87話「予期せぬ来訪者」
「何でもないですよ」
「う、うむ……?」
チベスナ顔で遊佐さんを見つめていたけど、にこりと笑みを浮かべて誤魔化しておく。
誤魔化しきれていない気がしなくもないので、なんか話題……話題無かったかな。
「……そういえば磁器用の窯が出来たらしいですね」
「うむ!」
作りかけの施設のうち、磁器用の窯は最近できたよーと報告が上がっていたりする。
ただ窯を作るだけならそこまで時間掛からんのだろうけど、耐火煉瓦を揃えるのに苦労したそうな。
大体の作り方は伝えてあるけれど、大体なんだよね……完璧ではないのだ。
材料は能登で揃うのでひたすら材料の配合を変えて何度も作っては壊してをくり返し、どうにか完成に至ると。
あとで作ってくれた人にはお酒送らないとだ。
あ、お酒は長様がつくったやつじゃなくて俺がつくったやつね。
長様のも結構うまくいって味も悪くなかったんだけど、初めてということもあり量もそこまで仕込んでおらず、あっと言う間に飲み干してしまったそうだ。
輸出するって話どこいった。
ま、一度つくれたんだからあとは量産するだけだ。
そのうち輸出だけでなく、領内でも出回ることになるだろう。
「あとは石が届けば作れそうですねえ。楽しみです」
窯が出来たから磁器を焼こう。
と言いたいところだけど原材料の陶石がまだ届いていない。
依頼を掛けたのが雪が解けてだからしょうがないんだけど、そろそろ届いて良いはずなんだけどねえ。
何かもめてるんじゃろか。
まあ戦国時代だし、もめてあたり前なんかもねえ。
きっとそのうち届くでしょ。
ちょっと早いけど、遊佐さんも来たしお昼だしご飯にしよう。
「今日は新しくできた茶屋に行くのであったな」
「ええ、この時間なら空いているでしょうしね」
なんとびっくり境内に飯屋ができたのだよ。
普段なら遊佐さんがご飯炊いて俺がご飯つくってーとなるのだが、せっかくだし食いにいこうという話になっていたのである。
ちなみにその飯屋は、俺がちょいちょい差し入れってことで普請している人達に食事を出していたんだけど、その中で料理に興味を持った人が居てねー。
レシピ伝えたところモリモリ料理の腕が上がっていって、ついには店を出すことになったんよ。
レシピが現代なもんで、調味料とか手に入りにくいやつは融通してたりする。
醤油とか砂糖ね。そのうち量産されるだろうからそれまでの間はってやつだ。
これで鶏とか卵とか、あと牛乳関連とかみんなに美味しいって分かって貰えば、俺も誰憚る事なく食うことが出来るって寸法よ。
こうやって開店初日から領主と仮にも神使ぽいのが食いにいけば、他の人も来やすくなるんじゃなかろうか。
ぜひとも頑張って貰いたい。
「……あ、まだお腹空いていなければ時間ずらしますけど」
「空腹なのだ」
「そいじゃ行きましょか」
遊佐さんたまに口調おかしくなるよな。
「とーちゃく」
「うむ」
あるいて1分で着いた。
何せ俺の家を出たらもう見えてるからねえ。
見た目はちょっと大き目な日本家屋。
ぱっと見は普通の家に見えなくもないが、違うのは入り口に他抜宮前茶屋と書かれた暖簾が掛かっている事。
他抜は狸をもじったやつ。宮前が俺の家のすぐ近くだからかな? 茶屋はよく分からんけど、何か食ったり飲んだりできる場所を示している……はず。
さて、店の前に並んでいる人はいないが店内はどうだろうか。
席が空いているといいけど。
「む、うまそうな匂いがするのであるな」
「ええ」
席は大体埋まっている……あ、二人掛けの席があいているね。
実はこの店。この時代には珍しくテーブルの椅子が並んでいる……これも俺が進めたやつだったりする。
単に俺が使いやすい様にって理由でだけど。
店内に漂う匂いは主に醤油と鶏を調理する際のものだ。
いずれメニューを増やすつもりらしいが、慣れるまでは一つのメニューに絞っていくらしい。
「うまいではないか!」
「うん。美味しい」
注文して出てきたのは親子丼である。
味は俺と遊佐さんの反応を見て分かる通り結構美味しい。
見た目はほぼ現代と同じ親子丼だが、一点違うところとして卵が半熟ではなく完熟になっていたりする。
これは食中毒を防ぐための処置だ。
完熟にするとちょっと食感的に不満が出るかなと思ったが、火の通し方を工夫して卵を全体的にふんわりとさせ、汁に片栗粉をいれることでとろりとした食感をだしている。
コンビニとかで売っているレンチンするタイプの親子丼とかに近い感じだねえ。
「おかわりしますか?」
「いや、もう十分なのである」
3杯目を食べ終えたところでそろそろご馳走様かなーと思ったら、遊佐さんがじっと空になったドンブリを見つめていたんだよね。
だからおかわりするかと聞いたけど、遊佐さんにそのつもりはないらしい。
なら単純にドンブリを見て居ただけってことになるけど……ああ、なるほどそういうことね。
「この器……御子神殿作であるな?」
「ええ、開店祝いにいくつか送ったんですよ」
「やはりか……」
遊佐さんがドンブリを眺めていた理由。
それは底に描かれた狸の絵が気になっていたからだ。
そしてこんなデフォルメされた狸を描くのは俺ぐらいしかしないので、というか磁器な時点で俺しかおらんわけで、あっさりとばれる。
まあ隠してもいないんだけどねえ。
「遊佐様にもいくつか用意しますね」
「うむ!」
遊佐さんなら茶碗代わりにも使いそうだね。
作るの自体は材料をネットで買えばいつでも可能なので、時間開いた時にでも作るとしようか。
こういったお店で使う食器とかも考えると、早いところ量産出来るようになりたいが……原材料届かないことにはどうにもならんねえ。
3000円じゃ俺がちょっと手慰みに造る程度の量にしかならんし。
ま、それは後で勘がるとしようか。
段々人が入ってくるようになってきたし、早いところ退散しないとだ。
「……ん?」
お店をでて、家に戻ろうと一歩踏み出したところで、不意に俺の無駄に優秀な耳が何やら聞き慣れない音を捉える。
「何か言い争い……とまではいかないですが、何かあったようですねー」
境内の外、ちょうど門の辺りで門番と誰かが揉めているような声がしている。
結構な人数で中に入ろうとしているようだが、それを門番が押しとどめている感じ。
そこまで険悪って感じではないが、この後どうなるかは分からない。
これは見に行ったほうが良いだろうなー……と思った時には遊佐さんが門に向かって駆け出していた。
「御子神殿は後ろに……何があった?」
「こ、これは遊佐様! それに御子神様まで!」
門の側までくると、門番や巡回中の兵士が集まっていた。
そのうちの一人に遊佐さんが声を掛けると、その場にいる人達みんながびしっと姿勢を正す。
そして門のほうへちらりと視線を向けると、俺たちだけに聞こえるようにそっと声を潜めた。
「……山吉孫次郎様が」
「……なに?」
俺は名前言われても分からんのですよ。
ただ遊佐さんは心当たりがあったようで、急に顔が険しくなる。
これは厄介事の予感がするねえ!
なんかワクワクしてきたぞっ。




