68話「たぬき(本物)」
まあ、遊佐さん以外にも領地の経営手伝う人おるだろうし何とかなるでしょ。たぶん。
「とうちゃーく」
村からキャンプ地まではすぐそこだ。ほんの数分走らせただけで着いてしまう。
今回無理やり道を通したので徒歩での行き来も楽になるはずだ。勿論木をなぎ倒しただけなので整備は必要だろうけど。
少し不安だったトレーラーや冷凍ストッカーは出発した時から変わり無いようだ。
よかったよかった。もし無くなっていたりしたら泣いてたよ。
「んぐぐ……うん?」
慣れない場所にいってそこそこの距離を運転していたからか、体が固まっている。
キャンピングカーを止めて降りたところでぐぅっと伸びをする……気持ちよさに目を細めていると、何やら視界の端に何やら黒いものが映った。
はて、なんだろう?
「遊佐様」
「む?」
それが何か確認した俺は遊佐さんに声をかけた。
ちょっと判断に困ってしまったのである……。
「狸って美味しいんですかね」
「え……いや、分からぬが……」
俺の質問に遊佐さんは困惑した様子だった。
まあ、いきなりそんなこと聞かれても困るよね……視界に映ったものの正体が、狸だったのだ。
まだ夏毛なので、犬に近い見た目をしているがおそらく狸だ。
「狸であるな……え、食べるのか?」
助手席側から回ってきた遊佐さんにも確認して貰ったが狸であっているらしい。
そして『え、嘘だろお前……』みたいな目で見られた。
いや俺も別に食いたい訳じゃないんだけどねえ?
「村の人が置いてってくれたのかなーと」
焚き火跡の側にいるし……キャンピングカーがそばに来ても一切動かんし、仕留めてここに置いてったのかなーって。
そう遊佐さんに伝えると、遊佐さんはその辺に落ちていた枝を拾い、地面に転がっている狸をツンツンと先っちょで突き始めた。
「むう……生きてるではないか」
「まったく動く気なさそうですねこいつ」
「うむ」
どうやら狸は村人が仕留めたとかそんな事はなく、単にこの場に寝転んでいるだけのようだ。
もぞもぞと身じろぎするが……一向に動く気配がない。
まあそのうち居なくなるだろうし、しばらく放置しておくか。
無理やりどかせなくはないけど、暴れそうだしねえ。
「おかえりなさい。お腹すきましたね」
「そうだな」
風呂に入ったり種を購入できるか調べるなどしている内にお昼の時間が近付いていた。
丁度遊佐さんが周囲の状況をざっと見終わって戻ってきたので、お昼の準備をしよう。
遊佐さんは今日貰ったお米……はまだ精米していないので、手持ちのお米を使い飯盒でご飯を炊く。
その間に俺は汁物とおかずを作る。遊佐さんがお米炊くの得意かつ好きなので、自然とこの分担になった。
「……そろそろ米が炊けるぞ」
「こっちも汁物は出来たんで、これ焼いたら完成です」
今日のお昼は餃子定食だ。
炊きたてご飯に餃子とふわふわ玉子スープ。それに常備している漬物……うむ。いかにもお昼ご飯って感じで良いんじゃなかろうか。
「うん、おいしい」
「……うむ」
新米うまいね。
餃子もパリッとカリっと焼けててご飯によく合う。
玉子スープも簡単な割りに美味しいんだよねえ。
「なあ御子神殿」
「ふぁい?」
なんか遊佐さんが気まずそうな顔で俺に話しかけてきた。
なんだろう? さっきから横をチラチラと見ているが……と遊佐さんの視線の先へと顔を向けてみると……狸が居た。
「ずっとこちらを見ているのだが……」
「良かったですね。懐かれたようですよ」
いつの間にか起き上がった狸が遊佐さんをガン見していた。
そして微動だにしない。
餌をくれるまで梃子でも動かぬという強い意志を感じるねえ!




