↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/6

第四話 会いたい、と思った

翌日の昼。


アリシアは執務室で書類を整理していた。


一枚。


二枚。


三枚。


同じ書類を、三度読み直す。


「お嬢様?」


マリアが不思議そうに声をかけた。


「何?」


「先ほどから、その書類をずっと見ていますが」


「……少し考え事をしていたの」


「珍しいですね」


「そう?」


「はい」


マリアはアリシアの顔を見る。


そして。


「陛下のことでしょうか?」


「――っ」


アリシアの手が止まった。


「な、何を言っているの?」


「違いましたか?」


「違います」


「そうですか」


「ええ」


即答した。


けれど、マリアは少しだけ笑った。


「では、なぜ今から陛下の執務室へ向かわれるのですか?」


「……」


アリシアは立ち上がっていた。


自分でも気づいていなかった。


「これは……」


「はい」


「……相談があるの」


「何の?」


「ええと……」


アリシアは机の上を見る。


書類は山ほどある。


相談できる案件もいくらでもある。


けれど、今すぐ相談しなければならないほどのものはない。


「……」


マリアがにこにこと笑っている。


「何?」


「いえ」


「言いたいことがあるなら言って」


「お嬢様は、陛下に会いたいのですね」


「……!」


アリシアの頬が赤くなる。


「違います」


「はい」


「本当に違うの」


「はい」


「……」


「では、どうぞお気をつけて」


「……マリア」


「はい?」


「その顔、やめなさい」


「どんな顔でしょう?」


「楽しそうな顔」


マリアは笑った。


「申し訳ありません」


「……もういいわ」


アリシアは執務室を出た。


廊下を歩きながら。


自分に言い聞かせる。


――相談がある。


そう。


相談があるから会いに行く、それだけ。


なのに、足取りが軽い。


自分でも分かってしまう。


「……私、何をしているのかしら」


そして、国王執務室の前まで来た。


扉の前で立ち止まる。


「……」


ここまで来て、また少し迷う。


けれど、一度だけ深呼吸をすると。


コンコン。


扉を叩いた。


「誰だ?」


聞き慣れた声。


それだけで胸が少しだけ弾んだ。


「アリシアです」


一瞬、中が静かになる。


「入ってくれ」


扉を開ける。


レオナルトが顔を上げた。


「アリシア?」


「……お仕事中でしたか?」


「いや」


彼は手元の書類を閉じた。


「ちょうど休憩しようと思っていた」


「そうですか」


「どうした?」


「少し、ご相談が」


「何について?」


「……」


アリシアは持ってきた書類を差し出した。


「この予算案についてです」


レオナルトが受け取る。


「なるほど」


彼は書類に目を通す。


「確かに少し調整が必要だな」


「はい」


「君なら、もう答えは出しているんじゃないか?」


「……」


図星だった。


「出ています」


「なら、なぜ私に?」


「……」


言えない。


本当は、この人に会いたかった。


昨日、一緒に昼食を食べようと言った。


今日はその約束まで、まだ数時間ある。


それなのに待てなかった。


自分から会いに来てしまった。


「アリシア?」


「……」


レオナルトが心配そうに顔を覗き込む。


その距離に、心臓が跳ねる。


「何かあったのか?」


「いいえ」


「なら、どうした?」


アリシアは視線を逸らした。


「……会いたかったから」


「え?」


小さな声だった。


けれど、レオナルトには聞こえていた。


「今、何と言った?」


「……」


「アリシア」


「……会いたかったのです」


顔が熱い。


「あなたに」


レオナルトが黙り込む。


「それは」


レオナルトはゆっくり笑った。


「私に会いたくて来てくれた、ということか?」


「……はい」


恥ずかしい。


今すぐ逃げたい。


けれど、不思議と後悔はなかった。

むしろ、言ってしまったことで、胸が軽くなった。


レオナルトは立ち上がる。


「アリシア」


「はい」


「嬉しい」


その一言が、思っていた以上に嬉しかった。


「……そうですか」


「ああ」


「私も……」


アリシアは小さく笑った。


「会えて嬉しいです」


レオナルトは何も言わなかった。


ただ、とても嬉しそうに笑っていた。


◇◇◇


その日の午後。


二人は予定より少し早く昼食を取った。


アリシアが自分から誘ったのだ。


「今日は天気がいいですね」


「ああ」


「庭で食べませんか?」


「もちろん」


庭園の木陰に二人で並んで食事をする。


特別な料理ではない。


豪華な食事でもない。


ただの昼食。


それなのに、アリシアは楽しかった。


レオナルトが何を好んで食べるのか。


どんな紅茶が好きなのか。


休日には何をしているのか。


そんなことまで知りたくなった。


「レオナルト」


「ん?」


「好きな花は何ですか?」


「突然だな」


「……少し気になったので」


「そうだな」


レオナルトは庭を見回す。


「昔から白い花が好きだ」


「どうして?」


「派手ではないが、近くで見ると綺麗だから」


アリシアは小さく笑った。


「あなたらしいですね」


「そうか?」


「はい」


「君は?」


「私ですか?」


「好きな花」


アリシアは少し考えた。


そして。


「今は……」


目の前の白い花を見る。


「白い花、でしょうか」


「今は?」


「……秘密です」


レオナルトが笑った。


「また秘密か」


「はい」


二人の視線が重なる。


アリシアは先に目を逸らした。


けれど、その頬には笑みが浮かんでいた。


◇◇◇


その日の夕方、アリシアは自室へ戻った。


机の上には仕事が残っている。


けれど、なぜか手につかない。


今日一日のことを思い出してしまう。


「……会いに行ってしまった」


自分から。理由を作って。ただ会いたくて。


「……私、本当に……」


そこまで呟いて。


アリシアは口元を押さえた。


嬉しい。


今日、会えてよかった。


話せてよかった。


笑っている顔を見られてよかった。


そして、明日も会いたい。


「……」


そこまで考えて。


アリシアは完全に黙り込んだ。


「明日も……?」


自分の心に問いかける。


答えはすぐに返ってきた。


――会いたい。


「……困ったわ」


そう言いながら、アリシアは笑っていた。


もう、レオナルトが自分のところへ来てくれるのを待つだけではない。


自分から彼のところへ行きたい。


そう思うようになっていた。

良ければ下の☆マークをひとつでもおして評価してくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。