〈40〉ラファエ公爵家の反応
さて、あれからどうなったかというと……。
あの後、勢いのままラファエ公爵家に転がり込む形でエリオットにお世話になることになってしまった私はとても困っていた。
いや、別にラファエ公爵家の使用人から冷たくされているとかそんなんじゃない。どちらかというと大歓迎されてしまったくらいだ。ついでにメルキューレ侯爵家の使用人たちもほとんどが一緒に付いてきてしまったのだが、ラファエ公爵家はまるっと受け入れてくれた。いくらエリオットが許可してくれたからって後継者になったばかりの新たな主人の言葉に誰一人反発することなくだ。感謝しかない。
歓迎ムードが薄れることもなく、みんなとても優しい。優しいんだけど……。
「お待ちしておりました!新たなご当主様と未来の奥様が一緒にやってきてくださるなんてこんな嬉しいことはありませんわ!これでラファエ公爵家は安泰でございます!」
「ユリアーナ様からも、くれぐれもエレナ様に失礼のないように丁重にお迎えするように言付かっておりますので!」
「エレナ様用のお部屋はエリオット様の続き部屋をご用意しております!」
「もちろんエレナ様のためにオーダーメイドで作らせたドレスや装飾品で部屋をいっぱいにしておりますよ!あ、サイズはユリアーナ様が教えてくださいました!」
「ではさっそく!お風呂のご準備は出来ていますよー!」
「お久しぶりでございます。この度はエリオット様とのご婚約おめでとうございます。ユリアーナ様からご婚約お祝いとして派遣されました……コルセット係です」「衣装係です」「髪型係です」「化粧係です」「香水係です」「装飾係です」「爪切り係です」「マニキュア係です」「空気読み係です」
デジャヴ!!
なぜか到着そうそうやたら広いお風呂に放り込まれ、つるつるたまご肌にされた私は鏡の中にうつる自分の姿にこれまたデジャヴを感じて狼狽えてしまった。
ついでにお店の中身をまるごと持ち込んだかのような山盛りのドレスと装飾品。さらにはズラリと並んだ侍女たち……。
いやいやいや、私と婚約とかなんとかってエリオットが思い付きで言っただけなんじゃないの?!なんでこんな事前準備が完璧にされてるのー?!
「「「「ようこそラファエ公爵家へ!!」」」」
そのぴったりと息の合った使用人たちを見て、私の脳裏には高笑いをしたユリアーナ様の顔が浮かんでいた。
「……これは、ユリアーナ姉様にしてやられたみたいだね。なんかすでにおねーさまのことを僕の婚約者として使用人たちに周知させてたみたい」
私と同じくつるつるたまご肌にされてすでに着飾っているエリオットが「まぁ、僕としては願ったりだけど」と肩を竦めて笑っていた。
つまりは、全てユリアーナ様の手の上で転がされていたってことらしい。それにしたって、転がり込んでくる日まで分かっていたってどういうこと?!エスパーなの?!
「私、しばらくお世話になったら平民になる予定なんだけど……」
もしかしたらラファエ公爵家の使用人たちは“メルキューレ女侯爵”とエリオットが婚約すると思って喜んでいるのかもしれないのだ。それなのに実はもう侯爵家とは縁を切って平民になるとわかったらがっかりさせてしまう。それに正式ではないにしろ平民と婚約してたなんて噂されたらエリオットにも迷惑になるかも……。
心配事が顔に出てたのか、私の顔色を見たエリオットが手を伸ばして私の頬を指先で撫でた。
「まぁ、その辺はユリアーナ姉様のことだからすでに手を回していそうだよね。でもさ、そもそも……僕はおねーさまを手放す気ないからね?」
「ふへ?!」
なんだかその表情が、妙に《《エリオット》》っぽく見えて私の口からは思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
もちろんエリオットはエリオットなんだけど……いやいや、エリオットの中身は女の子なんだし、同じ転生者として仲間が私しかいないって意味だし。なのに、なぜこんな意味深な雰囲気を漂わせるのか。
「おねーさまのことは、全部僕が責任取るから……安心してね」
「う、うん……」
なんだか圧を感じるエリオットの言葉に思わずうなずいてしまった。そしてそんなエリオットの頑なな態度に、もしかしたら私と離れるのが寂しいのかもと思った。いくらラファエ公爵になるとはいえ、エリオットはまだまだ子供だし環境が変わって不安なのだろう。頼れる大人に執着するのは仕方がないことかもしれない。
まぁ、平民になるにしても孤児院に戻るわけにもいかないし、住む場所や仕事を探すにしろ時間がかかる。どのみち基盤が整うまではお世話になるしかないのだ。使用人たちには悪いけど、婚約のことはユリアーナ様の気まぐれだったってことなら説明すればわかってくれるだろう。実際エリオットの思い付きと気まぐれなんだし。
「わかったわ。しばらくよろしくね、エリオット」
出来ればエリオットとはこれからも仲良くしたいし……大人の私が甘えさせてあげなきゃね!
そして、それから数日は平穏に暮らしていたのだが……それは嵐の前の静けさだったことを後になって思い知るのだった。
「……まったく、お前たちはどうしていつも騒動ばかり起こすんだ?侯爵家は大変なことになってるぞ!」と叫ぶ、眉間に皺を寄せたジェンキンスの来訪によって。




