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転生したら猫と宿屋を始めることになりました!?  作者: らぐ・ど
第1章 異世界への転生

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第5話 精霊の森へ

 昼を少し過ぎた頃。

 旅人の灯火宿の扉が開いた。


「こんにちは。こちらの宿は、空いていますか?」


 入ってきたのは、一人の女性だった。

 年齢は二十代半ばほど。

 肩まで伸びた淡い緑色の髪に、穏やかな印象の顔立ち。

 瞳は少し大きく、柔らかな緑色をしている。

 身につけているのは、旅をするための動きやすい服装。

 その上から、薬草を扱う者らしい薄茶色のローブを羽織っている。

 ローブの腰にはいくつもの小さな袋が吊るされており、中には乾燥させた薬草や調合に使う道具が入っているようだった。

 腰には小さな革製のポーチもあり、薬草をすり潰すための器具や、何種類かの小瓶が覗いている。

 そして背中には、大きな荷物を背負っていた。

 薬草を採るための道具や調合器具が入っているのか、普通の旅人よりもかなり重そうだ。


「はい。空いておりますよ」


 ロイはカウンターから立ち上がった。


「一泊でよろしいでしょうか?」


「はい。お願いします」


「では、こちらにお名前をお願いします」


「ルイです」


 ルイは受付を済ませると、大きな荷物を床へ下ろした。


「……重そうですね」


「はい。必要なものを色々持ってきたら、こんなことになってしまって」


「旅は荷物が増えますからね」


「そうなんです」


 ルイは苦笑した。

 そのとき、奥から冬が歩いてきた。


「にゃあ」


「猫……!」


 ルイの表情が明るくなる。


「かわいい……」


 ルイがしゃがみ込み、冬の頭をそっと撫でる。


「にゃあ」


 冬は逃げることもなく、その場で目を細めた。


「人懐っこいですね」


「そうですね。宿のお客さんにもよく撫でてもらっています」


「こんなに可愛い猫がいる宿なら、ゆっくり休めそうです」


「ありがとうございます」


 ロイが微笑む。


 すると、ルイが何かを思い出したように口を開いた。


「あの、ロイさん」


「はい」


「少しお聞きしたいことがあるのですが……」


「何でしょうか?」


「この近くに、精霊の森がありますよね?」


「はい。ありますよ」


「そこにしか生えていない薬草を採りに行きたいんです」


「薬草ですか?」


「はい。ポーションを作るために必要なんです」


 ルイは少し困ったような顔をした。


「ただ……一人で行くのが少し不安でして」


「森が危険だからですか?」


「それもあります」


「それも?」


「私、かなりの方向音痴なんです」


「……かなり、ですか?」


「はい」


 ルイは真剣な顔で頷いた。


「以前、森に入ったら、帰り道が分からなくなってしまって……」


「それは大変ですね」


「なので、できれば誰かに案内していただきたいのですが……」


 ロイは少し考えた。

 精霊の森は宿からそう遠くない。

 ロイの記憶では、これまでにも何度か訪れたことのある場所だった。


「それでしたら、私がご案内しましょうか?」


「本当ですか?」


「はい。私も森には慣れていますので」


「ありがとうございます!」


 ルイがほっとしたように笑った。


「明日の朝からでも大丈夫でしょうか?」


「はい。問題ありません」


「助かります」


 その横で、冬がルイの足元へ近づく。


「冬も一緒に行きますか?」


「にゃあ」


「どうやら行くみたいですね」


 ロイが笑う。


⸻


 翌朝。

 三人は精霊の森へ向かっていた。


「ロイさん、この道で合ってますか?」


「はい。合っていますよ」


「よかった……」


「まだ森に入ってすらいませんけどね」


「……」


 ルイが少し恥ずかしそうに俯いた。


「すみません」


「いえ。お気になさらず」


 ロイは苦笑する。

 森へ入ると、辺りは一気に静かになった。

 木々の間から差し込む光。

 遠くから聞こえる鳥の声。

 足元には見慣れない草花が生えている。


「この辺りです」


 ルイがしゃがみ込む。


「この薬草です」


「これですか?」


「はい」


 ルイは慎重に薬草を採っていく。

 ロイは少し離れたところで周囲を見回していた。


 そのときだった。


「冬?」


 冬が茂みの奥へ入っていく。


「何か見つけたんでしょうか?」


「少し見てきます」


 ロイが冬の後を追う。

 茂みの奥。

 そこには、一つの卵があった。


「……卵?」


 普通の鳥の卵よりも大きい。

 表面には、見たことのない模様が浮かんでいる。

 冬はその卵の横に座り、じっと見つめていた。


「これは……何でしょう?」


 ルイも近づいてくる。


「分かりません」


 ロイが卵を見つめる。


「鳥の卵にしては大きすぎますね」


「そうですね……」


 冬が鼻先を卵へ近づける。

 そして。

 コトッ。

 卵がほんの少しだけ動いた。


「……今、動きませんでした?」


 ルイが目を見開く。


「……動きましたね」


 二人は卵を見つめる。

 だが、それ以上は何も起きない。

 冬だけが卵の隣から離れようとしなかった。

 ロイはしばらく考えたあと、卵をそっと持ち上げた。


「……持って帰りましょうか」


「いいんですか?」


「このまま森に置いておくのも気になりますから」


 ルイが頷く。


「そうですね」


 ロイは卵を大事に抱える。

 冬はその横を歩きながら、何度も卵を振り返っていた。

 こうして、一行は森を後にした。

 まだ誰も知らなかった。

 その卵が、これから宿に小さな変化をもたらすことを。

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