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第二十三章 秘密
第二十三章 秘密
この街には、夜だけ現れる道がある。
二十二時。
正門が閉じる音が響いたあと――
昼には存在しない石畳が、静かに姿をあらわす。
魔法路地。
その最奥、右手。
灯りの消えない、小さな店。
そこが――
マヤの帰る場所だった。
一人の男が、ゆっくりと歩いてくる。
何年ぶりだろうか。
この道を通るのは。
カルディは、わずかに肩をすくめた。
「……あの時は、アキレスの呪で
ずいぶん酷い目にあった」
店の奥から、低い声。
「なんの用だい。
人の娘に手を出しといて」
魔法店主は、笑っていない。
カルディは苦く笑う。
「だからこそだ。
――側室に迎えようと思ってな」
「帝国に取られたくないから、だろう?」
静かな言葉。
だが、その奥には刃があった。
「渡さないよ」
「娘も――孫もね」
背後で、
ドルジが無言のまま槍を構える。
空気が張り詰める。
カルディは、しばらく黙っていた。
やがて小さく息を吐く。
「……アンタらには恩義がある」
「敵には、したくない」
店主は、ただ一言。
「じゃあ――帰りな」
沈黙。
カルディは、ゆっくりとうなずいた。
そして――
振り返らずに歩き出す。
魔法路地の灯りが、
彼の背を静かに飲み込んでいった。




