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チョコレートはお菓子な世界の仕様を知りたい ~一万年前の文明が残したのは、便利なインフラと厄介な災害でした~  作者: 木陰よもぎ
新人請負人編

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12/27

第12話 本物です。再発行は有料です。

「お二人とも、本日付で本登録となります」


フィナンシェは、カウンターに二枚の登録証を並べた。


大きさも、硬い厚紙でできているところも、仮登録証とほとんど変わらない。


ただ、手書きだった菓名と日付が、今度は最初からきれいに印刷されている。


表のどこにも、「仮登録」の文字はなかった。


チョコレートは自分の登録証を手に取った。


「……本物だ」

「本物です。なくすと再発行に手数料がかかります」

「なくしません」


チョコレートは腰のポーチから、三十日前にもらった登録証のケースを取り出した。


新しい登録証を差し込んでから、ケースを裏返す。


「そういえば、これって結構いいやつですか?」

「ケースですか?」

「はい。三十日ずっと使ってたけど、全然へたらないので、すこし気に入りました」

「長く使うものなので、丈夫には作ってあります」

「じゃあ、このまま使います」

「どうぞ」


隣では、キャンディも自分の登録証をケースへ丁寧に収めていた。


「ありがとうございます」

「こちらこそ。三十日、お疲れさまでした」


フィナンシェはそこで台帳を一枚めくった。


「それで、早速ですが。お二人に指名の依頼が来ています」


---


研究院の門の前で、ジャムが待っていた。


今日は上着の上から、肩掛けの鞄を二つも提げている。髪は相変わらず、まとめた先が飛び出していた。


「本登録、おめでとうございます」

「知ってるんですか?」

「協会に依頼を出したら、ちょうど今日からだと。最初の仕事がうちでいいのか、少し迷いましたけど」


キャンディが少し驚いたように笑った。


「王立研究院からご指名いただけるなんて、むしろ光栄です!」

「私も。またあの研究を見られるなら、うれしいです」


ジャムは二人を見て微笑んだ。


「そう言ってもらえると助かります」


依頼票には、王都東部の古代遺跡周辺にいるモンスターの掃討と、安全確認とあった。


詳しい話は、歩きながらジャムから聞いた。


「三日後に、研究院の調査隊が入る予定なんです。入口までは確認できてるんですけど、周りにモンスターが残っていて」

「だから先に片づけておくんですね」

「調査隊は戦えない人ばかりなので。私も含めて」

「今日はジャムさんも来るんですか?」

「下見だけしておきたくて。お二人の後ろを、邪魔にならないように歩きます」


---


東門を出て、菓車の通らない細い道を一時間ほど歩いた。


最初に出たのは、ゼリースライムの群れだった。道の脇の湿った草地に、半透明の塊が七つ、八つ。


「キャンディ、道のこっち側」

「はい。囲います」


キャンディのロッドが動いた。草地の縁に飴色の壁が立ち上がり、散りかけた群れの端を内側へ押し戻す。スライムたちが一か所に寄った。


チョコレートは寄ったところへ、黒い刃を一本通した。


ジャムが後ろで、鞄の紐を握ったまま瞬きをしていた。


---


遺跡は、丘の裾にあった。


崩れた石壁が、草に半分埋もれて続いている。石壁と言っても、ところどころ、石にしてはなめらかすぎる灰色が混じっていた。この前運んだ塊と同じ色だった。


入口らしい穴の前に、クッキーゴーレムが二体座り込んでいた。


チョコレートは足を止めた。


「二体」

「前のより小さいですね」

「うん」

「右を止めます」

「じゃあ左」


キャンディが右の一体の足元に壁を立てた。立ち上がりかけたゴーレムが、壁に足を取られて前に傾く。


チョコレートは左の一体へ走った。振り下ろされた腕の内側に入り、関節の継ぎ目へ刃を入れる。継ぎ目が弱いのは、前に戦ったときに覚えた。


腕が落ちる。続けて首の付け根。ゴーレムが崩れた。


振り返ると、右の一体は壁と壁の間で身動きが取れなくなっていた。チョコレートは同じ場所へ、同じように刃を入れた。


---


遺跡の周りをひと回りして、残っていたスライムを片づけた。入口の奥は、ジャムが持ってきた明かりで少しだけ照らした。中には入らない約束だった。


石壁の陰に腰を下ろして、三人で水を飲んだ。


「この遺跡、何なんですか」


キャンディが聞いた。


ジャムは水筒を膝に置いた。


「たぶん、建設用の機械を保管していた施設です」

「ふーん。機械って歯車ですか?」

「いや……ええと……」


ジャムが言葉に詰まった。


「なんて言ったら伝わりますかね」

「?」

「歯車が入っているものもあります。でも、入っていないものもあって……」

「じゃあ何で動くんですか?」

「それが分からないものもあります」

「分からないんですね」

「はい」


ジャムは少し考えてから続けた。


「……お二人、古代文明って、どれくらい聞いたことあります?」

「あんまり知らないかな。そういえば、前に街灯も古代の技術なのかなって話したよね」

「ええ。でも、結局分からないままでしたね」

「なるほど。じゃあ、少しだけ」


ジャムは灰色の石壁を指で軽く叩いた。


「一万年くらい前、この世界には、今の私たちよりずっと進んだ文明がありました」

「一万年前?」

「はい」

「今より進んだ文明だったのに、滅びたんですか?」

「そうです」


ジャムは少し考えた。


「王都の街灯は古代文明の技術を使っていますが、元になった古代の照明設備には、一万年前に作られて、今も動いているものがあります」

「……一万年?」

「私たちは、同じものを一から作れません」


チョコレートは灰色の壁を見た。


「古代文明に何があったんですか?」

「それが分からないんです」


ジャムはそこで少し間を置いた。


「それを解明しない限り、私たちが同じように滅びないとは言えません」


キャンディが水筒を握ったまま、黙った。


「だから、研究院で一番大きな目標は、それを突き止めることなんです。私が生きているうちに届くかは、分かりませんけど」


チョコレートは、しばらく石壁の灰色を見ていた。


「……ずいぶん大きい話ですね」

「大きいですよ」


ジャムはあっさり認めて笑った。


「昔は三人で、同じことを研究してたんですけどね。子どもの頃から、ずっとこういう話ばっかりしてました」

「三人?」

「はい。今は、それぞれ別のところを掘ってます。研究って、だんだん細かくなるので」


ジャムは水筒の蓋を閉めた。それ以上は言わなかった。


---


丘の上の方で、草が揺れた。


チョコレートは顔を上げる。


ゼリースライムが三体。横に広がりながら、斜面をこちらへ下りてきている。


「スライム、三体。まだいたね」

「さっき、上までは見てませんでしたね」


キャンディが立ち上がって、ロッドを取った。


ジャムが慌てて鞄を抱える。


「あの、私、どこにいれば」

「そこの壁の後ろで大丈夫です」


チョコレートも膝の土を払って立ち上がった。


一度だけ、背後の灰色の壁を見る。


それから、丘を下りてくる三体へ向き直った。


「じゃあ、残りを片づけようか」


チョコレートは丘の斜面を駆け上がった。

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