鳴神に打たれて(1)
- 主要登場人物紹介 -
テッサン:リーダーのオッサン。蓬髪に髭の洒落者。かつて三人が住む集落の長だった。武器は斬鉄木刀。
ヤーボン:武力担当のオッサン。丸坊主に丸首シャツ。かつて戦闘教官だった。武器は超・鉄パイプ。
シマケン:技術担当のオッサン。瘦せ型の白衣。医療とメカを扱える技術超人。車載武器でアシスト。
略奪者の朝は早い。
裸で寝台から勢いよく起きたその男は、ガレージ二階の窓から上半身を出し、青空と廃墟ビルの佇む荒野を無邪気に眺める。
今日も上天気だ。ほとんど毎日そうだが。
「どうぞ」
「うむ!」
いつもの服装に着替え、部下にカップ一杯の水を出させるのが毎朝の日課である。日々の食もこれも、略奪で得たものだ。
それならこんなヒゲハゲのマッチョ部下ではなく女子供でも攫って身辺の世話をさせれば良さそうなものだが、彼――『シュタインズ』の若きリーダー、レオ・シュタインはそうしなかった。
なんとなくそれは、友人かつ相棒の仕事場であるこのガレージを汚す行いに思えたからだ。
廃墟から拾ってきた一張羅のお気に入りソファに座り、また青空を眺めながらそれを飲み干すと、彼は下りの螺旋階段へと向かう。
自分はしっかり夜寝て朝起きているが、部下はたいがい徹夜で騒いだまま今に至る。
――あいつらはいつ寝ているのか?
多少疑問に思わないでもないが、特に干渉はしない。
プライベートに口を出さないのが、よい野盗のよい親分でいるためのコツだからだ。
ガレージ階下には、固定した四輪の下に入り込んで整備作業に勤しむ相棒がいる。こいつもまた徹夜か。
「メシはちゃんと食えよ?」
「わかってる」
顔も見えない相手と最低限の挨拶のみ交わして、日の下に出る。
「野郎共!今日は西の集落から略奪に回るぜ!」
「うおぉぉぉお!」
今日も元気な良い返事だ。レオは満足する。
いつもの二十人程度の仲間を引き連れて、近隣の集落へと向かう。
砂煙を上げて荒野をひた走る武装車輌群は、自慢の『力』だ。
これがあるから、生きていられる。なくなれば、死ぬのみ。
集落が見えてきた。
荒野の廃墟に細々と生きる、か弱い人間たち。
彼らに、収奪者が迫る。
「おらおらぁ〜!水と食い物を全部………じゃなかった」
先頭バイクの荒ぶる武装モヒカンが、一瞬言い淀む。
少なくとも視線の合った住民皆殺しは間違いないであろう、その凶悪面相が言い放ったのは、
「『半期収穫量の15%』をよこしやがれ〜!!」
それは、あまりにも事務的な略奪の宣言だった。
しかも、逆方向に法外な安さだ。
「ヒャッハァー!」
「ウオォォォ!略奪だぁ〜!」
「15パー!15パー!」
後続の荒ぶる強面たちが、次々に鬨の声を繋ぐ。
そんなに盛り上がる分量ではないように思えるが、彼らにとっては日常である。
本能のままにすべてを奪うのではなく、歩合制で徴収する。
『シュタインズ』は、『奪りすぎない』を信条に掲げた、たぐい稀な野盗集団であった。
彼らを繋ぐ髑髏に稲妻のマークが、集落に向けて走り去っていった。
※※※
「抵抗するなー!おとなしく計算させろ〜!」
「ヒャッハー!ガキと老人はいねぇか!」
「いたら控除の対象だぞぉ〜!」
土煙を上げ、次々に集落に突入してきた恐ろしげな男たちが、各々の得物を、何人かは帳簿を手に威嚇(?)している。
リーダーのレオが、自分の二輪の上で腕を組み、頷きながら監督している。
村人たちは、特に恐れるでもなくそれを受け入れていた。
「よぉし御苦労!また来るからな、貢ぎ物をしっかり用意しておけよぉ〜?」
「あらかじめ用意しとけばお互いラクだからなぁ〜!」
強面で筋肉質な男たちが、コンテナに詰めたわずかな略奪品をせっせと車輌に運ぶ。
これで本日は三箇所目の「奪りすぎない略奪」である。
「なぁ…オレたち、これでいいのかな…」
野盗の一人が、ふと己のアイデンティティに疑問を持つ。
いちおう持っている手斧は全く使い所がなく、所在なげに持て余している。
「バーカ、ボスが言ってたろ?ぜんぶ取っちまったらもうその集落から奪えなくなるってよ」
「生かさず殺さずがちょうどいいんだよ。そうすりゃいつまでも略奪し放題なんだぜえ?」
「お、おう、そうか…そうだよな……」
仲間の言に微妙に納得のいかない男とは対象的に、村人たちは特に不満もなさそうに受け入れている。なぜならば――
「ボス――!大変だ、東に行かせた偵察隊から連絡だ!」
車輌の一台が、慌ただしく入ってくる。
「東の集落のあたりに、別の野盗がうろついてるってよ!」
レオの顔色が変わる。
「なんだと!?許せん、この辺りの集落は俺たちのモンだっつってんだろうが!いくぞてめぇら!モグリの野盗共を追い払う!」
「おぅ!」
号令一閃、男たちが車輌に乗り込む。
砂煙を上げ、微妙なフラストレーションを高い戦意に変えて、彼らは次々に移動していった。
彼らはかなりマメに、周辺集落によりつく野盗やレギオンを警戒し、戦闘しては追い払い、略奪対象を維持する――結果的に、縄張り内のいくつもの集落をかなり清潔かつ堅固に護る形となっていた。
おかげで役に立つのか不明な義勇兵や、弾薬武装コストを抱える必要もなく、ただ生産に専念できる周辺集落はまったく食うに困らない生活を維持できている。
そんな『シュタインズ』の恩恵で、子育てを順調に進めている家さえ、何軒かあったのだ。
――これで収穫の15%は、安い。
安すぎる。
彼らを無言で見送る近隣集落の住民たちは、内心、皆そう思っていたのだった。
※※※
「どうだ?シマケン」
「そんなんで本当に分かるのかよ?」
「うーん…」
三人の中年男たちが、荒野の道脇に頭を寄せ集めている。
波打った蓬髪の男と、丸坊主の太く筋肉質な男。
対象的に、細く枯れ果てた印象の白衣の男。
彼らの視界の先には、地面に置かれた機械がある。
ディスプレイには何かの波長が映り、また本体側からは特殊な計測器がいくつか地面に突き立てられている。
彼らの脇には一台の、上部に大砲が据え付けられた大型の武装トレーラーが停めてある。
それは見る者が見れば、その防備も砲も一級品であることが見てとれるシロモノだった。
この時代では超高級な、暴力の化身である。
そして、それは彼ら自身も同様だった。
道楽と称し、武力をもって野盗を狩る者たち。
彼らの通った後には、いかな凶暴な野盗もその存在を消滅させられるという。
もはや人間離れと言っていい強さで知られる三人組――それが、彼らであった。
「間違いない。このままいけば、近隣の水場は壊滅的なダメージを受けるだろう」
「そうか…。いつもの野盗相手ならともかく、怪物が相手じゃオレたちだけじゃ厳しいな。手を組めるチームがほしいところだ」
蓬髪の男が立ち上がり、無精髭の顎に手を当てる。
「この近隣に『十分な組織的武力』を持ち、それでいて『話に乗って来そうなお人好し』チームでもあればいいのだが」
「そんなの都合よくいるわけねぇだろ。テッサンよ」
次いで丸坊主の男が、呆れながら立ち上がる。
「あーあ、疲れた。後ろで寝てるから運転頼むぜ」
「ああ、夜番ご苦労さんだったなヤーボン。オレがとりあえず、近所の集落まで運転する」
「そうだな。何処かに着いたら、共闘戦力の心当たりがないか聞いてみよう。…なにしろ」
白衣の男、シマケンが手早く測定機を回収する。
「このあたりの住人が全滅するかもしれない『非常事態』だからな」
危機感と義務感、そして同じくらいの高揚感を抱えながら。
三人を乗せた武装トレーラーは、土煙を上げて、荒野の果てへと消えた。
(続)
第一群第二章では過分なご評価をありがとうございました。
第二群のオッサンたちもどうぞよろしく。




