第十六章 贖罪
第十六章 贖罪
二人は――吊るされていた。
街の中心にそびえる、大きなモミの木。
冬でも枯れぬ常緑の枝から、
見せしめのように――逆さに。
それは神話の一場面を思わせた。
知恵を得るため、自らを吊るした神。
――オーディンのタロット。
だが、ここにあるのは崇高な犠牲ではない。
ただの、無様な敗北だった。
ざわめく群衆の前に、ケンタが立つ。
顔色は青白く、視線は泳ぎ、
それでも必死に言葉を絞り出す。
「お、俺は……
俺はコイツらに騙されただけだ……!」
責任を振り払う声。
だが――誰一人、同情しない。
静寂を切り裂くように、
黒衣の女が一歩前へ出た。
エクソシスト・マリー。
その瞳は氷のように冷たい。
しかし怒りすら感じさせない、
ただ事実だけを告げる――裁きの色。
「S級冒険者。
B級冒険者。
――そして、勇者様。」
わざと一つ一つ区切る。
群衆の空気が、じわりと沈んだ。
「そろいもそろって……
C級冒険者。しかも女の子一人に敗北ですか?」
嘲りではない。
それが、逆に残酷だった。
「よって、あなた方は――
本日付でD級冒険者へ降格。」
宣告は、刃より鋭く落ちる。
「加えて、国からの恩給はすべて停止。」
一瞬の沈黙。
「……そのつもりで。」
淡々とした終止符。
次の瞬間――
「ま、待て……!」
「それだけは……!」
「それだけはやめてくれえええ!!」
男たちの絶叫が、
逆さ吊りの身体とともに
無様に揺れた。
かつて英雄と呼ばれた声は、
もう誰の胸にも届かない。
群衆はただ見ていた。
終わった者たちを。
――そして、新しく始まる何かを。
そのすべての中心にいるのは、
一人の少女。
静かに。
何も語らず。
ただ、立っていた。
マリーが口を開く。
「……この二人については、
街の者の誰か一人でも
解放を望む申し出があれば――解放しましょう。」
わずかな間。
「……申し出が、あればですが。」
鋭い視線が群衆を射抜く。
だが、誰も声を上げない。
沈黙だけが、広がった。
そのとき、部下が駆け寄る。
「報告します。
旅人が二人を不憫に思い、
解放を願い出ています。」
「……そう。」
マリーは短く息を吐いた。
「一週間。
その後、解放してやりなさい。」
「はっ――ですが。」
部下の声が、わずかに揺れる。
「……クラウスが、
何者かに刺されていたようで。」
クラウスの背に、
深く突き立つナイフ。
沈黙。
「――亡くなったか。」
部下は、静かにうなずいた。
風が吹く。
モミの枝が、かすかに軋む。
マリーは目を伏せ、
誰にも聞こえぬほどの声で――つぶやく。
「……ドルジ。
義娘が、それほど大事か。」
その言葉だけが、
冷えた空気の中に残った。




