鳴神に打たれて(2)
- Characters -
テッサン:リーダーのオッサン。蓬髪に髭の洒落者。かつて三人が住む集落の長だった。武器は斬鉄木刀。
ヤーボン:武力担当のオッサン。丸坊主に丸首シャツ。かつて戦闘教官だった。武器は超・鉄パイプ。
シマケン:技術担当のオッサン。瘦せ型の白衣。医療とメカを扱える技術超人。車載武器でアシスト。
- Previously -
周辺集落からは奪いすぎず、外敵から守る事さえする特異な野盗『シュタインズ』。
日常の略奪を過ごす彼らの近くで、『野盗狩り』と呼ばれる男たちが何やら調査を行う。
その結論は、誰かの協力が必要な緊急事態だった。
「まさか、一悶着もなく入れるとはなぁ」
ヤーボンが呟きながら、どっかりと座った木製の椅子の上から内装を眺める。
「イヤァよかったなあ。ウンウンよかった。…あーよかった」
挨拶代わりにケンカを始めるこの男にとって、少々物足りない感じは否めない。
笑顔の裏には『もっと遊ばせろ』が隠せていない。
近隣集落から情報収取の末、野盗チーム『シュタインズ』保有の本拠地ガレージに彼らは難なく到達していた。
荒野の二階建て廃墟を改築し、髑髏に稲妻のチームマークが掲げられた建物内。目の前の一階作業スペースには標準サイズの武装シップが二台格納され、整備を受けている。
作業ガレージ内はさほど大きくはなく、武骨な印象ではあるが、壁面には整備道具やパーツ類がきちんと整理格納されている。
高い天井は二階へ吹き抜け、奥には二階の部屋に繋がる螺旋階段があり、どうやら地下もあるようだ。
車両出入り口となる巨大なシャッターは、今は閉められていた。ガラスのない窓の外には、地平線の荒野が見える。
室内の一角には整備台と応接を兼ねるであろう大きく武骨な機材テーブルがどかりと置かれており、そこに来客三名――『流星号』のメンバーは案内されていた。
「面会を求める者は、乱暴に扱うな。ウチの掟のひとつだ」
『シュタインズ』のサブリーダーである整備士が、彼らの対面の席で口を開いた。
「アンタたちのシップも手出しはさせないから安心はしていい――だが」
どうやら来客応対はこの男の仕事のようだ。
長髪でやや細身の体型は、戦闘用ではなく技術職の専門なのが分かる。
だが険のある視線は鋭く、野盗を統べるには十分な胆力を備えている、と対面の三人からは見えた。
隣ではリーダーのレオが腕を組んで満足げに頷いている。
若くて元気そうな色男だが、こちらの雰囲気は得体がしれない。
「しかし別にこっちもヒマな訳じゃない。役にも立たない儲け話なら、迷惑料を置いて消えてもらうぞ。――『野盗狩り』共」
野盗の整備士が、ぴしゃりと言い渡す。
「なんだ、俺たちのこと知ってたのかよ?」
「次々に野盗集団に逆に襲いかかっては解体していく狂人たち。有名人だろう。我々も横の繋がりは無くもないからな」
「よく、知ってて本拠地に入れる気になったな…」
ヤーボンとテッサンが軽く驚く。
「どんな奴等か興味を持ったからだな!」
天真で爛漫な明快回答に、ウチはこういうボスだからな、と呆れ気味のフォローが入る。
「俺は機械屋のゲイラ、『整備長』と呼ばれているが好きに呼べ。こっちが俺たちの王、レオだ。無礼のないように振る舞え。ふざけた真似をしたら砂漠に転がすぞ」
「承知した。ご承知の通り野盗狩りと呼ばれている、テッサン、ヤーボン、シマケンと呼んでくれ。――最高にエキサイティングな話なのは、保証しよう」
白衣の男シマケンが、語り始める。
会話と交渉は、たいていは彼の仕事だ。
※※※
「君らは『砂カバ』を知っているか」
「荒野で容易に飼育できる家畜。汚染された土を浄化する力がある。その肉は無毒で食用として使われる」
「性格も戦闘力もクッソ弱いが、砂に素早く潜って身を守れる!『一芸身を助ける』という奴だな!」
若い野盗整備士と若い野盗リーダーが、それぞれ応える。
「彼らは文明時代の終盤、遺伝子操作で作られた生物だ。その尖った容姿とヒレのある姿は、実は旧世界にいた『河馬』とは似ても似つかない」
それを知るものは今は少ないがね、とシマケンは語る。
「だが彼らは即席の生物のうえ、汚染を吸収圧縮して分解するという性質上か、突然変異した個体の発生する確率が多少高いのだ」
「『奇形』か」
「『進化』と呼ぶべきかもしれない」
違いはないが、より強い形態となることが多いからね、と医学的見地の専門家は言う。
「そして、中には知名度の高い突然変異の個体もある。それはシップを何台も連ねたほどに巨大で、砂に潜るのみならず猛スピードで砂中を『泳ぎ回り』、巨体で獲物に襲いかかり、破壊する」
「…死砂、だな」
そうだ、とシマケンが頷く。
死砂。
それは荒野の砂漠に生きるものたちにとって、共通の畏怖伝説を持つ怪物だった。
鋼鉄の人工物レギオンではない、自らの意思を持ち行動する『生物』。
来歴を考えれば、人工生物と呼んで差し支えのない存在かもしれない。
地平線の砂漠、その地中を高速で悠々と泳ぐ巨体。
気まぐれに雄大に宙を舞い、轟音を立てて砂中へ飛び込む。
その場にいた全員が、戦車数台程度では勝てるはずのない、神懸かった巨大生物の伝説を思い出す。
「あれは砂カバの仲間だったのか!…じゃあ……食える…のか…?」
レオがピントの外れた疑問を挟み、腕を組む。
シマケンは気にせず、続ける。
「旧世界では『鯨』と呼ばれたものに近いな。それが砂漠を泳いでいる。性質として砂を好むが水場を嫌い、水源を完膚なきまでに潰して埋める生きた破壊兵器だ。それが」
こちらに向かっている。それも、二体。
シマケンの言に、二人の顔色が真剣なそれに変わる。
儲け話ではないが、損失の回避ならば同じこと――いや、より重要なことだ。
「地下の水脈は容赦なく破壊される。水がなくなれば近隣の集落は消滅し、この一帯もまた砂漠と化すだろう」
「で?」
「共闘して『死砂』を倒さないか。総出で鯨狩りだ」
シマケンが、本題を切り出した。
「おい、喋ってないそこの二人」
レオが突然、テッサンとヤーボンに声をかけた。
だがそれは、無礼を咎めるわけではなく。
「ヒマなんだろ。遊ぼうぜ」
「…おいおい」
「思った以上に大物だな。…構わないぜ」
話はマジメ同士が居りゃいいだろ、と整備士とシマケンを残し、レオは残る二人を伴って、ガレージの外へと消えた。
※※※
やや日の傾き始めた窓の外では、ふたつの集団がぶつかりあう光景が繰り広げられていた。
何か動物の頭蓋骨のようなものを、テッサンがフェイント気味の素早い動きで敵方から奪取する。
そこからクイックパスで受け取ったヤーボンが重戦車のごとく突進し、敵方の妨害を跳ね飛ばしながら相手陣地に突入する。
立てられた棒へ、その頭蓋骨を突き刺した。
敵味方双方が沸く。
これでポイント追加のようだ。
「この末法の世でスポーツか」
室内から眺めていたシマケンが、呆れ半分に呟く。
テッサンもヤーボンも初めてだろうに、若者たちの中で馴染むのが早い。
「消費カロリーの無駄…とは言わない程度に、水と食料の余裕があるのだな」
「体力増強、チームワーク、ストレス解消、戦闘訓練。努力と称賛。ルールの遵守。無駄どころか、個人にも社会にも遥かに合理的だ」
目つきの鋭い整備長が応える。
「なるほど。多少荒っぽいようだが、精神的にも肉体的にも健全健康なのは間違いない」
「野盗狩りよりは健全だろうよ。なにを目的にそんな渡世をしているんだ?恨みか?正義か?」
「道楽だよ。彼ら二名はそれこそ野盗なぎ倒しスポーツとかゲームとか考えてるだけだ。恨みはないし正義感もたぶんないよ」
「お前は」
「彼らを支えるのが私のゲームかな」
その回答を受けた整備長は、訝しげに白衣の男を眺める。
そしてその目の微かな昏い光に気づいたが、今は気づかぬふりをすることにした。
※※※
互いに静かに値踏みするような、少々の沈黙が訪れた。
ゲイラは再び窓から外を眺める。
丸刈りの男が両腕を広げて回転するように振り回し、群がる筋肉質な男たちを次々にはじき飛ばしていた。
蓬髪の男はなぜか鋼鉄チェーンを楽しげにぶんぶん振り回している。無茶苦茶だ。
「それにしてもあの二人、強いな。アンタも支えがいがあるだろう」
「お互い様さ。良いチーム、良いリーダーに見えるよ。…これは?」
ことりと音を立て、テーブルの上にカップが置かれる。
「整備で徹夜明けなんだ。俺が飲むついでに、お前にも出涸らしの珈琲をくれてやろう」
思わぬ歓待に、シマケンは驚いた。
珈琲は高級な貴重品だ。こんな時代に、嗜好品を育てる余裕のある物好きは少ない。
「ありがたい。珈琲には目がなくてね。…ああ、美味い。トレイツ系の豆は何年ぶりか」
「ほう、あんた分かるのか。遺伝子改良の特別製、適当に水をやれば痩せた土地でも簡単に育つ」
言いながらチーフは自分のそれを飲む。
「まあ誰も欲しがらないからな。俺の仕事に必要だと言って近隣集落に栽培させているものだ」
その集落の15%ぶんはすべてこいつで払わせている、とチーフは言った。
「立派なものだ。交易作物になるじゃないか」
「煙草と茶も試させてみているが、そう簡単ではないな。…で、本題だ。噂の野盗狩りが野盗と組めるのか?終わったあとで結局、襲いかかる気じゃないだろうな」
「お前たちはもうぜんぜん野盗ではないだろ」
白衣の男が、苦笑いを見せる。
「防衛武力の維持遂行と、それに準じたコスト支払いの健全な相互関係。掟による確かな統率。支配領土の平和と繁栄。領主とか、騎士団とか、そういうものだ」
「いいや。俺たちは自由な野盗さ」
チーフが、シマケンの言葉を否定する。
「少なくとも、仲間たちはそう思っている。自由の範疇で、そうしたほうが得だと思うから掟に従い、収奪も制限する。だがそれはいつでも破っていい…そうでなければ彼らの心は離れていく。自由を奪えば、すべて終わりだ」
「分からない話でもないが…惜しいな。まあ、我々がなぎ倒す対象だとは思っていないよ」
ところであれは、とシマケンが話題を変えた。
「まさか…『そんなもの』まで持っているのか?面白い。実に面白いチームだ」
「あんたこれも分かるのか。流石に只者じゃないな」
微かに笑いながら、チーフがそれに近づく。
ガレージの隅に置かれた黒光りのする砲身。だがそれは通常のそれよりも異様に細身で、長い。
「こいつはオレ個人の道楽でな。ベースのスクラップを偶然手に入れて、それから少しずつ修理部品を集めた。撃つ機会なんかないが、このチームらしい武器だと思ってな」
「ああ…なるほど、確かに。これがアンタたちの『聖王剣』という訳だ」
「大袈裟な。道楽だと言ってるだろ。言ったとおり、こんな時代に意味のない骨董品だよ」
何回説明しても誰も構造を理解しないよ、と野盗の裏方は笑いながら言った。
無理もないだろうな、と狩り手の裏方は微笑みながら思った。
※※※
「いつの間にか人数も増えたけどな。元は俺とレオの二人組だった」
珈琲を飲みながら、チーフが語る。
「身体が貧弱で、日の下に出られない俺の代わりにレオは身体を張ってくれた。俺はそんな奴のために、必死でマシンの世話を覚えた」
シマケンは静かに聴いている。
他人から野盗ではないと言われたことが、彼の中の何かに触れたのだろう。
「気がつけばチームは大きくなったが、俺たちの役目は変わらん。あいつは俺たちのために旗を振る、俺はあいつらのために頭と手を動かす。しかしお前らを信用して、話に乗るかどうかは」
「おい!まだお前らはマジメなお話中か!」
突然、レオが窓から上半身を乗り込ませてきた。
マジメなお話中だよ、と整備長が返す。
「お前!さっきも聞いたが、そのバケモノは喰えるのか?」
勢いよく、シマケンの方に振り返る。
「…伝説ゆえ確かではないが…砂カバより身が締まって美味い、という噂はある」
「その仕事終わったあと、皆で満足して笑えるか?」
思わぬ質問に、一瞬シマケンは回答に詰まる。
「…誰も死ななければ、そうなるだろう」
「じゃあやろう!死なない作戦考えといてくれ!……よっしゃ次はこっちの先攻だぞ!野郎ども!」
言うだけ言って、レオは再び競技に戻っていった。
次の瞬間、ヤーボンのタックルに宙へふっ飛ばされている。
「…いいな。好きだぞ、君らの王様」
「…それはたぶん、相思相愛だよ。ずいぶん気に入られたようだ」
溜め息をつきながら、整備長は座り直す。
「さて、あいつがやると言った時点で話は決まってしまった。では野盗と野盗狩りは一時休戦、鯨狩りの作戦を詰めようか。まずは人数と武装の情報を共有しよう。……言っとくが、あいつを納得させるのはなかなか大変だぞ」
コーヒーのお代わりは要るか、と整備長は白衣の男に問うた。
(続)
先週も 30回 以上ものプレビューをいただき、ありがとうございました!
世紀末スポーツは某映画のオマージュです。名作。




