32話
現代でキャンプに備えて購入した一張羅……大事に使っていたのにこんな別れ方をするなんて。
目を瞑ればこれまでの思い出が鮮明に蘇る。
3合の炊き立てご飯に焼き立てウィンナーに卵焼き。焼肉もおいしかった。具沢山のオムレツも良いものだ。バター醤油パスタはちょっと悲しみを背負った味だったね。焼き芋も地味に美味しかったなあ。最近だと雉が予想よりずっと美味しくて驚いたものだ……おかしいな。食べ物の思いでしかないぞ。おかしいな……。
おかしいぞ。
「……」
無言でそっと自分の腹をつまんでみるが、お餅を大量に食べたせいで張っているのか、うまくつまめなかった。代わりに二の腕をつまむと、むにっという感触が返ってくる。
「いやいやいや……ないない」
……そんなことはない。
だってほら食べた分は動いているし。重機並みの働きしているし。
……そうだ! 重機並みに働いているんだもん服が持たなかったんだ!
よく見たらあちこちほつれているし、激しい動きに服が耐えられなかっただけなんだ。
食べ過ぎてもないし、お餅だって一袋しか……お餅100g220キロカロリー……一袋は1kg。
「……」
……とりあえず着替えようか。
お尻破れた服を何時までも着ている訳にもいかないし。
裁縫道具買って縫わないと……。
「……べつにきつくないよな」
別の服を着てみたが、お腹がきついとか、腕がぴちぴちとか、ふとももがぱつぱつとかそんなことは決してなかった。
やはり俺の気のせいだったんだ。食べすぎなんてそんなことはなかったんだ。
よかった……とりあえず裁縫道具を買って破けた個所を縫おう。
いや、それよりも特に意味はないけど、先に雪かきして地面を均す作業をしようかな。
特に意味はないけどね。
ほんと気が向いただけで意味なんてないんだ。ほんとだよ。
さて、ちょっと張り切って雪かきしちゃうぞー!
……そしてスコップを手に取ろうとしゃがんだ瞬間、二度目の不吉な音がした。
「…………」
どういうことなの。
またしてもお尻が破けている……俺のお尻は成長期なのだろうか? なんで一部だけなんだよおかしいだろ。
自分の尻を揉んでみるが、別に大きくなったという感じはしない。
というか自分の尻を揉むことなんてまずないんだから、大きくなったとか分かるわきゃないだろ常識的に考えて。
何が悲しゅうて自分の尻を揉まなきゃならんのだ。
ちくしょうめー!
「縫い目がなあ……」
2着ダメになってしまったので、雪かきよりも先に破れた個所を縫うことにしたが、なかなかにボロボロな仕上がりとなっている。
俺、不器用なんで。
どうしようかな……当て布するしかないかなーと思うんだけど、お尻だとめっちゃ目立つよね。
上着はともかく下はあと一着しかないぞ……さすがに厳しいねえ。
周りに人がいない状況なら別に縫い目とか気にしなくても良いんだけど、いつ誰が来るか分からない状況でそれはまずい。
ちょっと調べてみるかあ。
「30円の服とか怖くて注文できんわ」
届くかどうかも怪しいし、まともな商品届くとは思えない。
……いや、実際は届く可能性もあるんだけどね? 使えるお金が限られているからギャンブルに走るわけにはいかんのだ。
せめて怪しい日本語じゃなくて、普通に複数の評価が入っているやつじゃないと怖くて注文できん。
「てか、現代の服ってやっぱ戦国時代だと浮いちゃうよな」
今更では? って話ではあるのだけど、極端に派手だったり奇抜なのは避けたほうが良いよねえ。
あとは和服があればそれを購入して着る……2000円じゃまず買えない予感がするけど。
まあ一応調べてみよう。上限を2000円にしてっと。
「すごい派手なの出てきた……」
お祭りとかでテキヤのあんちゃんが着てそうなのとか、コンサートとかで和風の曲を歌う歌手が着てそうなのとかが出てきたねえ。2000円以下で買えるのかこれ。
「巫女服とか出てきたし」
さすがに赤が派手かな……いや、着ないけどさ。
自分が着るなら小袖とかで検索して出てくるやつかな。ちゃんと男物もあるし。
ただお値段的に手がでない。
これに関してはこっちで買ったほうが良いだろうねえ。
しかし、悩むなあ。
あまりド派手なのは除外するとして、思いっきり着物ぽいのは手が出せない。
となると、和風でこの時代で着ても問題なさそうなもの……甚平? 夏はともかくいま冬だぞ。
女性なら大正ロマンな着物とかいけるんだろうけど……あ、でも男でもいけるか。
羽織に袴に……高くて手が出せないねえ!
「このオーバーオールにしておこう。作業しやすそうだし」
見た目にこだわるのは後にしよう。
とりあえず今必要なのは普段の作業に耐えられる耐久性と、2000円以内で買えるコスパの良さだ。
作業着とかそういったものを取り扱っているお店で、お手頃なのがあったのでそいつにしてみた。
大正ロマン溢れる格好は、次の取引の時だな。
あとは小袖とかもね。
せっかく戦国時代にいるのだから、そういった格好をしてみても良いだろう。




