第九話「冒険者ギルド」
あ、みなさん、お久しぶりです。アレスです。
みなさんからは「お久しぶり」ではないのかもしれませんが、俺からしたらめちゃくちゃ久しぶりなのです。
なぜなら、あれから8年が経ちました。経ちすぎだろと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、子供の成長というのは早いものなのです。
……え? 全然説明になってない? ごめんなさい。
ともかく、俺は14歳になりました。
あの頃は上手く使えず死にかけた魔法も、今ではそこそこ上手く扱えるようになっています。水魔法、火魔法、土魔法、風魔法と、多種多様な属性をそれなりにこなせるようになりました。
剣も使えます。親父に勝てたことは一度もないんですけどね。それでも、一人前レベルには扱える自負があります。
エリカ姉さんとフィオラはというと、無事に学校を卒業して、現在は王都の大学の方に進学したそうです。
……あれから一度も帰ってきてくれていませんけどね!
まあ、年頃の女の子ですし、色々と忙しいのでしょう。仕方ありません。
向こうでは、姉さんとフィオラはとても仲良くやっていくようです。帰ってはきませんが、定期的に手紙が届きます。そこには王都での日常や、様々な出来事が綴られていました。
そして今日も今日とて、俺はリリィと遊びに行こうとしていたのですが——
「なぁアレス、ちょっと話があるんだがいいか?」
親父に呼び止められました。なんでしょう。
「どうしたの、父さん?」
「お前はそこらの冒険者より魔法が使えるし、剣の腕だって文句なしだ。このまま毎日遊び歩かれても困るんだが……将来、何かやりたいことはあるのか?」
「冒険者かな。ずっと前からやりたいと思ってたし」
「そうかぁ……なら、今日冒険者ギルドに行って、さっさと冒険者登録をしてくるか!」
「マジで!?」
「行くか?」
「行きます!!」
そんなこんなで、俺は今日から晴れて冒険者になることになりました。
「……えっと、なんでリリィちゃんまでついてきてるのかな?」
ギルドへ向かう道中、親父がジト目で尋ねる。
「アレスが冒険者になるなら、私も一緒に冒険者になるの!」
「いいんじゃないか?二人で一緒に頑張ろう、リリィ」
「うんっ!」
「……頼むから俺の前でイチャイチャしないでくれ。なんだか親として変な感情になるから……」
「し、してないですっ!」
「お、おう……そうか……」
なんやかんやと言い合いながら、村を出て大きめの街にある『冒険者ギルド』へと到着する。
扉を開けると、そこには強者感漂う荒くれ者から熟練の猛者まで、様々な冒険者たちで賑わっていた。
「ようロラン! また俺たちとパーティ組もうぜ? 昔みたいになぁ!」
「悪いが、今はもう組んでる奴らがいるんだ。それに今日は息子の付き添いなんでな」
「ちぇっ、そうかい。気が変わったら声かけろよな!」
「ロラン! そっちにいるのはお前の子か? かわいいじゃねぇか!」
「……親父って、めちゃくちゃ人気なんだな」
「まあな! 俺は最強のSランクだからな。俺と組みたがってる奴なんて五万といるんだぞ」
「へぇー」
適当に流すような返事をしてしまったが、これがハラボテのハタリではなく「マジ」なのが親父のすごいところだ。心の中ではちゃんと言い知れぬ尊敬を抱いています。
受付のカウンターへ辿り着くと、親父が案内役の女性職員に声をかけた。
「ちょっといいか? こいつらの冒険者登録をしてやりたくてな」
「あ、ロランさん! いつもお世話になっております。はい、冒険者登録ですね! では、お二人のお名前を教えていただけますか?」
「アレス・イーストレアです。で、こっちは——」
「リリィ・ジャネートです!」
(え、リリィの苗字ってジャネートっていうんだ……出会って10年目で初めて知ったぞ)
「はい、アレス様とリリィ様ですね。それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」
「えっと、これは何をするものなんですか?」
「これは、自分に適性がある職業を測定する魔道具だ。俺だったら『剣士』と出るな」
「なるほど……?」
促されるまま、俺は透明な水晶へとそっと手をかざした。
すると、水晶が怪しい光を放ち始め——受付の女性の表情が、見る見るうちに固まっていく。
「えぇっと……適性職業は——う、うわぁ… なんか、大量に出てますよ?」
(なんでちょっと嫌そうなんだよ)
「なんだそれ?」
「いや、私もこんなの見たことないんですけど……」
困惑する受付の女性が、水晶に浮き上がる文字を一つずつ読み上げていく。
「『魔法使い』に『剣士』、『魔剣士』に……『錬金術師』……?」
「ずいぶんと沢山出てきたな……。アレスは魔法も剣術も使えるからそこら辺は分かるが、最後の『錬金術師』なんてのは聞いたこともないな」
「ええ、私も聞いたことがありません……」
「いっぱい出てくるなんて、アレス君はすごいねっ!」
「いや、錬金術なんて使えないしな……。今は魔法メインで戦うつもりだから、無難に『魔法使い』で登録しておいてくれる?」
「は、はい! 承知いたしました、それで登録しておきますね。最初は全員『Fランク』からのスタートとなります。クエストは自分のランクより一つ上のEランクまで受注可能です」
「わかりました」
「つ、次は私の番だね……!」
ドキドキしながら、リリィも小さな手を水晶へと伸ばす。
一瞬だけ光が走り、すぐに消えた。
「えぇっと……適性職業は……『なし』、ですね……」
「えぇっ!?」
「大量の次が『なし』かよ!」
「戦闘に長けた適性が、一つも表示されないんです……」
「そ、そんなぁ……」
ガックリと肩を落とすリリィ。
「まあ、最初のFランクのクエストなら難しい戦闘なんてないしな。とりあえず今日は二人でパーティを組んで、一緒にやってみたらどうだ?」
「そ、そうですね……っ!」
「では、リリィ様も仮で『魔法使い』として処理しておきますね」
「はい!お願いします」
手続きが完了し、俺たち二人に光沢のある『冒険者カード』が手渡された。
カードにはそれぞれの名前と職業、そして『Fランク』の文字が刻まれている。
「クエストをたくさんこなして実績を積むと、ランクが上がっていきます! お二人とも、頑張ってくださいね!」
「クエストは、あそこにある大きな掲示板に紙がたくさん貼ってあるだろう? あそこから受けるんだ」
「貼ってある依頼書をお持ちいただければ、こちらで受注手続きをいたします」
「よし、アレス。危険な戦闘がないFランクのクエストを適当に探して来な」
「わかった。行こう、リリィ」
「うん!」
俺とリリィは、依頼書が所狭しと貼られた大きな掲示板の前に立った。
『裏庭の草むしり』や『薬草の採取』など、地味な作業系の依頼が並んでいる。
うーん、正直どれでもいいのだが、できれば単調な作業よりは少し楽しいものがいいな……。
「あ、アレス君! あれはどうかな?」
「ん? どれどれ……『青紫色の花を見つけて採取してくること』……?」
「これってさ、昔私たちが遊んでいるときに探した、あの花じゃないかな?」
「あぁ! あったな、そんなこと! あの時は山奥まで行きすぎて遭難しかけて、めちゃくちゃ焦ったっけ」
「あはは、懐かしいね! これを受けようよ!」
「よし、これにしよう!」
思い出深い依頼を見つけ、俺は掲示板からその依頼書をペリッと剥がして受付へと持って行った。
「お、そのクエストにするのか」
「おう、昔探したことがある花だから楽そうだしな」
そんな会話をしながら手続きを進めていた、その時だった。
——ババァンッ!!
ギルドの重厚な両開きドアが、けたたましい音を立てて勢いよく突き開けられた。
「た、大変だぁぁぁぁッ!!」
泥と血に塗れた一人の冒険者が、悲鳴のような大声を上げながら息も絶え絶えに飛び込んできたのだった——。




