「86話」
年があけて義総様たちを酔い潰してからしばらく、あたりはすっかり温かくどころかむしろ暑くなり、この地は初夏を迎えていた。
「今日の買い物終了っと」
境内の開発も俺が人間重機としてまじめに拝まれるレベルの活躍をしたこともあって、すでにほとんどの田んぼで田植えを終え、すくすくと元気に稲が育っている。
とはいえ種籾を用意できなかったり肥料が足らなかったりと、色々問題もあったので育成具合には割と差が出ている。
境内に近いところは育ちがよく、離れるにしたがって悪くなる……悪くなると言っても他の何もしていない田んぼに比べれば、十分順調に育ってはいるのだけどね。それでも見て分かるぐらいの差がでているのだ。
どうにか来年以降はみんなに種籾があたるといいねえ。
まあ能登全体に広げるととなると、それこそ年単位で掛かりそうではある。
それで俺が何を買っていたかと言うと、平たく言えば換金アイテムである。
今までも蜂蜜や砂糖に始まり、磁器やらガラスの器だったりと様々な品を激安で入手してはぼったくり……この時代の人らにとって相場値で売りさばいてはいた。
なので結構お金を持っていたりはするのだが……何せ和倉温泉の周囲を埋め立てて、その上に温泉宿っぽいものを作ろうしているもんで費えが掛かる掛かる。
最終的に50m四方を埋め立てて、その上に二階建ての温泉宿を宮大工にお願いして作って貰うことになったのだ。義総様伝手すごい。
俺が寝泊まり出来るようにと個室もあるし、俺専用の湯舟もある。
まじ楽しみで仕方がないねえ!
そういう訳でよりお金を稼ぐ必要が出来てしまったのだ。
いまは義総様からのアドバイスなどもあり、新たな換金アイテムとして眼鏡を追加している。
ただし眼鏡といっても老眼鏡であるが……安いんだよね老眼鏡。
しかも買う人は近くの物が見えないと困るような人。
つまり本を読んだり文字を書いたりして、お金を持っている層だ。
寺とかそっち系だったり、どこぞの当主様とかそんなのではなかろうかと勝手におもっている。
お金持ってそうだよね。
老眼鏡を分解して枠だったりつるの部分を職人が高級仕様で作り直して、丸山様がはりきって売りまくってくれてるのだ。
「重要なところは境内通らないといけないようにするかー……確かにこんな天然の検問装置あるんだから利用しない手は無いよねえ」
あと境内にというか、近くに色々と出来てきたんだよね。
田んぼと遊佐さんの屋敷とかだけじゃないのだ。
椎茸小屋とか砂糖工場とか種イモ育てる畑とか、あとガラス製品を作る工房とか、便利な道具を試しに造って貰うよう設備に磁器を焼く窯なんかもある。まだ全部が出来た訳じゃないけどね。
あとは離れたところに液肥を作る設備なんかもあるよ。
他にも今後色々追加されていくんじゃないかな。
んでこのへんのものって下手に外部に漏れると不味いものが結構ある。
人が集まる以上、この手の売っぱらって儲けようぜーって考える人はある程度いると思うんだよね。
そして実際に行動を起こしてしまう人も。
これらを完全に防ぐのはまず無理……なんだけど、アクセスするためには例の範囲内を通る必要がある状態にしておくことで、かなり鉄壁の守りとなる。
勿論通らずに忍びこもうとする奴もいるだろうけど、俺が頑張ったおかげで割と開けて見通しが良い土地になっていること、仮に夜中に忍び込もうとしたとしても見張りの兵士全員にくそでか眩しいライト渡してあるんで、まあ無理だろうねえ。
とはいえ種籾だったり芋とかはいずれ漏れてしまうとは思っている。
義総様も完全には防げるとは思っていない。ただこちらは育てるためのノウハウを持っているからねえ。
仮に種籾や芋、それに砂糖大根等が外にもれたとしても影響がでかくなるまで時間は掛かると考えていて、他国が必死に頑張ってる間に自分たちはもっと先まで進んでいる。少しでも漏れるのが遅れればそれで良いってことらしい。
あとはどうせ漏れるなら、こちらから提供するってのも案としてはあるそうな。
一応周辺に友好国はあるからね……一向一揆に対抗するためにも仲良くしておきましょうってことだ。
どうも義総様は一向一揆と融和する外交路線だったらしいけど、ちょっと方向転換したんだろうか。
まあ、俺はそのへん詳しくないのでよく分からんけど。
遊佐さんもあまり詳しく教えてはくれないし、仮にも神使様なのだから俗世の厄介毎にあまり関わるべきではないとかそんな感じ。
俺としてはありがたいっちゃありがたいけれど、まあお世話になっているし……必要があれば何か手伝うのもやぶさかではない。
今のところそんな気配もないし、平和ですけどねえ。
平和といえば遊佐さんが飼い始めたあの狸。
未だに森に帰らずこの地にとどまっていたりする。
ここに居りゃ食いもんには困らんだろうからねえ。
「毛は抜けたのに丸いままだなお前……」
で、その狸というか三郎だけど、すっかり冬毛から夏毛に変わってはいるのだけど、相変わらずまん丸のままなのだ。
もちろん冬に比べれば大分ボリューム減ってるんだけどね……肉がつきまくってまるでまんじゅうか何かのようだ。
本人にそのことを伝えると、三郎はふんすと鼻をならして視線を横に向ける。
まるで何かを訴えているかのようだ。俺のせいじゃない、あいつが餌くれるからだと……あいつ?
「どうかしたのであるか?」
ふと三郎の視線の先をみると、遊佐さんがいた。
なるほど確かに否定は出来ないねえ。というか間違いなく原因だねえ!
てか三郎やっぱ頭いいよなこいつ。人の言葉を理解している節がある。
……理解していたとしても、それは餌を得るためにしか使われてない気がするけどな!
やっぱ頭が多少よかろうと狸は狸なのである。




