第十九章 皇帝
第十九章 皇帝
「――君、強いね」
不意の声。
マヤは目を見開いた。
気配がなかった。
今まで、誰一人として近づけなかった距離に――
男が立っている。
身長ほどもある大盾。
公園の銅像で見た姿、そのままの男。
「……皇帝陛下」
カルディは静かに微笑んだ。
「君を味方につければ
僕に勝てる――
そう思われるのは、あまり嬉しくない」
軽い口調。
だが背後にあるのは、国家そのものの重圧。
「これでも、東帝国を背負ってるもんでね」
一歩、前へ。
「――僕とも、ひと勝負しないか?」
次の瞬間。
カルディの周囲から飛び出したコインが、
一斉にマヤへ襲いかかる。
同時にカルディが動いた。
肘打ちの姿勢を崩さぬまま、
大盾を構え――
誰よりも速く、突進。
――ドン。
盾に、マヤの身体が乗った。
「正中突き――
シールドバッシュ」
衝撃。
気づいた時には、
マヤの体は後方へ弾き飛ばされていた。
空中で体勢を立て直し、
矢を放つ。
炎をまとった一射。
「いけー!」
だが――
それはカルディの収納へ吸い込まれ、
次の瞬間。
背後から。
「射出」
――ドン。
マヤを撃ち抜いた。
「……強い」
マヤは弓を捨て、杖を握る。
「エクストラヒール」
淡い光が傷を閉じていく。
だが、休む間もない。
カルディの背後に、
無数のコインが出現。
竜巻のように渦を巻き、
マヤの体を巻き上げる。
空中で、杖を振る。
上空に広がる魔法陣。
雲が歪み――
雷神ゼウスの形を取った。
「――いけぇ!」
落雷。
一直線にカルディへ。
同時に、周囲のコインも帯電し、
火花を散らして地面へ崩れ落ちる。
静寂。
立っている。
カルディも。
マヤも。
服は焼け、裂け、
満身創痍。
それでも――
倒れない。
マヤは息を整え、再び杖を掲げる。
「エクストラヒール」
光が二人を包み、
傷が静かに引いていく。
カルディは小さく息を吐いた。
「……本当に強いな」
マヤも、まっすぐ見返す。
「貴方こそ」
短い沈黙。
やがてカルディは背を向けた。
「僕は――
他の者とは、背負っているものが違う」
それだけを残し、
皇帝は静かに去っていく。
止める者はいない。
残された草原。
マヤはその場に力を抜いた。
「……しんどい」
長い、長い息。
風だけが、
戦いの痕をなぞるように吹いていた。




