表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

第十四章 反省文

第十四章 反省文


受付嬢は、書類の山から顔を上げた。

「マヤちゃんは……パーティー、組まないのね」

「パーティー?」

一拍。

「……えっ、そこから?」

受付嬢のこめかみに、うっすら青筋が浮く。

「複数人で戦うの。

夜は見張りを交代できるし、夜魔獣にも襲われにくい」

マヤは少しだけ考え――首をかしげた。

「木にスルスル登って、ハンモック張って寝るし」

そう言って、腕を差し出す。

「この前、山ネコに夜中かじられたかも。

でも、ちょっとアザになっただけだし」

マジックバックから、立派な山ネコの毛皮が出てきた。

受付嬢は、ゆっくりと目を閉じた。

「……ちょっと、とは」

傷跡は――どこにもない。

常識が、静かに死んだ。

受付嬢は深呼吸し、声を落とす。

「月の輪パーティーが、ダンジョンで遭難したの。

食料とポーションを届けてほしい」

「ダンジョンって何?」

受付嬢は、天井を仰いだ。

「……洞窟状の迷路。

モンスターが大量に出る危険地帯」

短い沈黙。

「人手が足りないの。……お願い」

マヤは何も言わず、物資を詰めた。

その沈黙が、了承だった。

ダンジョン前――

そこは、まるで祭りだった。

屋台、呼び込み、値札。

安全祈願の護符まで売っている。

「……ここで、行方不明?」

マヤは管理組合へ向かう。

入場記録――あり。

退出記録――なし。

「地下は?」

「三層までは普通ですね。

隠し部屋でもなければ」

「記載漏れは?」

「……人の仕事なんで」

責任の所在が、ふわりと宙に浮く。

マヤは何も言わず、ダンジョンへ入った。

「――灯火」

前後に浮かぶ、静かな火球。

杖をしまい、弓を持つ。

だが。

「……人が多くて、何も出ませんね」

五階まで、敵影ゼロ。

平和すぎて、逆に不気味だった。

安全地帯。

似顔絵を見せ、情報を集める。

「痴話喧嘩してたな」

「谷間から悲鳴がした」

視線が、一点に集まる。

地面の裂け目。

マヤは灯火を落とす。

光は、ゆっくり沈み――

底を照らした。

「……いたか」

血に濡れた、二人の少女。

呼吸は、かすか。

「エクストラヒール」

柔らかな光が、傷を閉じる。

血色が戻る。

命が、引き戻される。

その瞬間。

――縄が、ほどけた。

上から落ちる、乾いた音。

マヤは静かに呟く。

「……やられましたね」

崖上。

消えない悪意の気配。

少女たちの目に、怒りが灯る。

「あの女……許さない」

「……月の輪で、間違いないですね?」

頷き。

マヤは、淡々と言った。

「じゃあ――反省してもらいましょう」

岩肌を、音もなく登る。

頂上。

女が、にこやかに手を差し出す。

「下の子たち、無事だった?」

マヤは――

その手を、強く握り。

そのまま、

引いた。

悲鳴。

落下。

風を裂く音。

男が剣を抜く。

マヤは避けない。

肩で受ける。

「何故切れない」

金属音。

次の瞬間――

平手打ち。

「うぁぁぁぁ――!!」

男も、落ちた。

静寂。

縄を縛りマヤは、ゆっくり降りる。

谷底。

うめき声。

「……どう、反省した?」

少女二人は顔を見合わせ――

無言のグーサイン。

マヤは小さく頷く。

「よし」

「エクストラヒール」

冒険者組合。

受付嬢は、一枚の紙を見つめていた。

震える声。

「……これが」

「彼女たちの――反省文?」

そこには、大きな字で一行。

『もうケンカはしません、もうやりません』

マヤは、静かに頷いた。

それで十分だと、言うように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ