38話
「…………ぷはぁっ」
渡した水を遊佐さんは一気に飲み干した。
よほど喉が渇いていたのだろう……おかわりの二敗目も一気に飲み干そうとしている。
「急いできたところ申し訳ないけど、もうご飯食べちゃったんだよね……」
そういって料理が並べてあった岩のほうへと振り返ると、ちょうど三人が残っていた甘酒を飲み干すところだった。
甘酒もなくなっちゃったねえ……?
「それでは御子神様。わしらは作業に戻りますんで」
「はい、がんばってください」
俺と遊佐さまに頭を下げて、仕事へと戻る三人であるが……どうにも早足で、逃げるように立ち去った風に見えた。
はて、どうかしたのだろうか? と疑問は浮かぶが、まあ遊佐さんの前でさぼっていると思われたら困るとでも思ったんだろう。
そう自分なり解釈し、遊佐さんの方へと視線を戻すと……そこにはすっごい恨みがましい視線を三人の背後に向ける遊佐さんの姿があった。
あんたのせいかい。
「それで、遊佐様。ほんとに何かあったんです?」
「う、む……実はだな」
俺の言葉に遊佐さんは三人から視線を戻し、ここに来た理由を語るべく口を開いた。
だが、出たのは言葉ではなくとても大きな腹の音であった。
……いや、まあ言いたいことは伝わるけどねえ?
「えーと……水車小屋作る人たちにうどんを用意しようと思っていたんですよ。よければ味見して貰えませんか?」
「う、うむ! 某にまかせると良い!」
さすがに気の毒になったので、煮込みうどんを作ってあげることにしたよ……まあこの時代の人らに受け入れられるか確認はしたいし、ちょうど良いっちゃちょうど良いよね。
とりあえず業務スーパーの激安うどんと……鶏肉はまだちょっと残ってたかな。あとはねぎと油揚げにしいたけ……かまぼこ何か高いから、さつま揚げでもいれるか。
遊佐さんだから卵落としても良いな。
野菜のかき揚げが安かったからこれもいれよう。
うどん自体は安いけど、具沢山にすると結構お高くなりそう。
んまあその時々で安い具材をいれることにしようか。
味付けはめんつゆでいこう。
味噌もおいしいらしいけど、作ったことないし……一度作って味見してからかなあ。
……そういやこの時代の味噌って何味噌なんだろう。
もしかすると口に合わない可能性もあるっちゃあるのか。
うーん……とりあえずめんつゆで遊佐さんの反応みて、よさげならそのままめんつゆ主体でいこうか。
味噌はタイミングみてだなあ……っと、遊佐さんの腹の音が大きくなってきた。
はやめに仕上げないと。
「まあ煮込むだけで完成なので……出来ました。めちゃくちゃ熱いので気をつけてくださいね」
「おお、待ちかねたぞ!」
どんっと岩の上に鍋と大きめの椀をおく。
すると遊佐さんは待ちかねたとばかりに椀にうどんを注いで、一気にすすった。
「あ゛づぅい゛っ」
「だからゆーたのに」
ぜったい火傷したでしょそれ。
明らかにぐつぐついってるのに、なぜ冷まさずにいったし。
「はふ……あぢぃ……うま」
まあ、一度痛い目にあって学習したのか、以降はしっかり冷ましてから食ってはいたが……いやちょいちょい我慢できずに熱いうちにいっるな。しいたけうまそうに食ってるけど、一口でいったら上顎の皮がべろんべろんになるでしょ。
この手のは熱々を食べるから美味しいって知っているから、気持ちはわかるけどね。
気休めだけど、よく冷えた水をだしておこうかね。
「この寒い中食べるうどんの何と美味たることよ……」
そういうと遊佐さんは箸をおき、コップの水を飲み干すと満足げに息を吐いた。
「足りました?」
「うむ! 実にうまかった!」
ほんと美味そうに食ってたねえ。
鍋もすっからかんだし、まじで汁すら残っちゃいない。
俺の分どこいった?
まあ、満足してくれたならなによりだ。
夕飯は俺も煮込みうどん……いや、なべ焼きうどんにするかな?
ちゃんと小さい鍋で作るやつじゃなくて、やっすいアルミ鍋のやつが食べたい。
みそ味とかカレーとか何種類かあったはずだから、食い比べて見るのもいいな……うむ。夜が楽しみだねえ。
ただ問題は、残金的な問題で俺一人分しか用意できないってことだ。
遊佐さんの分はない……遊佐さんの用事にもよるが、泊まるとなったらどうしようねえ?
「それでは邪魔をしたな!」
俺が夕飯どうしようと頭を悩ませていると、遊佐さんはそういうと立ち上がり上機嫌で来た道を戻っていった。
そしてそのまま5分が経過した。
「…………え? まじで飯食いにきただけ?」
遊佐さんの笑えない戦国ジョークかと思ったらまじで戻ってきやしねえ。
俺の飯を食うだけ食って帰るとか、なんて鬼畜侍なんだ。
今度きたら納豆食わせてくれる。
「はあい、遊佐様さっきぶり。そんなに息を切らせてどうしたの? 納豆食べる?」
待っても戻ってこないし、三人は作業中だしでとりあえずお皿洗っていたら遊佐さんがさっきよりヘトヘトになりながら戻ってきた。
わき腹を押さえて実にくるしそう……食べたばかりで走るから。
つか、飯食って満足したら用事忘れたパターンだなこれ。
このうっかりさんめ。




