61話
「揺れるんで舌噛まないように気を付けてくださいなー」
そう秀盛様に注意しながら、上から見下ろすと直角の崖に見えるぐらいの急斜面を一気に駆け下りる。
隣では野太い悲鳴があがっていたが、キャンピングカーの走行音などで良く聞こえなかった。
そのまま木をなぎ倒して、川を遡り、尾根沿いを駆け……大体5分ぐらい走らせたところで出発地点へと戻る。
「はい、とうちゃーく」
シートベルトを外し、車外に降りて助手席へと向かう。
そして秀盛様を助手席から引っ張りだすが……目が虚ろである。
お労しや。
「兄者どうであった? なかなかが迫力あったであろう!」
俺が秀盛様をどうにか支えて立たせていると、遊佐さんがいたずらが成功としたと嬉しそうに駆けよってくる。
ほんとに嬉しそうだねえ!
弟が遊佐さんだと秀盛様も苦労してそうだなあ……と同情の目を向けた時である。
「……ふ、ふふっ」
「……あ、兄者?」
急に秀盛様の体が小刻みに震え……笑い始める。
え、なんか怖い。
「実に素晴らしい! 崖を下り、木々をなぎ倒し山々を自在に駆ける……このような体験を人の身で出来ようとは!!」
俺が秀盛様からちょっぴり距離をとった瞬間。
ガバッと顔を上げたその表情はいつかみたガンぎまった遊佐さんのそれとよく似ていた。
やっぱ兄弟だとこのへん似るんですねえ。
あれかねえ。やっぱ刺激が強すぎたのだろうか……予備知識なしにジェットコースター乗せたようなもんだし。
脳内麻薬どぱどぱ出てそう。
「御子神殿! ぜひとも他の者にもこの体験を味わって貰いたいのだ! 私は!」
「あ、はい」
目が怖い。
思わずはいと言ってしまったが……ちらっと周囲の人垣へと視線を向けると一気に人の輪が広がったねえ!
あの光景みたらもう乗りたいって言う人おらんのでないかなあ……。
とか思ってたんですけどね。
「それはで行きますよー……えーっと」
「温井備中守孝宗が嫡子、総貞である…………」
助手席には最初の突撃しようとした屋敷の主人? ではないな。嫡子ってことは息子ってことだろうし、住民か。
その住民が座っていたりする。
あのあと秀盛様がさ。
まさか怖いから乗りたくないと言うやつは居ないだろうが……とか。
戦場で馬に乗り崖を下ることもあるだろう。まさか出来ないとは言わないだろうが……とか。
他にも色々挑発的なことを言って、その場から離れようとした人を牽制してたのね。
あれはお前らも同じ目にあえとか、そんなやつだよ多分。
素晴らしいとは言ってたけど、やっぱ最初は怖かったんでないかなー……。
で、最初の犠牲者がこの人ってわけ。
「なぜ、何故某がこのような目に……」
「災難でしたねー……じゃ行きますね」
「まて、まだ心の」
可哀想だけど、まだ後ろが控えているのだ。
果たしては俺はあと何回野太い悲鳴を聞きながら山中ドライブをすることになるのだろう。
「暗くなってきましたねー……明かり付ければ走れますけど、まあこのあたりで終了ですかね?」
大体18時をちょい過ぎたぐらいかな。
ライト付けて山中走るのも楽しそうだけど、俺も運転ずっとしっぱなしで疲れてきたし今日はこの辺りで勘弁してもらおう。
結局その場にいた全員……まではいかないか、半分ぐらいかな?
ざっと30人ぐらいは乗せたと思う。もう野太い悲鳴はお腹いっぱいだ。
「そうですね……いま、明かりを付ければと言いましたが」
「ええ、ここ光るんですよ」
「おお!?」
ヘッドライトをぺかっと点けると秀盛様……というか周りに居た人みんながくいついてきた。
まあ松明とは比べ物にならんぐらい明るいからねえ。
何人かこの灯りだけでもと欲しがっていたけれど、キャンピングカーと一体化しているので無理ですと断っておいた。
まあ、あとで秀盛様にはキャンプ用のランタンでも見せるとしようか。
あれなら売ることは出来るからねえ。
とりあえず今日この後は夕飯をご馳走してくれるらしいので、屋敷に戻るとしようか。
色々とやらかしたお詫びもかねてお酒ぐらいはこっちで用意しようかねえ。
ああ、あとはあれだ。
温井さんとか可哀想だったし、お酒渡しておくかね。
一応明日献上品として出す予定だけど、温井さんが飲めるかどうかは分からんし……夕飯でも飲む事考えたら結構量が必要だよね?
予算的に紙パックのかなー……紙パックのまま出すのはちょっちあれだよねえ。
「遊佐様」
「む?」
手元に丁度良いサイズの容器もないので、ここは遊佐さんにあるかどうか聞いてみよう。
そしてあったら譲ってもらうのだ。
「お酒が一升入るぐらいの器ってありますかね……あれば譲って頂けないでしょうか」
「うむ? いくつかあるぞ! 後で持ってくるよう伝えておこう」
「ありがとうございます」
あっさり貰えそうでよかった。
やはりお酒は強い。
この時代でも酒の需要はありそうだし、酒造りに手を出してみるのもありかねえ。




