抜けたもので。その声に気が付いた少女はこちらを見て一瞬だけ目を見開き、そして小さな微笑みを浮かべた。
「おかえりなさい。兄さん」
「え?………イリス?」
「ふふ。驚いてくれた?」
イリスは俺と同じ赤い瞳で俺を見つめる。その綺麗な顔立ちは以前と全く変わらない。………けど、誰が見ても分かるのは、長かった彼女の髪が今は短く切り揃えられて、大人びた雰囲気はなりを潜めて幼さ相応の可愛らしさを纏っていた。
笑みを浮かべながらも少し恥ずかしそうに髪を弄るイリスに、俺はゆっくりと声を出した。
「髪、切ったんだな………今のもよく似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう。外に出ることも増えて、長いままじゃ邪魔だと思ったの」
「………体調はもういいのか?」
俺がそう尋ねると、イリスは笑みを浮かべたまま頷く。そして、ちらりと窓の外に目をやり遠くに見えるあの山を見ながら話し始めた。
「うん。多分、これも兄さんのおかげ。私の病弱だった原因も、あの吹雪にあったかもしれないってソフィアさんが言ってたの」
「そっか………元気そうでよかったよ」
「兄さんもね」
そんな会話をしつつ、俺は机の空いてる席に座る。そして席に座る俺にフェリスが付いてくるのを見て、イリスは興味深そうに彼女に視線を送っていた。
「………その子がフェニックス?」
「あぁ、フェリスだ」
「ホルル」
フェリスが挨拶をするように鳴く。そこまでするなら人の姿になって自分で自己紹介までしろよと思うけど。結局フェニックスの姿でいることが多いから問題って程ではないけどさ。………そっか。人の姿になれるんだよな。そりゃ父さんが頭を悩ませるわけだ。
「魔龍を討伐した英雄になって、フェニックスまで従えて、つい最近はダンジョンを最速攻略したって言うし………兄さんは一体何になろうとしてるの?」
「世界一かっこいいお兄ちゃん」
「………」
俺の返答に、イリスは何と言うべきか悩んでる様子だった。気持ち悪いってノータイムで言われるかと思ってたんだが、未だに遠慮がちなのは治ってないみたいだ。
「昔から言ってるだろ?キモいとか、言いたいことははっきり言っても良いんだぞ?」
「キモい?兄さんはかっこいいよ。でも、戦うことでしか皆を守れないのは、私は不安だから褒めたくないの」
「あ、うん………そっか」
なんとも言われた側としては複雑な返答だ。まぁ、嫌われてるよりはマシか。俺は苦笑を返すと、話を王都での話に切り替える。やっとゆっくりと出来る時間が取れた俺は、ずっとイリスとこの街の事を聞いたり、逆に俺の王都での生活を話したりとして過ごしていた。
まぁ、その後何故自分に会いに来なかったのかと滅茶滅茶不貞腐れたエリーが文句を言ってきたが。
後日改めて埋め合わせをするということで何とか機嫌を直してもらった。
怒ってますよと言わんばかりの態度だった不貞腐れたエリーを見て、こいつは変わらないなぁと思ったのは内緒だ。




