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34話

 大通りに着いた俺達は、それぞれが自由に見て回ると言うことになった。正直、それはルノジスを連れて来た意味はあるのかと思ったが、街を行きかう人の中に騎士が多いのを見て、恐らく最初からルノジスが手配していたんだろうと察する。

 扱いは雑だけど、やっぱり優秀なんだろうな。マジで大変そうだけど。俺は特に欲しい物もなかったためにぶらぶらと適当に歩いていた。

 土地勘もないのに歩いていると迷子になりそうだが、もしものときは街の中心に見える城に向かって歩けばいいだけだからな。それに、俺にはラルクも同行していた。


「欲しい物とかないのか?」

「まぁ、見てる途中に面白そうなのがあったら買うかもな」

「そっか。………さっきはごめんな」

「ん?………あぁ、気にしなくていいよ。正直、例え名前を出しても知ってる人そのものが少ないだろうし」


 まぁ、知ってる人が居たら困るから、言わないに越したことは無いが。それはともかく、気になるところか………何かないかと思いながら周りを見ていると………


「ん?なんか騒がしいな」

「………あー………喧嘩だと思う」

「喧嘩?よくあるのか?」

「まぁ、冒険者が多い街だからな。関わらない方がいいよ。めんどくさいし」

「………」


 え、気になるんだけどな。そう思ってしまったのが顔に出ていたのか、ラルクは呆れたようにため息をつく。


「あんたって結構血の気盛んなのか?」

「言っただろ?エリーと一緒に山頂をぶっとばしたって」

「戦ってそうなったのか!?なんつー大喧嘩だよ………」

「喧嘩じゃないぞ。コミュニケーションだ」

「コミュ、ニケーション?」


 信じられない。理解できないと言ったような顔をするラルク。まぁ、一般的じゃないのは重々承知していたけれど、これが俺とエリーの関係でもあるから仕方ない。………いや、そういうとちょっと語弊があるな。


「随分と独特な関係なんだな」

「そうかもなぁ………けど、だからこそ俺にとっては唯一無二の相棒なんだよ」


 俺がそう答えると、ラルクは暫く黙る。少し考えるような様子を見せた後、再び口を開いた。


「………ふーん。あのさ、さっき聞けなかった事なんだけど」

「なんだ?」

「そのエリシアって奴が好きなのか?」

「エリーを?」


 その質問に、思わず俺は聞き返した。………実際、どうなんだろうな。正直な話をすると、あまり想像できないというのが事実だった。可愛らしい所はあるが、やっぱり変わってるし。今までずっとライバルであり、友であり、パートナーだった関係から大きく変わると言うのが分からなかった。


「ま、そういうのは――」


 あんまり考えた事が無い。そう答えようとして、俺は一瞬だけ感じた視線に立ち止まる。その様子に疑問を持ったラルクも立ち止まるが、俺の表情を見て顔を引き締めた。


「………誰かいたのか?」

「いや、視線を感じただけだ。けど………」

「普通じゃないってことか………みんなと合流しよう」

「あぁ」


 俺は頷いて、来た道を引き返し始める。視線は未だに向けられていて、どこから何が来ても対応できるように気を張り続けていた。通りの影、通りすがる一般市民や冒険者。どこに紛れていてもおかしくはない。

 ある程度まで戻っていくと、ルノジスが俺達を探すような様子で辺りを見ていた。それを見て、俺は手を振って………こちらに気付いた彼の目が見開かれるのを見た。


「ッ………!」


 俺が咄嗟に振り返ると、既に目の前には振り上げた長剣を振り下ろそうとしている冒険者の姿があった。右手に炎を纏い、逆に接近する事で懐に潜り込む。そして右手を革の鎧に覆われた腹部に添えて………


「吹き飛べ!」


 炎を解放する。弾けるような爆発音とともに、男の体は地面と水平に吹き飛んでいった。油断していたわけではないのに、奴の気配に全く気付くことが出来なかった。いや………向けられている視線に意識を割き過ぎていたんだろう。

 吹き飛んだ男は何度も道を転げ、止まったところで動かなくなる。周囲の人は何が起こったのかと理解できない様子だったが………


「ノイン様!」

「ルノジス、ルーナ達を探せ!」

「その必要はない。我達はここにいる」


 俺の言葉に、ウェイン達が人込みの中から現れる。ルーナとスレイも一緒だ。恐らく、異変に気が付いたルノジスが先に合流を掛けていたんだろう。彼らの周りには騎士が付いていた。

 しかし、向けられる視線………いや、殺気が増えていた。俺が気が付いて、騎士団長が気が付かないと言うことは無いだろう。ルノジスも頷き、周囲を睨んだ。


「ラルク、ルーナ達の方に行ってろ」

「え、でも………」

「ラルク様、ここは危険です。ウェイン様達と共に逃げてください」

「………分かった」


 ラルクが頷き、ウェイン達の方へ駆け出す。そんな彼を抱き留め、俺を見るウェイン。


「お前もこい!招いた客人に戦わせるわけにはいかない!」

「………もう遅いなっ!」


 視界の端………大通りにある店の屋根から飛び出した人影が、俺に向けてナイフを投擲する。それを右に跳んで回避し、地面に着地すると同時に拳を握る。


「点火」


 俺の中の炎が激しく燃え上がる。こんなところで戦いたくはなかったが、無抵抗のままにもいかない。そして………やはりと言うべきか、一人が現れたのを皮切りに複数の人影が姿を現し、更に通りすがりの冒険者だと思っていた奴らが武器を抜き始めた。

 こうなったら、ウェイン達も下手に逃げてルノジスや俺から離れるよりも、ここで騎士達と共にいる方が良いと判断したのだろう。去ろうとする足を止め、ウェインとスレイは男たちを睨みつけた。一般市民は騎士達の避難誘導で逃げ始めている。

 そして、現れた男たちの顔に見覚えのある仮面が付いているのを見て、俺はため息をついた。


「また来たのかよ。懲りねぇ奴らだな」

「………貴様。その力を持ちながら、咎を背負うか」


 一人の男が発した言葉に、俺は眉を上げる。それはルノジスも同じだったようで。俺はその男を見て呟く。


「………へぇ。どこまで知ってる?」

「………貴様に答える義理などない」


 咎の事はともかく、【その力】について何か知ってるようだ。そうなったら、黙って見逃すわけにもいかない。


「じゃあいいや。けど………前のお仲間みたいに、俺を退屈させないでくれよ?」

「貴様ッ!!」


 俺の言葉に、怒りを滲ませた叫びを上げながら走り出す男たち。ちょっと挑発しただけでこれかよ。四肢に炎を纏い、足から勢いよく放った炎で一瞬にして一人へと迫る。その速度に対応も出来ず、男は顔面に炎を纏った右腕を叩きこまれて吹き飛んだ。それに続いて向かってくる奴らの攻撃を躱しては殴り、蹴り、一撃で意識を奪っていく。やっぱり弱いな。

 とは言え、前の奴らよりは頭を使うようだ。俺が迫ってくる奴らを相手にしている間に、周囲からナイフが投擲される。ただ………


「悪いな」


 長剣を振った男の腕を掴み、炎が勢いを増してそのまま力ずくで振り回す。当然、そうなれば周囲から投げられたナイフはその男によって防がれる。………まぁ、その背中がどのようなことになっているかは言わなくても良いだろうけど。

 盾にした男を炎を纏った蹴りで吹き飛ばし、屋根の上からナイフを投擲しようとした男へ右手をかざす。


「―――」


 その男は、仮面の先に見える目を見開き………上半身が消滅する。いや、この場合は焼滅すると言った方が正しいか。放たれた熱線が、言葉を発するよりも早く男を射抜いたからだ。

 ルノジスさんも流石にこの状況だと俺に加勢するよりはウェイン達の護衛をしたほうが良いと判断したんだろう。


「ノイン様………頼みます」


 次から次へとやってくる奴らへの対処のため、返事は出来ないが無言で視線を向けた。それにルノジスが頷き、他の騎士達も連れてウェイン達の方へと向かう。そして、ルノジスが合流したことでようやくウェイン達は彼に連れられてここを去って行った。………ボーっとしていたのか、ウェインに怒鳴られるルーナの声が聞こえたが。


「さて」


 俺は彼らが離れたのを見て、周囲に魔力を放ち始めた。だが、奴らは魔力を感知する能力がないようだ。無警戒に次々と突っ込んでくる。

 既に………自らが死の中にいるのに気が付いていないんだろう。


「もう周りに人はいないしな」


 魔力がさらに広がる。一般市民や騎士も含め、ここには既に俺とこいつらだけだ。なら………


「………死んでもらうぞ」


 俺の瞳が炎を纏った。その直後、男たちの体が燃え上がる。前のような青い炎ではなく、身を焦がす紅蓮の炎。彼らは突然の事に絶叫を上げながら、炎に包まれ地をのたうち回る。数秒ほどで焦げ臭さが周囲に漂い始めると、彼らはピクリとも動かなくなって炎は消える………いや、燃える物が無くなったと言うべきだろう。残されたのは真っ黒な残骸のみだった。


「………避難誘導は早いみたいで助かったな。………制御できればいいんだけど」


 そう言いながら、魔力を放つのをやめる。そして、敵の気配が無くなったのを感じてゆっくりと俺の中の炎を鎮め始めた。

 周囲に俺の魔力を充満させ、その中の生物を無差別に発火させる。俺の魔力の残滓が余燼となっているという、あの山の話を聞いて思いついたものだった。

 まぁ、無差別と言うのがネックだが。もし他の人が居たらそっちまで燃えてしまう。だから、こうして人の避難が済むか、そもそも周囲に人がいない状態でしか使えない。


「あと、ほんとは殺すのはあんまり良くないんだよな。聞きたいこともあったし」


 何故【天焔】の事を知っているのか。それを聞きたかったが………刻まれている魔法があるらしいからな。どの道無駄だろうという思いが強い。どうした物かと思っていると………複数の足音が後方から迫ってきていた。


「ノイン様!ウェイン様達の避難………が」

「お疲れ様。こっちももう終わったぞ」


 地面に転げている白の裁徒だったものを見てルノジスが言葉を失う。焼死体に遺った仮面がそれらが何だったのかを理解せざるを得なかったんだろう。


「………何をしたんですか?」

「燃やしたよ」

「………左様ですか」


 それ以上は何も言わず、騎士に指示を始めたルノジス。恐らくは死体の処理だろう。そして、ルノジスが俺の方へと歩いて来た。


「………その、申し訳ございません」

「気にしないでいい。避難誘導が早かったおかげで、さっさと片付けれたし」

「ですが、ノイン様は客人で………」

「どっちにしろ、このしつこさなら俺の領地に居てもいずれ手を出してきたと思う。だったら、さっさと諦めさせた方がいいし」


 まぁ、これからずっとこんなのが続くなら勘弁だが。今日だけでも何十人倒したんだ?どこからこんだけ集まってんだろうな。


「………取り敢えず、こいつらの本拠地を叩きたいんだが、そういう噂とかないのか?」

「すみません。そうしたいのは山々なのですが………」

「そうか………これで懲りてくれればいいんだけどな」


 どうせ来るんだろうな。そんな確信を持ちつつ、ルノジスと共に城へと戻った。その途中、俺を見るルノジスの目に小さな不安が見えたのは、恐らく見間違いではないのだろう。







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