第24話 今度は倒しに来ました
キャラメルが木立から姿を現し、剣を抜いた。
竜の左眼が、その動きを追う。
竜はゆっくりと身体を向けた。首を低くし、前脚を踏み出す。
一歩。二歩。
三歩目で、巨体が一気に加速した。
キャラメルは左手を前に出した。
濃い茶色の盾が現れる。
巨大な前脚が振り下ろされた。
爪が盾にぶつかる。
キャラメルの足元で土が沈んだ。
盾の表面が柔らかくなり、爪を包み込む。
竜が脚を引こうとするが、引けない。
キャラメルが右足を踏み込み、踏ん張る。
その横を、ホールケーキが駆け抜けた。
両手で大剣を振り下ろす。
大剣が鱗を割り、硬い音が響いた。首の左側へ深く食い込む。
竜が吼えた。
竜の尾が大きく動く。
ホールケーキは剣を引き抜き、飛び退いた。
「キャンディさん!」
「はい!」
キャンディがロッドを振った。
赤い壁が斜めに立ち上がり、横薙ぎの尾を受ける。
壁は砕けたが、尾はホールケーキの横へ逸れた。
チョコレートがその隙に竜へ近づいていた。
右手に長い黒い槍を作り、ホールケーキが斬った傷へ突き立てる。
穂先が深く入った。
竜の首が跳ね上がる。
チョコレートは槍を手放し、竜から離れた。
傷口から血が流れ、左肩の鱗を濡らしていく。
「全員! 距離を取れ!」
キャラメルが叫んだ。
竜の巨体が、大きく沈んだ。
次の瞬間、地面が揺れた。
竜が前脚を振り回した。
盾に貼りついた脚が、キャラメルを引っ張る。
「ぐっ……!」
キャラメルの靴が土を削った。
竜がさらに身体をひねると、キャラメルの足が地面から離れた。
盾を握ったまま、引きずられる。
キャラメルは盾から手を放した。
濃い茶色の塊が竜の爪に残る。
キャラメルが横へ転がった直後、巨大な前脚が地面を叩いた。
土が跳ね上がる。
竜はそのまま身体を回転させた。
長い尾が、再び横へ走る。
キャンディが赤い壁を作った。
尾が壁を砕き、そのままロッドを弾いた。
キャンディの身体が浮き、後ろの木へ叩きつけられた。
「キャンディ!」
「大丈夫です!」
チョコレートが駆け出した。
その前に、竜の頭が下りてくる。
チョコレートは急停止し、横へ跳んだ。
牙が地面を抉った。
続けて前脚が振り下ろされる。
チョコレートが黒い剣を構えた瞬間、ホールケーキが背後から服を引いた。
爪が目の前を通り過ぎる。
木の根元で、キャンディが立ち上がった。
ロッドを両手で持ち直す。
竜が低く唸った。
「団長、正面に戻ってください!」
ホールケーキが剣を構えた。
「キャンディさん、一旦私のそばにいてください」
「分かりました!」
「チョコレートさんは左側から攻めてください」
「はい!」
キャラメルが竜の正面へ戻った。
左手に新しい盾を作る。
竜は傷ついた首を持ち上げ、キャラメルへ突き出した。
キャラメルが盾を斜めに構える。
牙が盾をかすめ、地面へ落ちた。
その隙に、チョコレートが左側へ走る。
黒い弾丸を三つ放った。
一つ目は鱗に弾かれた。
二つ目が、首の傷へ入る。
三つ目は竜が首を引き、外れた。
「キャンディさん、三秒後、竜の頭の右側に壁を出してください!」
「え、はい!」
キャンディがロッドを構えた。
ホールケーキが竜の右側へ回り込む。
キャラメルが一歩踏み込んだ。
竜が頭を下げ、牙を向ける。
その瞬間、キャンディがロッドを振った。
竜の頭の右側に、赤い壁が立ち上がる。
竜が身体を右へひねった。
巨大な頭が、壁にぶつかった。
壁は一撃で砕けたが、竜の頭が跳ね返り、前脚が大きく滑った。
ホールケーキの大剣が、竜の右肩へ振り下ろされる。
鱗が砕け、血が飛んだ。
竜が脚を踏み直す。
チョコレートが白い板を蹴り、首の横へ跳び上がった。
黒い剣を振り下ろす。
刃が傷口を広げた。
竜が頭を振る。
チョコレートは剣を消し、空中にもう一枚白い板を作った。
それを蹴って、巨体から離れる。
竜が前脚を振り下ろし、続けて尾を薙いだ。
キャンディは前脚をロッドで逸らし、キャラメルは尾を盾で受け流した。
二人が防いだところへ、ホールケーキの剣が入った。
その隙にチョコレートが竜の肩へ近づいた。
黒い短剣が生まれる。
鱗の隙間へ差し込む。
竜が身体をひねった。
チョコレートは短剣を消した。
竜の肩から離れると同時に、足元へ白い板を出す。
着地せずにもう一度跳んだ。
「チョコレートさん、離れ――」
ホールケーキの声が途切れた。
チョコレートは、すでに竜の前脚の外側へ抜けていた。
巨大な爪が、そのすぐ後ろを通る。
黒い弾丸が二つ飛び、傷ついた肩へ刺さった。
竜が脚を引く。
チョコレートは着地し、黒い剣を構えた。
竜が吼えた。
ホールケーキは口を閉じ、剣を構え直した。
キャラメルが前へ出る。
再び盾で竜の爪を受ける。
盾の縁から茶色の糸が伸び、脚に絡みついた。
竜が力任せに引いた。
「長くは止められん!」
「分かりました!」
チョコレートは竜の左側へ回る。
竜が首を振った。
チョコレートはしゃがみ、頭の下を抜けた。
黒い槍を作る。
穂先が首の傷に入る。
竜が身体を持ち上げた。
槍が折れた。
チョコレートはそのまま後ろへ跳び、足元へ白い板を出した。
着地した瞬間、板がしなって身体をもう一度前へ押し出した。
竜の爪が空を切る。
「キャンディ! 左の脚!」
「はい!」
竜が左前脚を踏み出しかけた瞬間、赤い飴が足首に絡みついた。
飴が地面に張りつき、脚が止まる。
竜の巨体が前につんのめった。
チョコレートは右手に黒い刃を作り、前脚の付け根へ踏み込んだ。
刃が鱗の間に入る。
竜が脚を引くより早く、チョコレートは剣を消した。
次の瞬間には、もう別の場所へ走っていた。
竜が吼え、再びチョコレートへ向き直る。
ホールケーキは、構えていた大剣を一度下ろした。
「キャンディさん。攻撃をお願いできますか?」
「はい。……上から思い切り殴ってもいいですか」
「上から。いいですね、それでいきましょう!」
ホールケーキは竜へ向き直った。
「チョコレートさん。そのまま竜を引きつけてください」
「はい!」
チョコレートが走り出す。
竜が首を巡らせ、チョコレートを追った。
キャンディはロッドを地面に突き立てた。
足元から太い飴の柱がせり上がる。
柱はキャンディを乗せたまま、竜の頭よりも高く伸びていった。
ホールケーキがキャラメルへ声をかける。
「団長、竜の後ろ脚へ糸をかけてください」
「承知した」
キャラメルが竜の後脚へ斬りかかった。
竜が脚を引く。その足首に、濃い茶色の糸が絡みついた。
糸の反対側は、竜の後方の地面に貼りついたキャラメルの塊へつながっている。
竜がチョコレートへ踏み込んだ。
糸が張った。
巨体が前につんのめる。
糸はすぐに千切れたが、竜は大きく体勢を崩した。
そこへ、ホールケーキが踏み込む。
大剣が竜の首を斬りつけた。
竜が吼え、頭を持ち上げる。
柱の上で、キャンディがロッドを両手で握り直した。
「ふう……」
一歩、踏み出す。
身体が宙に躍った。
ロッドを頭上へ振りかぶる。
落下するキャンディの下で、竜が顔を上げた。
巨大な飴のロッドが、その頭へ振り下ろされた。
凄まじい音が響いた。
竜の頭が地面に叩きつけられ、土が四方へ跳ね上がった。
キャンディは足元に飴の板を作り、それを砕きながら着地した。
竜が頭を持ち上げようとした。
キャンディのロッドが、再び振り下ろされる。
竜の頭が再び地面に落ちた。
チョコレートが首の右側へ回り込み、黒い刃を突き立てる。
反対側では、ホールケーキの大剣が傷口をさらに深く裂いた。
竜が暴れる。
糸が切れるたびに、キャラメルが新しい糸を張った。
頭が持ち上がるたびに、キャンディのロッドが叩きつけられた。
やがて、竜の動きが鈍くなり、動かなくなった。
キャラメルは糸を残したまま、剣を構えて竜の頭へ近づいた。
しばらく呼吸を確かめ、剣を下ろす。
「……討伐完了だ」
キャンディがロッドを下げた。
チョコレートは黒い剣を消した。
「やった……!」
キャンディが大きく息を吐いた。
「やりましたね、チョコレートさん!」
「うん!」
二人は顔を見合わせて笑った。
ホールケーキが大剣を鞘に収め、二人のそばへ歩いてきた。
「チョコレートさん。途中から、ずいぶん動きが変わりましたね」
「え、分かりました? なんか途中から、動きやすくなって」
ホールケーキはチョコレートのことを見つめる。
「……そうですか」
「全員、まずは怪我の確認だ」
キャラメルが声をかけた。
それから、北東の尾根へ向かって片腕を掲げる。
しばらくして、尾根の上で小さな人影が手を振り返した。
「スアマさんたちですね!」
キャンディも手を振った。
チョコレートは、地面に横たわる竜を見た。
「……これで、私たちのお仕事は終わり?」
「討伐は完了です。あとは東支部に竜を引き継いで、協会に報告すれば終わりですね」
「そっか」
チョコレートは、倒れた竜をもう一度見た。
「じゃあ、最後までちゃんとやらなきゃね!」




