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ヤンデレ系暗黒乙女ゲームのヒロインは今日も攻略なんかしない!  作者: As-me・com


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45/45

〈45〉 ヒロイン失格(キャサリン視点)

 あたし、昔から子供って苦手なのよねぇ。


 だって子供ってずっと泣いてばかりでうるさいし、鼻水だって汚いんだもんの。


「ジェンキンス様とエリオット様をあたしのものにするためとはいえ、やっぱりうるさいわねぇ」


 あたしはベッドの真ん中でぎゃあぎゃあと泣きわめく小さな生き物を横目で見てうんざりしていた。







 あの騒ぎから約2週間ほど経ったが、あたしはとても大変な目に遭っていたのだ。



 リヒト様とルーファス様、それにエリオット様があたしを奪い合っていたあの日からあたしの人生が一変したのは言うまでもない。


 あの女を追い出して侯爵夫人の座を手に入れたものの、ルーファス様はなぜかあたしに見向きもしてくれなかった。最初は照れているのかと思ったけれど、焦点の合わない目でブツブツとなにか呟いている姿はさすがに不気味に見えた。そしてその夜、あたしのことを放置したままルーファス様とリヒト様が揉めたらしいと他の使用人たちから聞いた。


 なんとリヒト様がルーファス様に刺されたと聞いたときは驚いたわ。だって……。



 つまりそれって、リヒト様がルーファス様からあたしを奪い返そうとして逆にやられちゃったってことでしょ?……バカなリヒト様。あたしはもう公爵夫人になったも同然なんだから、たかが執事がどうこう出来る相手じゃなくなったのに。


 それでもまぁ、それだけあたしが魅力的だったってことよね?あたしって罪深い女だわ。



 それからあたしはとても忙しかった。



 まずは侯爵夫人らしくなるために使用人たちをちゃんと躾してやったわ。だってルーファス様は引きこもってるし、リヒト様は怪我人で動けないんだもの。侯爵夫人のあたしがしっかりメルキューレ侯爵家を管理しなくちゃね!


 宝石やドレスもたくさん買ったし、どうやってあたしが侯爵夫人になれたのかを行く先々で武勇伝として吹聴して回った。みんな感心して聞いてくれたわよ。


 ついでにあたしに逆らうような言動をした使用人も片っ端からお仕置きしてやったわ。


 だってあたしは、躾する側の人間になったんだから!誰もあたしに逆らえないのよ!


 気がついたらほとんどいなくなっちゃってたけど……。

 

 まぁ、多少掃除しなくってもなんとかなるでしょ!だってあたしは無敵の侯爵夫人なんだもの!


 それにしても、ルーファス様はいつまでひきこってるつもりかしら?侯爵家のことをあたしに丸投げして酷い旦那様ね!だって、どうせなら豪華な結婚式とお披露目会もしたいのにさすがにあたしひとりじゃ結婚式はできないわ。リヒト様もいつまでも寝込んだままで……前は仕事のできる素敵な殿方に見えていたのに、まさかこんな役立たずだとは思わなかったわ。ちょっと刺されたくらいで仕事をサボるなんてがっかりよ。


 どうにか以前のメルキューレ侯爵家の活気を取り戻せないかしら?とりあえずジェンキンス様だけでも戻ってきてくれたらいいのに。


 そうだ!そう言えばジェンキンス様ってエレナの命令で仕方なく“聖女”と結婚したんだったわよね?だったらあの女が聖女じゃなくなっちゃえばいいのよ。最初は同じ男爵令嬢だからって同情してあげていたけど、今はあたしの方が格上だし……あたしの力であの女から解放してあげれば、ジェンキンス様はきっとあたしに感謝してくれるわ。それにあの子供だって、本当にジェンキンス様の子か怪しいじゃない?


 そう思い立って、あたしは教会にあたしの知ってるすべてを教えてあげることにした。あんな女を聖女にしたことを教会も後悔するわね!


 でも、教会からの返事は素っ気ないものだった。聖女は解任するけどジェンキンス様のことまでは知らないって、なによそれ!あんたたちがあの女を聖女なんかにしたからジェンキンス様が結婚させられる羽目になったっていうのになんて無責任なの?!



 教会にのやり方に憤りを感じていた頃、その聖女があたしに会いに来た。なぜか怒っているようで意味がわからなかったわ。


 この聖女は、エレナに金で買われて婚約者と婚約破棄させられて、さらにエレナの傲慢な見栄のためにジェンキンス様と政略結婚させられた被害者でしょ?エレナを恨んでいるならわかるけど、なんであたしに怒ってるの?もし聖女を解任されたことを怒ってるなら、それは自業自得でしょうに。


 しかしなぜかミリーナなんでエレナを追い出したのかとか、エレナのことに関して嘘をつくなとか、そればっかりだ。あー、うるさいわね。


 その時、あたしとミリーナが言い争っているとミリーナの後ろで赤ん坊の声が響いた。


 ミリーナによく似た赤ん坊を抱いていた伯爵家の侍女が慌ててあやすが泣き止む気配はなく、ミリーナの気があたしからそれた次の瞬間。



 いいことを思いついたのだ。



 あたしはミリーナと伯爵家の侍女に体当たりをして、隙をついてその赤ん坊を奪い取ってやった。


「?!」


 あの時のミリーナの驚いた顔ったら、面白かったわ!


 だからあたしはミリーナに言ってやったの。


「この赤ん坊を返して欲しかったらジェンキンス様にここへ来るように伝えなさい。逆らったらどうなるかわかっているわよね?あんたは伯爵夫人であたしは侯爵夫人なのよ!どっちが偉いかなんて子供でもわかるでしょ?」って。


 ミリーナはなにか言いたそうにしていたけど、赤ん坊の首に手をかける素振りを見せたら青い顔をしながら侯爵家を飛び出して行った。そうしたらすぐにジェンキンス様がやってきたわ。  



「なにが望みだ」ってやって来るなり息を切らして叫んでたわ。うふふ。焦っちゃって、そんなにあたしに会いたかったのかしら?


 このままジェンキンス様に戻ってきてもらってもよかったんだけど、どうせならエリオット様も連れてきてもらうことにしたの。お二人が揃えばきっとルーファス様も正気を取り戻すわ。そして三兄弟であたしを取り合ってくれればなお良い。それなら結婚式はもう少し待ってもいいわ。


 だってあたしと結婚した人がメルキューレ侯爵になるんだもの。奪い合いは必須でしょ?


 リヒト様は……ちゃんと反省して仕事をしてくれるならあたしが雇ってあげる。きっとあたしのことを女神のように崇めてくれるはずよ。



 だからジェンキンス様には台本を書いてあげたの。きっとエリオット様はみんなに誤解をされて悪く言われているあたしを心配して駆けつけてくれるわ。


 “キャサリンがそんなことをするはずがない、きっと他の使用人がキャサリンに嫉妬して彼女に罪を着せようとしたんだ”って、あんなにあたしを切ない目で見てくれていたエリオット様なら絶対にそう思うはずよ。



 ジェンキンス様はあたしの言葉に黙って頷くとそのままラファエ公爵家へと行ってしまった。あたしに熱のこもった言葉でもかけてくれるかと思ったけど、一応今はまだ妻子持ちだものね。うふふ、すぐに離婚させてあげるから、それまでのお楽しみね。


 でも、ふたり揃ってプロポーズしてきたらどうしようかしら~。



 ………




 それからどれくらい時間が経ったのだろうか?赤ん坊をメイドに任せて別の部屋で昼寝していたらいつの間にか外が薄暗くなっていた。一応様子を見ておかなくちゃね。さすがのあたしも、子供をどうこうしようなんて思ってないもの。ミリーナがジェンキンス様と離婚したら孤児院にでも放り込めばいいだけだし。


 ジェンキンス様とエリオット様はいつ頃来るかしら?きっと今はあたしのためにプレゼントを準備している頃よね?やっぱり久々の再会とプロポーズならロマンチックにして欲しいわ。


 でもあたしの返事は決まってる。


 あたしにプロポーズしてきたふたりにはこう言うの。



「今はまだ誰も選べないわ。本気で欲しいなら奪ってみて!なーんてね」







 ガチャ。






「……もちろん、奪い返させてもらうわ。大事な甥っ子なの」



 その部屋にいたのは、見覚えのあるピンクゴールドの長い髪に桃色の瞳した見た目だけは完璧な美少女で、その腕にはあの赤ん坊が抱きしめられていた。安心しきった顔でスヤスヤと眠る赤ん坊を愛おしそうに見つめている。


 その姿がなぜか一瞬、神々しく見えて……あたしは無意識に後ずさっていた。



「エ、エレナ……?!なんでここに……!」


 思わずうわずった声を出すと、エレナはにっこりとあたしに笑みを向ける。でも赤ん坊を見ていた時とは違う冷え切った瞳だった。



「キャサリン、あなたはやってはいけないことをしたわ。あなたは────ヒロイン失格よ」


「ひっ……!」


 エレナがそう言ったのを合図に、あたしの喉元に鋭い剣先が当てられる。ひやりとした感触に思わず息を呑んだ。


 視線だけを動かせば、その剣を握っていたのはエリオット様だった。エリオット様はエレナと同じく冷たい瞳をしてあたしにだけ聞こえるようにぼそっと呟いたのである。




「“真のヒロイン”を本気で怒らせた君が悪いんだよ」と。



 いつの間にか周りには兵士らしき人間が取り囲んでいて、意味がわからないままあたしは捕まってしまったのだった。










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