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第十二章 一緒に頑張ろう

第十二章 一緒に頑張ろう


冒険者組合の朝は、

かつてないほど静かだった。

受付嬢が帳簿を閉じ、ため息をつく。

「……ここ、病室じゃないんですよ」

カウンター前では、

腰を押さえた中年冒険者がうめいている。

ギルドマスターが肩をすくめた。

「またか」

「“腰が痛いからマヤちゃん呼んでくれ”って、

 最近そればっかりなんですけど……」

「俺も痛いし、あとで頼むかな」

二人は顔を見合わせ――

ハハハハハハ。

力の抜けた笑いが、静かなホールに広がった。

受付嬢がふと周囲を見回す。

「……ギルメン、減りましたね」

ギルドマスターの表情が少しだけ曇る。

「S級に叩きのめされた連中は、

 格の違いを思い知ったんだろうな」

短い沈黙。

「……残念だ」

そして小さく続けた。

「今年も、マヤみたいな子が

 入ってきてくれるといいんだがな」

受付嬢が目を丸くする。

「ギルマス、知らないんですか?」

「何をだ?」

「聖女様の三銃士って呼ばれてる子たち、

 もう入ってきてますよ」

「……聖女って誰だよ」

「マヤちゃんです」

「いや、あいつアーチャーだぞ?」

「男の子三人相手に剣で勝っちゃって」

「…………」

受付嬢がそっと指さす。

「あそこのテーブルで、

 しょんぼりしてる三人です」

その時。

マヤが、こそこそと近づいてきた。

「……あの、どうしてあげればいいでしょう」

困った顔。

でも放っておけない顔。

ギルドマスターは腕を組み、

わざとらしくうなった。

「そうだな……」

少し考え――

にやりと笑う。

「元気づけてやれ。

 お前にしかできないやり方でな」

受付嬢がすかさず肘で小突く。

「ちゃんとした助言してください」

マヤは小さくうなずき、

三人の少年の前へ歩いていく。

三人は同時に顔を上げ――

そして固まった。

まだ幼さの残る瞳。

悔しさと憧れが混ざった表情。

マヤは少しだけ考えてから、

やわらかく微笑んだ。

「……ねえ」

その声だけで、

空気がふっと明るくなる。

「悔しかったよね」

三人は言葉を失う。

「でもね。

 強くなりたいって思えたなら――

 もう半分は勝ってるよ」

静かな言葉。

けれど、まっすぐ胸に届く声。

マヤは手を差し出した。

「一緒に、頑張ろ?」

その瞬間。

三人の表情が、

ゆっくりと変わる。

悔しさが――

決意に。

「……はいっ!」

力強い返事が重なった。

少し離れた場所で、

ギルドマスターが腕を組んでうなずく。

「……十分だな」

受付嬢が小声で返す。

「ええ。

 あれが“聖女様のやり方”ですね」

三人の少年は、

もうさっきまでの落ち込み顔ではない。

マヤの周りで、

次々と未来の夢を語り始めている。

剣士になりたい。

騎士になりたい。

誰かを守れる強さが欲しい。

その中心で――

マヤは、ただ嬉しそうに笑っていた。

ギルドマスターがぽつりと呟く。

「……人を立ち上がらせる力か」

受付嬢も静かに頷く。

「ええ。

 あれはもう――」

二人の視線の先。

光の中に立つ少女。

「本物の聖女ですね」

穏やかな朝の光が、

冒険者組合を包んでいた。

物語は、静かに次の段階へ進み始めていた。


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