60話「試乗会」
結局秀盛様が復活するまで10分ぐらい掛かってしまった。
また遊佐さんのこと遊佐様って読んだらそれだけで笑いだしそうなので、しばらく遊佐さんの名前は呼ばないでおこうか。
それで今何をしているかというとだ、約束通りキャンピングカーを秀盛様に見せているところである。
周りに知らん人が大勢いるけど、まあ見られて困るもんでも無いし別に良いかーと放置してる。
「ここが運転席……ええと、この乗り物を操る場所です」
とりあえず前から紹介していくかねと言うことで運転席から見せてみる。
最初は恐る恐るといった様子だったが、やがて興味の方が勝ったのだろう。身を乗り出して中を覗き始めた。
「……座り心地が良いですな」
「固いものに長時間座っていると疲れてしまいますので」
「それはそうですね」
なんか乗ってみたそうな雰囲気を醸し出していたので、とりあえず運転席に座ってもらった。
ハンドルの存在に戸惑っていたようではあるが、座ってみればその座り心地に魅了された様子。
どこか恍惚とした表情で身をシートに預けている。
戦国時代だと座布団……というか敷物があるぐらいだっけ? 絶対お尻痛くなるよね。
そりゃ気に入るわ。
「こちらは寝る場所と休憩が出来るところですね。調理なども出来ます」
後ろも気になるだろうと見せることにした。
とりあえずソファーに座ってもらって……茶でも沸かすかねえ。
紅茶飲んだことないだろうし、紅茶でええか。
「……中はこうなっていたのですな」
そう感心したように言ったのは遊佐さんだ。
外に放置しておくのも可哀想なので、一緒に入って貰ったんだけど色々と気になるものが多いのかきょろきょろと落ち着きがない。
「実はこちら側には入ったことが無かったのだ兄者」
お前これに乗ってきたんじゃないのか? そんな疑問が秀盛様の顔に浮かんでいたが、遊佐さんの言葉になるほどと頷く。
……そういえばこの中見せたことなかったな。
お詫び紅茶に砂糖たっぷりつけといてあげよう。
あと遊佐さんが好きなお安めなカステラもあったはず……数は少ないから他の人には出せんけど、ここで食うならばれないから問題なしだ。
「っと、もうこんな時間……」
紅茶を飲んで驚き、カステラを食べて驚き。
動画を見せるのは……ちょっとまずかろうとやめておいて、代わりに釣り竿とリールなどを見せて釣り談義に花を咲かせているうちに、気がついたらそこそこ時間が経っていた。
「少し乗って動かしてみましょうか」
「良いのですか?」
「勿論です」
とはいえまだ15時を少しまわったところなので、日が暮れるまではまだ時間がある。
それならばと秀盛様を乗せてキャンピングカーを少し走らせてみる事にした。
屋敷の隣が馬場らしいので、そこをぐるっと何周かしようかなー……と考えていたら何やら遊佐さんが手招きをしている。
ええと走る場所についてとな?
「え、良いんです?」
「うむ! そのほうが兄者も喜ぶでな」
「まあ、そういうことなら」
遊佐さんから要望があったので馬場をぐるっと回るのは中止とする。
とりあえず秀盛様を助手席に乗せてシートベルトをしっかり締めて貰ってエンジンをかける。
ぶるんと音がなり、まわりの人垣のざわめきが大きくなるが……スルーして俺たちが入ってきた城壁へと向かう。
そして壊れた城壁を乗り越えて、崖の前でキャンピングカーを止める。
「あの、御子神様? この先は崖ですが……御子神様?」
引きつった笑みでこちらを見る秀盛様であるが、俺はそちらを……助手席の窓からこちらを見る遊佐さんが頷くのをみて、笑顔で頷き返した。
俺の視線が秀盛様に向いていない事に気が付いたのだろう。秀盛様はハッとした表情を浮かべ助手席の窓へと振り返る。
助手席の窓から見える遊佐さんは、すごく良い笑顔を浮かべていた。
「兄者、達者でな」
「まて重盛。それはどういう」
この場面だけ切り取ったら謀反中にしか見えなさそう。
俺はそんなことを思いながらアクセルを踏み込むのであった。




