第22話 王女殿下、ちょっと強すぎません?
詰所の裏手にある訓練場は、石壁に囲まれた砂地だった。
プラリネ、スアマ、カステラの三人は、会議が終わると先に帰っていた。
キャラメルは上着を脱ぎ、端に並ぶ木の杭に掛けた。それから細い布を四本持ってきた。
「君たち二人が組んで、私と殿下を相手にしてもらう」
「二対二ですね」
「ああ。左の二の腕に、この布を蝶結びで巻いてくれ。取られたら、その時点で退場。相手の二人の布を取ったチームの勝ちだ」
「分かりました」
「頭と首は狙うのを禁止にしよう。明後日に響く怪我は、誰もしないことが大前提だ」
キャンディは布を受け取り、チョコレートの左腕に巻いた。巻き終わると、今度は自分の左腕を差し出して待つ。
チョコレートは差し出された腕に布を巻いて、きゅっと結んだ。
ホールケーキも同じように布を巻いていた。裾の長い服のままだ。
「殿下、その格好でやるんですか?」
「ええ。慣れていますから」
ホールケーキはそう言って、裾を少しだけつまんでみせた。
砂地の端に、木剣が並べて立てかけてあった。短いものから、背丈ほどもあるものまで。
キャラメルは、片手で持てる長さのものを一本取った。握りを確かめて、右に下げる。
ホールケーキは、端の大きな剣の前で止まった。柄が長く、刀身も幅がある。
それを、当然のように両手で持ち上げた。
「大きくないですか、それ」
「一度当てれば十分ですから」
「……当たれば、ですよね」
「はい」
準備が整うと、四人は砂地の両端に分かれた。
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「始めよう」
キャラメルの合図と同時に、キャンディがロッドの先で砂を叩いた。
キャラメルとホールケーキの間に、赤い壁が立ち上がる。
「行きましょう!」
「うん!」
二人は揃ってキャラメルへ走った。
チョコレートの右手に黒い短棍が生まれる。
キャラメルは木剣を構え、左手に濃い茶色の盾を作った。
チョコレートが黒い弾丸を2発作り、放つ。
キャラメルは盾でそれを受け流す。
その隙にチョコレートが踏み込む。短棍を振ると、木剣がそれを受けた。
その横から、キャンディがロッドを振り下ろした。
キャラメルは盾を上げる。
鈍い音が響いた。盾が大きくたわみ、キャラメルの足が砂を擦った。
その隙に、チョコレートは短棍を引き、キャラメルの左側へ回り込んだ。
左腕の布へ手を伸ばす。
だが、盾の縁から濃い茶色の糸が伸びてきた。
チョコレートはとっさに腕を引く。指先を糸がかすめた。
キャンディがロッドを引こうとした。
抜けない。
盾の表面が、ロッドの先を包み込んでいた。
「二人がかりか。賢明だな」
キャラメルが盾を横へ引く。キャンディの身体が前に傾いた。
そこへ木剣が振られる。
キャンディが身を沈め、木剣をかわした。
チョコレートは再び左手を伸ばし、キャラメルの布の端をつかんだ。
キャラメルが盾を身体の前へ引き戻した。
ロッドごと引っ張られたキャンディが、チョコレートの目の前に飛び込んでくる。
「わっ!」
キャンディのロッドが勢いで盾から抜ける。
二人はまとめて砂の上を転がった。
二人が起き上がったとき、キャラメルはもう木剣を構え直していた。
左腕の布は、まだ残っていた。ただ、蝶結びの輪が片方だけ小さくなっている。
キャンディの周囲に、小さな飴玉が次々と浮かび上がった。
「行きます!」
飴玉が一斉に飛ぶ。
キャラメルは盾を広げた。飴玉が濃い茶色の表面に打ちつけられ、次々と砕けていく。
チョコレートはその横を走った。
足元に、白い板が現れる。
踏み込むと、板が大きくしなった。
チョコレートの身体が、盾の上へ跳ね上がる。
空中にもう一枚。
それを蹴って、キャラメルの背後へ回った。
目の前で、ホールケーキが、両手で木剣を構えていた。
「……え?」
チョコレートは咄嗟に身をひねった。
大きな木剣が、すぐ横を通り過ぎる。
かわした先で、キャラメルが振り向いた。
濃い茶色の盾が消える。空いた左手が、チョコレートの腕へ伸びた。
その横から、キャンディがロッドを振り下ろした。
キャラメルは盾を作り直して受け止める。
今度はロッドがくっつかなかった。盾には薄い飴の膜だけが残っている。
キャンディはロッドを引き、チョコレートの隣に並んだ。
向かいには、キャラメルとホールケーキ。
四人が再び構えた。
チョコレートがホールケーキへ短棍を振り下ろした。
ホールケーキは、ほんの少し肩を傾けた。
棍が、服のすぐ横を通り過ぎる。
チョコレートは手首を返し、横からもう一撃。
ホールケーキが半歩下がる。今度も届かない。
「キャンディ!」
「はい!」
ホールケーキの前に、赤い壁がせり上がった。
乾いた音が響く。
壁が砕け、赤い破片が砂に散った。
ホールケーキの木剣は、壁が現れる前から振られていた。
チョコレートの足が止まる。
ホールケーキが踏み込んだ。
大きな木剣が振り下ろされる。
チョコレートは右へ跳んだ。
木剣は、その右側へ斜めに落ちてきた。
チョコレートは空中に白い板を作り、それを蹴った。身体が大きく後ろへ跳ねる。
着地した足が砂を滑った。
キャンディがキャラメルへロッドを振り下ろす。
キャラメルは盾で受けた。ロッドは貼りつかず、盾に薄い飴の膜だけを残して抜けた。
キャンディがチョコレートの方へ踏み出した。
その先では、ホールケーキがすでに大きな木剣を振り下ろし始めていた。
キャンディはとっさにロッドを頭上に掲げた。
キャラメルが盾を消し、キャンディの背後へ迫る。
チョコレートが空中に白い足場を作り、それを蹴った。
ホールケーキの背後へ飛び込む。
ホールケーキは、振り下ろしていた木剣から両手を放した。
木剣がキャンディのロッドにぶつかり、砂の上に落ちる。
チョコレートの左手が、ホールケーキの布をつかんだ。
同時に、ホールケーキの右手が後ろへ伸びた。
振り返りもしない。
二本の布が、同時にほどけた。
キャンディの左腕からも、布が消えていた。
背後に立つキャラメルが、その布を手にしている。
四人の動きが止まった。
腕に布を残しているのは、キャラメルだけだった。
「終わりだな」
キャラメルが木剣を下ろした。
チョコレートは手の中の布を見た。ホールケーキのものだった。
「……取れたのに」
「ふふ。相打ちですね」
ホールケーキはチョコレートの布を差し出した。
「交換しましょうか」
「……はい」
二人は布を交換した。
キャンディが服についた砂を払っている。
「団長、どうでしたか」
キャラメルはキャンディを見た。
「途中から、ロッドが盾に貼りつかなくなったな」
「はい。一度捕まったので、表面だけ剥がせるようにしました」
「あれはよかったな。対応が早い」
キャラメルは自分の左腕に残った布を指でつまんだ。蝶結びの片方の輪が、小さくなっていた。
「チョコレートも、惜しかったな」
「あ、それ。あとちょっとだったんですよ」
「ああ。二人の連携はなかなか厄介だった」
チョコレートは少し笑った。
キャンディがホールケーキの方を向いた。
「殿下は、どうでしたか?」
「とても楽しかったです。お二人とも、思いがけない動きをなさるので」
「でも、全部分かってたみたいでしたよ」
ホールケーキは少し首をかしげた。
「そうですか? 私も、思ったよりずっと大変だったんですよ」
「そうは見えなかったけど」
「ふふ。そうでしたか」
チョコレートはキャラメルを見た。
「また機会があれば、勝ちます」
「それは楽しみだな」
キャラメルは上着を杭から取った。
「まずは明後日、全員無事に帰ってからだ」




