第十三章 ドルジ
第十三章 ドルジ
エクソシストは低く息を吐いた。
「……やはり、あの街は無理なようです」
クラウスの口元が歪む。
「私を辱めた、あの娘を……このままにしておけと?」
「彼女がいなければ、あの街の住人の三分の二は死んでいたでしょう」
「金ならいくらでも積む」
静かな沈黙。
やがてエクソシストは視線を外し、淡々と言った。
「……街の外で、クラウス様が襲えばよいでしょう」
クラウスの目が細まる。
「その手があったか」
物陰で様子をうかがっていた少年たちが顔を見合わせる。
少年A「聞いたか」
少年B「聞いた。聖教教会に知らせよう」
そのとき――
ゆっくりと、一人の男が歩み出てきた。
「……かの娘に手を出すのは、やめてもらおう」
クラウスの眉がわずかに動く。
「元S級冒険者の貴方の頼みでも、呑めませんな」
男は静かに答えた。
「……私の娘でも、か」
「ドルジさん……娘がいたのか」
ドルジは肩に担いだ槍を、トン、トン、と軽く鳴らす。
「義理の娘だがな」
次の瞬間――
クラウスは剣を抜いていた。
「現役に敵うと思っているんですか」
ドルジはわずかに口角を上げる。
「……どうだろうな」
踏み込み。
突き。
巻き上げ。
槍撃が連続する。
一撃ごとに速度は増し、
空気を裂く音が重なり、
やがて残像が尾を引いた。
クラウスの目には、
槍が五本あるように見えた。
「……アンタ、本当に引退したのかよ」
「歳は取ったさ」
それでも――
槍は止まらない。
「手伝いましょうか」
エクソシストが前へ出た瞬間、
その頭を横から掴む手があった。
次の瞬間、
地面へ叩きつけられる鈍い音。
土煙の中に立っていたのは、
白衣の女――
エクソシスト・マリー。
「……誰の指示で動いているのです」
冷え切った声。
怒りすら感じさせない、純粋な断罪。
「彼女は神聖側と決まったはずでしょう」
叩きつけられた男が、かすれ声を漏らす。
「マ、マリー様……なぜここに……」
「市民から連絡がありました。
あなた方が暗殺計画を立てている、と」
その言葉が落ちるのと同時に――
クラウスの首筋に、
細い血の線が走った。
剣を握ったまま、
彼は崩れ落ちる。
静寂。
気づけば――
そこに、ドルジの姿はなかった。
ただ、
守られた街へ続く風だけが、
静かに吹いていた。




