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チョコレートはお菓子な世界の仕様を知りたい ~一万年前の文明が残したのは、便利なインフラと厄介な災害でした~  作者: 木陰よもぎ
新人請負人編

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22/27

第22話 王女殿下、ちょっと強すぎません?

詰所の裏手にある訓練場は、石壁に囲まれた砂地だった。


プラリネ、スアマ、カステラの三人は、会議が終わると先に帰っていた。


キャラメルは上着を脱ぎ、端に並ぶ木の杭に掛けた。それから細い布を四本持ってきた。


「君たち二人が組んで、私と殿下を相手にしてもらう」

「二対二ですね」

「ああ。左の二の腕に、この布を蝶結びで巻いてくれ。取られたら、その時点で退場。相手の二人の布を取ったチームの勝ちだ」

「分かりました」

「頭と首は狙うのを禁止にしよう。明後日に響く怪我は、誰もしないことが大前提だ」


キャンディは布を受け取り、チョコレートの左腕に巻いた。巻き終わると、今度は自分の左腕を差し出して待つ。


チョコレートは差し出された腕に布を巻いて、きゅっと結んだ。


ホールケーキも同じように布を巻いていた。裾の長い服のままだ。


「殿下、その格好でやるんですか?」

「ええ。慣れていますから」


ホールケーキはそう言って、裾を少しだけつまんでみせた。


砂地の端に、木剣が並べて立てかけてあった。短いものから、背丈ほどもあるものまで。


キャラメルは、片手で持てる長さのものを一本取った。握りを確かめて、右に下げる。


ホールケーキは、端の大きな剣の前で止まった。柄が長く、刀身も幅がある。


それを、当然のように両手で持ち上げた。


「大きくないですか、それ」

「一度当てれば十分ですから」

「……当たれば、ですよね」

「はい」


準備が整うと、四人は砂地の両端に分かれた。


---


「始めよう」


キャラメルの合図と同時に、キャンディがロッドの先で砂を叩いた。


キャラメルとホールケーキの間に、赤い壁が立ち上がる。


「行きましょう!」

「うん!」


二人は揃ってキャラメルへ走った。


チョコレートの右手に黒い短棍が生まれる。


キャラメルは木剣を構え、左手に濃い茶色の盾を作った。


チョコレートが黒い弾丸を2発作り、放つ。


キャラメルは盾でそれを受け流す。


その隙にチョコレートが踏み込む。短棍を振ると、木剣がそれを受けた。


その横から、キャンディがロッドを振り下ろした。


キャラメルは盾を上げる。


鈍い音が響いた。盾が大きくたわみ、キャラメルの足が砂を擦った。


その隙に、チョコレートは短棍を引き、キャラメルの左側へ回り込んだ。


左腕の布へ手を伸ばす。


だが、盾の縁から濃い茶色の糸が伸びてきた。


チョコレートはとっさに腕を引く。指先を糸がかすめた。


キャンディがロッドを引こうとした。


抜けない。


盾の表面が、ロッドの先を包み込んでいた。


「二人がかりか。賢明だな」


キャラメルが盾を横へ引く。キャンディの身体が前に傾いた。


そこへ木剣が振られる。


キャンディが身を沈め、木剣をかわした。


チョコレートは再び左手を伸ばし、キャラメルの布の端をつかんだ。


キャラメルが盾を身体の前へ引き戻した。


ロッドごと引っ張られたキャンディが、チョコレートの目の前に飛び込んでくる。


「わっ!」


キャンディのロッドが勢いで盾から抜ける。


二人はまとめて砂の上を転がった。


二人が起き上がったとき、キャラメルはもう木剣を構え直していた。


左腕の布は、まだ残っていた。ただ、蝶結びの輪が片方だけ小さくなっている。


キャンディの周囲に、小さな飴玉が次々と浮かび上がった。


「行きます!」


飴玉が一斉に飛ぶ。


キャラメルは盾を広げた。飴玉が濃い茶色の表面に打ちつけられ、次々と砕けていく。


チョコレートはその横を走った。


足元に、白い板が現れる。


踏み込むと、板が大きくしなった。


チョコレートの身体が、盾の上へ跳ね上がる。


空中にもう一枚。


それを蹴って、キャラメルの背後へ回った。


目の前で、ホールケーキが、両手で木剣を構えていた。


「……え?」


チョコレートは咄嗟に身をひねった。


大きな木剣が、すぐ横を通り過ぎる。


かわした先で、キャラメルが振り向いた。


濃い茶色の盾が消える。空いた左手が、チョコレートの腕へ伸びた。


その横から、キャンディがロッドを振り下ろした。


キャラメルは盾を作り直して受け止める。


今度はロッドがくっつかなかった。盾には薄い飴の膜だけが残っている。


キャンディはロッドを引き、チョコレートの隣に並んだ。


向かいには、キャラメルとホールケーキ。


四人が再び構えた。


チョコレートがホールケーキへ短棍を振り下ろした。


ホールケーキは、ほんの少し肩を傾けた。


棍が、服のすぐ横を通り過ぎる。


チョコレートは手首を返し、横からもう一撃。


ホールケーキが半歩下がる。今度も届かない。


「キャンディ!」

「はい!」


ホールケーキの前に、赤い壁がせり上がった。


乾いた音が響く。


壁が砕け、赤い破片が砂に散った。


ホールケーキの木剣は、壁が現れる前から振られていた。


チョコレートの足が止まる。


ホールケーキが踏み込んだ。


大きな木剣が振り下ろされる。


チョコレートは右へ跳んだ。


木剣は、その右側へ斜めに落ちてきた。


チョコレートは空中に白い板を作り、それを蹴った。身体が大きく後ろへ跳ねる。


着地した足が砂を滑った。


キャンディがキャラメルへロッドを振り下ろす。


キャラメルは盾で受けた。ロッドは貼りつかず、盾に薄い飴の膜だけを残して抜けた。


キャンディがチョコレートの方へ踏み出した。


その先では、ホールケーキがすでに大きな木剣を振り下ろし始めていた。


キャンディはとっさにロッドを頭上に掲げた。


キャラメルが盾を消し、キャンディの背後へ迫る。


チョコレートが空中に白い足場を作り、それを蹴った。


ホールケーキの背後へ飛び込む。


ホールケーキは、振り下ろしていた木剣から両手を放した。


木剣がキャンディのロッドにぶつかり、砂の上に落ちる。


チョコレートの左手が、ホールケーキの布をつかんだ。


同時に、ホールケーキの右手が後ろへ伸びた。


振り返りもしない。


二本の布が、同時にほどけた。


キャンディの左腕からも、布が消えていた。


背後に立つキャラメルが、その布を手にしている。


四人の動きが止まった。


腕に布を残しているのは、キャラメルだけだった。


「終わりだな」


キャラメルが木剣を下ろした。


チョコレートは手の中の布を見た。ホールケーキのものだった。


「……取れたのに」

「ふふ。相打ちですね」


ホールケーキはチョコレートの布を差し出した。


「交換しましょうか」

「……はい」


二人は布を交換した。


キャンディが服についた砂を払っている。


「団長、どうでしたか」


キャラメルはキャンディを見た。


「途中から、ロッドが盾に貼りつかなくなったな」

「はい。一度捕まったので、表面だけ剥がせるようにしました」

「あれはよかったな。対応が早い」


キャラメルは自分の左腕に残った布を指でつまんだ。蝶結びの片方の輪が、小さくなっていた。


「チョコレートも、惜しかったな」

「あ、それ。あとちょっとだったんですよ」

「ああ。二人の連携はなかなか厄介だった」


チョコレートは少し笑った。


キャンディがホールケーキの方を向いた。


「殿下は、どうでしたか?」

「とても楽しかったです。お二人とも、思いがけない動きをなさるので」

「でも、全部分かってたみたいでしたよ」


ホールケーキは少し首をかしげた。


「そうですか? 私も、思ったよりずっと大変だったんですよ」

「そうは見えなかったけど」

「ふふ。そうでしたか」


チョコレートはキャラメルを見た。


「また機会があれば、勝ちます」

「それは楽しみだな」


キャラメルは上着を杭から取った。


「まずは明後日、全員無事に帰ってからだ」

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