「90話」
それから30分後。
「不躾に神域へ足を踏み入れたましたこと、お許しくださりませ……某、長尾信濃守の臣、山吉孫次郎と申します」
「御子神です」
一人のおっちゃんが平伏する姿を前に、内心動揺しまくりな俺がいた。
いやどう見ても頭にヤの付く職業みたいな人なんよ。
遊佐さんと二人で我が家に来た時にゃ神様パワーが切れたのかと焦りまくったねえ!
まあ、遊佐さんから事情を聞いて、神様パワーは切れてないってのは分かったんだけどさ。
どうもこの人以外は門を潜れなかった……というとちょっと語弊があるか。
このヤーさんが門をくぐって、後に他の人も続いたんだけどね。
どうも一人目から引っ掛かったらしく、皆の前でフッて姿が消えたもんでそれはもう大パニックに陥ったそうな。
しかもねー結構な騒ぎになって人が集まっていたから、住民も集まってたんだよね。
そんな状態で引っ掛かったもんだから、御子神様を害するつもりか貴様ら、ぶち殺すぞって感じでそれはもう大変なことになったんだって。
ちなみに俺は飲み物用意したり、茶菓子用意したりしていたのでその場面はみていない。
全部遊佐さんから聞いた情報である。
んで、結局遊佐さんが使者を殺すとまじでまずいから、この人は無事はいれたから大丈夫、残りはここに残って貰うからと説得して……今に至る。
一向宗の怖さが何となく分かってしまって悲しい。
まあ、とりあえずこの山吉さんの相手をせねば。
氷も入れてキンキンに冷えた麦茶とどら焼きをくらうがよい。
「この暑い中、外で待っていたのは大変でしたでしょう。冷えた飲み物を用意しましたのでまずは喉の渇きを潤してくださいな」
「かたじけなく」
「……うまいっ」
現代の地獄のような暑さほどじゃないけど、まあ夏はそれなりに暑いからね。
そん中ずっと外に居たんだから喉は乾いているだろう。
一気に飲み干すと、お代わりを要求してきた。
遊佐さんが。なんでだよ。
ちなみに山吉さんは氷をみて固まってる。
この時代で夏に氷なんざそうそう口にすることはないだろうからね、そら驚くのは分かる。
遊佐さんが慣れすぎておかしくなっているだけなのだ。
「それで……越後から遠路はるばる我が境内へ訪れた理由をお聞きしても?」
挨拶したい云々は聞こえていたけどさ。
なんで挨拶にしにきたのかさっぱり分からないのだ。
遊佐さんから聞いた情報も国境の様子を見に行ったってぐらいで、後は予想だしねえ。
本人に聞いてみないとなのだ。
「なるほど……大体分かりました」
なんか門での出来事がよほど衝撃的だったのか、すっごいあっさり喋ってくれた。
隠し事とか一切なにもない感じで、俺がそこまで正直話していいんかと逆に心配になるくらいだ。
山吉さんの話をまとめると、まず一向一揆の様子をみに国境近くまで行ったのは義総様も言った通りだった。
その後に俺の噂や今浜から行き来する人の姿をみて、こっちに挨拶にきたのも予想通り。
で、問題は噂の中身でね。
曰く、今浜から山に向かうとやがて小さな村がある。そこの近くの山に大神が顕現したとか。
顕現した神が奇跡を起こし山を瞬く間に広大な田んぼに変え、民に特別な苗を恵んでくださった。その苗を植えると恐ろしい速さで育ち、大量の米へと変わった。
最近では民のためにと恐ろしく使い勝手の良い農具をつくり与えてくださった。
透き通る神酒をつくり、作り方を授けてくださった。
などなど。
なんか凄いことしてそうだねその人。
「まず私は神ではありません」
諸問題をとりあえず脳筋ごり押しで解決するような奴を神様呼ばわりしちゃいけません。
「そのほかの噂は……誇張されてはいますが、概ねあっていますとだけ」
嘘ではないんだよねえ。
そのうちやってないことすら噂になりそうで怖いけれど……さすがにそうなったら誤解を解くようにしないとだ。
噂って広まるの早いから誤解を解きようがないかもだけどねえ!
俺の言葉を聞いた山吉さんは、何やら深刻な顔で悩んでいる様子。
でも今の内容で悩むようなことあったか……?
「御子神様……御子神殿。我らの田を山吉殿に見せては如何ですかな」
一瞬ちべすなの目でみつめると、様から殿呼びに戻った。
遊佐さんに様付けで呼ばれるのはなんかねー、慣れないというか違和感があるのだ。
そんで山吉さんに田んぼを見せると?
別に俺としては遊佐さんが見せると判断するならそれで構わんのだけどねー。
ふむん。
俺の噂をどこまで信じて良いか悩んでいて、次の話を切り出せないでいる……とか?
そんで遊佐さんが助け舟だした感じだろうか。
まあ、とにかくみに行こうかね。
家をで、城壁にある門をくぐれば田んぼはすぐそこだ。
ささっと行って見てくるとしようかねえ。
「これは……」
「ここまでが神域です。ここを一歩踏み出すと……感じますかな?」
「これはっ……!?」
今俺たちがいるのは、広がった例の領域の端である。
一歩踏み出せば領域から外れる、そんな場所で山吉さんは田んぼをみて絶句していた。
そして俺も内心驚きまくっていた。
なにせ例の領域を境にして、あからさまに稲の育ち具合が違うのだ。
領域内は青々として太くて丈夫な稲。そとは色もちょっと薄いし、稲も細い……強い風が吹いたら倒れてしまうんじゃないか? そんな見た目をしているのだ。
まあ言うて肥料は変えているし、塩水選だってやっているだろうから他とくらべたら稲の状態は大分良いとは思うけどねえ。見比べるとどうしてもそう感じてしまう。
「一向宗の対策として、長尾家との同盟をより強固にしたいと考えておるようでしてな。そのためには長尾家の地盤を強固とし、内ではなく外に意識を向けて貰いたいと……そのためにある程度情報を開示しても構わないと」
「ふむん」
固まっている山吉さんから少し距離をとり、遊佐さんが小声でそんなことを伝えてきた。
なっるほどねえ。長尾家ってようは未来の上杉だよね? 正確には違うかもだけど、上杉謙信が長尾為景? の子供だったはず……うろ覚えすぎるな。能登畠山以外もきっちり調べておかないとだねえ。
ま、それは後で考えよう。とにかく未来の上杉謙信の父親なんでしょ? それなら戦とかも強いはず。一向宗の対策としてってのは俺としては納得のいく考えである。
「……お米関係と治水、金山あたりかな? これだけで相当変わると思いますよ。お酒は米が安定して採れるようになってからかなー」
治水頑張れば米どころになるもんね。
コシヒカリとか量産して貰わねばだ。
で、治水に開墾とお金掛かるだろうから、佐渡の金山があればなんとかなるんじゃないかなーって思ったのだ。
長尾家以外が治めてそうな気はするけど、そこは何とかして貰うっきゃない。
てかお酒って言ったあたりで山吉の耳がぴくりと動いたような?
気のせいかな。 視線は田んぼに向いたまま動いてないし、気のせいってことにしておこう。
あと他に何かあるかな……?
あー……いざ一向一揆が何か仕掛けてきたら、すぐ援軍にきて欲しいよね。
確か陸路で移動すると滅茶苦茶難所があるんだよな。
たしか……親不知子不知だったかな。そのうち通ってみたいなーって思っていたから名前はなんとなく憶えている。
陸路をさけるとなる海路だよね。
風上にも走れて冬の日本海もいけちゃう船があれば大分早く来られるんじゃなかろうか。
なので船も情報も……と言いたいところだが。
「船関係は言わないほうが良いです?」
「……できれば内密にお願いしたいですな」
軍事関係だからねえ。
うかつに伝えると不味いことになる。
あと交易を考えると、仮に京とかに荷を運ぶ場合、能登半島で補給せずにそのまま素通りできてしまう可能性があるからねえ。
その分こちらの収入も減るだろうし、あんまりよろしくない。
遊佐さんの言う通りまずは黙っておくことにしよう。
……聞かれたらそん時考える。
この時代の長尾家に情報わたすとやべえことになりそう(*‘ω‘ *)




