第二十二章 それで満足
第二十二章 それで満足
受付嬢
「今日も二日酔い?」
マヤは机に額を押しつけ、片手でこめかみを押さえている。
返事の代わりに、小さくうめき声が漏れた。
受付嬢はため息をつく。
「ナギさんも……ろくな事を教えないわね」
しばらく沈黙。
窓から差し込む昼の光だけが、静かに揺れている。
やがてマヤが、ぽつりと口を開いた。
「……彼女たちね」
「東の果て、大海原まで“人の時代”を広めたら――
元の世界に、返してもらえるんだって」
受付嬢は目を細める。
「それで?」
「……私に、力になってほしいって」
言葉は軽い。
けれど、その奥にある重さを――
受付嬢は、ちゃんと感じ取っていた。
「……行っちゃうの?」
マヤは、ゆっくり首を振る。
「だめ」
「私、寂しがりやだから」
「家族と離れられない」
即答だった。
迷いの形をしていない、迷い。
受付嬢は腕を組む。
「でも現実は優しくないわよ」
「帝国と東帝国は、きっとあなたを取り合う」
「王国に残るか、黄帝について逃げるか」
少しだけ声を落とす。
「……ユリアナ様の誘いに乗って、
プトレマイアス王国へ行くのも一つの手段」
「――全部、あなたの選択次第」
マヤは天井を見上げた。
白い。
何も書かれていない未来みたいに。
ぽつり、と言う。
「……いっそ結婚でもして」
「家庭に入っちゃおうかな」
受付嬢の眉がぴくりと動く。
「相手でもいるの?」
「収穫祭で出会った男の子、とか」
少しだけ笑う。
「……流れに任せて」
受付嬢は、しばらく何も言わなかった。
からかうことも、否定することもなく。
ただ静かに、マヤを見つめる。
そして――
まっすぐに問いかけた。
「それで満足?」
その一言は、
優しさよりも残酷で、
残酷なのに、逃げ場がなかった。
マヤの呼吸が、わずかに止まる。
胸の奥に沈めていたものが、
静かに――揺れた。
満足。
その言葉を、
自分は一度でも本気で望んだことがあっただろうか。
家族。
平穏。
誰かの隣で過ごす普通の人生。
――それは、幸せの形のはずなのに。
なぜか胸の奥で、
別の何かが、
小さく灯っている。
消えない火のように。
マヤは目を閉じた。
答えは、まだ出ない。
でも――
出さなければいけない日が、
きっと来る。
静かな昼下がり。
世界だけが、先に進んでいく音がした。
その日以降、ふつりとマヤは冒険者組合に
顔を出さなくなった
ナギ
「マヤちゃんいなくなったの?」
ギルドマスター
「アイツの家誰も知らないんだ」
受付嬢
「昨日エマさま、黄帝さま、ユリアナ様、
ラナ様御兄弟が探しに来ましたけど」
「この街でそれらしき少女の家がみつから
ないんですって」
ギルドマスター
「もう1年か」
受付嬢
「もうこないかもしれませんね」
ギルドマスターはうなずく




