サイド ニコニコ笑顔のトニー
トニーは自分の家族が住む家に帰って来ていた。(私は今どうなっているんだ。)
トニーの心はそのままだった。
疲労も空腹も眠気も感じている。だが、気がついてから感情が顔に出ないし、口からは声も出せない、自由に動けない状況で一睡も寝ずに10日掛けて帝都に朝一に門に入り戻ってきた。(疲れた、喉が乾いた、腹も減った、寝たい)もう10日間ずっと考えていることを思いながら家の戸を開け中に入る。そこには、妻と子供二人が出迎えてくれた。
二人の子供が「「おかえり~!」」の声と共に笑顔で走り寄ってくる。そして、笑顔のままの頭部が宙を舞った。私から見える妻は何が起こったのかきょとんとしている。(何が起こった・・・)同様に心の中のわたしも理解が追い付かない。そして、混乱する私は悲鳴を聞いて現実に戻ってくる。
「きゃああああああああ、あなた何をっ!何をしてるのっ!何でっ!何をっ!がふっ」
そこまで言った妻の喉を何かが撫で切った。私が手で持っている布だった・・・。
(な、ななな何をっ!何をしているんだ!私の体で何をっ!)
ますます混乱する私を他所に悲鳴を聞きつけた近所の人達が家の戸を開いた。中を見た住人達が騒がしくなる。
「なっ!これは一体!トニーさんあなたの仕業か!?笑ってないで何があったのか言え!」
近所の顔見知りの住民が怒声を上げ聞いてくる。
(違うんだ!わたしは何もやっていない!勝手に身体が動いているんだっ!)いくら叫んでも私の言葉は口から出てこなかった。
「いい加減にしろっ!何でこの状況であんたは笑っていやがる!?ふざけてんのか!」
(笑っているわけがない!私の妻と子供達が目の前で殺されているのにっ!)だが空しくもすべての叫び、嘆きは虚空に消える。
「てめぇ!「ゴキャ」」
住民は胸倉を掴もうと近寄ると顔に布が張り付いて顔が横に一回転して崩れ落ちた。そして、「いやあああああああああ」叫び声が街中に木霊する。
身体が勝手に動き次々と近い相手から殺していく。手に持った布で空を撫でるだけで身体の部位が離れていく。(なんだこれは!やめてくれ!俺はこんなことしたくない!止まってくれ!)
街の衛兵が着いた頃には住宅街の道のそこら中に死体が散乱していた。その中で血濡れになっているトニーを見て知り合いなのだろう衛兵の一人から声を掛けられた。
「ト、トニーさん何を・・・」(逃げ・・・)
すでに布が衛兵の胸を突き抜けていた。
衛兵が着ている鎧も何も感じさせず身体と一緒に切れていく。そうこうしている間にますます衛兵の数が増え、そして、死体は増えていった。衛兵が来なくなり辺りから人がいなくなるとトニーは血濡れの姿で満面の笑みを浮かべたまま街の中心へと歩き出す。(やめてくれ!とめてくれ!誰か助けてくれ!)
中心街は貴族が多く住む区画だ。そこに現れる血濡れのトニー、怪しいわけがない。すぐに駐在している衛兵、貴族の雇っている私兵及び護衛など様々な者がトニーを襲う。中にはそれなりに強い者も居て切り傷や骨折を伴う打撃を与えた。だが、トニーは止まらない。表面上何も変わらず歩いて進んでいるが内面はそうではなかった。(イタイイタイイタイイタイイタイ)折れた骨が足を突き破っていようとも、皮膚がそがれて肉が直接空気に触れ激痛が伴おうとも、火の魔法を受けて爛れていようが関係なく満面の笑みを浮かべながら件の関係者を殺しながら進んでいく。軍本部に着いた時にはもう夕方だった。




